2022/06/10 再生医療

今回も、前回に引き続き、筆者らの細胞加工製品の製造コストに関する論文について解説する。

再生医療等製品の品質保証についての雑感【第38回】

細胞製造の運用設計 (2) ~ 自動化(機械操作)導入の費用対効果 その2 はじめに  今回も、前回に引き続き、筆者らの細胞加工製品の製造コストに関する論文について解説し、細胞加工製品の製品単価(CoG: Cost of Goods)削減の考え方について、雑感を述べさせていただきます。前回、本報における手操作と機械操作が予め示された工程の前提(① 入室、② 導入、③ 加工作業、④ 清浄化、⑤ 退出の作業によるサイクル)において、算出された製品当たりの要求コストが、両者においてほとんど差異が認められないことを示しました。では、前提が異なればどうなるのでしょうか。 ● 算出された手操作と機械操作の要求コストの内訳  前回の論文解説では、コスト試算において、機械操作(自動化)は手操作とそれほど差異が無いとお話ししました。ただ、これはあくまでも限られた条件における計算値であり、実際のケースをケースバイケースで考慮していけば、どちらにも大きく傾きます。  論文にも示しましたが、手操作と機械操作における初期費用、運用費用、維持費用の内訳は、図4に示すようになります。(論文で示した図はそれぞれのY軸スケールが異なりますが、本図では左右で比較できるように統一しています。)手操作での算出は、製造数や製造期間に依存せず、単純に作業者の時間単価に工数を掛けたものとしました。そのため作業者費用を含む運用費用がほとんどとなりますが、このとき、作業者は必要な細胞加工のスキルを有する必要があり、加工機関において教育訓練を受ける期間は製造に従事できず(遊休状態)、かつ作業者の作業を安定化するために必要な期間が長ければその間の教育訓練費用(指導者、実施場所、原材料費など)も大きくなります。これらを初期費用と考慮し、細胞加工に要する資源の総費用にできると考えました(左図)。対して機械操作の算出では、ライフサイクル期間の総コストを積み上げ、そこから割り振っています。ロボットアームを含む装置の設計や細胞加工動作のプログラムなど、ほとんどが初期費用で構成されますが、一方で、本条件ではロボットアームが無菌操作等区域(CPZ)内以外の作業を実施できない装置(設計)のため、導入や清浄化の作業を実施に必要な、細胞加工を行わない作業者1名分の運用費用が上乗せされます。   [https://fs.one-cmp.com/GMP_art_mizuguchi_20220608_1_10c76625c1.jpg] 図4 細胞加工作業に関わる製品当たりの資源要求 (左: 手操作/右: 機械操作)  

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2022/05/13 再生医療

細胞加工を機械化することの難しさや、限定的な適用範囲を前面に出したお話しをします。

再生医療等製品の品質保証についての雑感【第37回】

細胞製造の運用設計 (1) ~ 自動化(機械操作)導入の費用対効果 その1 はじめに  筆者は、紀ノ岡研究室にける活動の1つで、細胞加工製品の製造コスト評価を行っています。その中で、工程における細胞加工作業の機械化に必要なコストに関する研究課題について、当時大学院生だった中島健太郎氏と一緒に行ったのですが、その論文が2022年3月、Regenerative Therapy誌 [https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S235232042200013X?via%3Dihub]に掲載されました。せっかくですので、日本語での解説を兼ね、細胞加工製品の製造を機械化することの意義とその費用対効果の考え方について、雑感を述べさせていただくネタとして使わせていただきます。機械化の工程設計に関しては、第7回(再生医療等製品製造の再現性と工程操作の機械化)をご参照いただければと存じます。  今回は、先ず論文の結論から議論を開始し、次回に詳細を議論させていただきます。留意いただきたい点としては、筆者は、将来的に細胞加工の機械化は不可避であると考えております。だからこそですが、細胞加工を機械化することの難しさや、限定的な適用範囲を前面に出したお話しをします。 ● 細胞加工に関わる工程の作業構造解析と細胞加工操作の機械化における機械の役割  細胞加工製品の製造は、上流工程では、細胞培養(増幅・分化誘導)の変化(培養プロセス)に伴う、ほとんどの時間(工数)がインキュベータ内で維持された状態となりますが、その間は、装置(インキュベータ)が自動的に温調やガス濃度を調整しており、機械化および省人化を達成していると認識します。すなわち、細胞培養に関わる工程は、ほとんどの時間(工数)において、既に機械化かつ省人化を達成しており、ここで求められている機械化の対象は、培地交換や継代(環境調整等に関わる一時的な変動)に関わるような、無菌操作等区域(CPZ: cell processing zone)内での一定時間毎の作業のみとしました。具体的に、本報の検討では、高度な教育訓練によりスキルを維持する作業者に代わり、安定して再現性よく細胞加工操作を実施可能な、ロボットによる作業に置き換えることが対象です。他方、汚染源でありかつ高度な更衣管理とともに入室を要する作業者を完全に省くことを目的とするのは、培養容器あるいは工程資材・培地等の自動搬送など、細胞加工操作の機械化ではなく、搬送作業(物流)の「省人化」であるため、本報の(手操作と同等以上の品質実現で置き換える)機械化には含めてはいません。ただし費用対効果の考察は可能ですので、次回にてお話ししたいと考えています。  本報における検討では、現状で一般的なCPZ(グレードA)での開放操作を伴う細胞加工手順をモデルに、高度な細胞加工スキルを有する作業者を機械(ロボットアーム)に変更することに限定し、製品当たりの細胞加工操作に関わる必要なコストについて、リソース(投資)ベースで計算し、手操作vs.機械で評価を行いました。手操作あるいは機械操作の構成は、図1に示すように、細胞加工スキルを有する作業者2名で行う「手操作」の工程作業について、ロボットアーム1組と細胞加工スキルを有さない作業者(無菌操作スキルのみ)1名の「機械操作」に置き換えることで、それぞれの工程作業に必要な、初期費用(教育訓練費用・設計費用・機械製作費など)、運用費用(労務費、水光熱費)、および維持費用(定期点検、修繕費など)を合算し、10年間のライフサイクルコスティングにより、製品当たりの単価を算出しました。このとき特筆すべき点としては、細胞加工のスキルを有する作業者Bが、安定かつ再現性よく細胞加工を実施できるための教育訓練費(時間)は、作業者が必ずしも10年間雇用を継続できないことを前提に、10年間で要求される実労働時間に必要な雇用人数に対して積み上げています。

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2022/04/08 再生医療

細胞の保管・輸送について。

再生医療等製品の品質保証についての雑感【第36回】

細胞の保管・輸送 (2) ~ 細胞加製品のチャネル【PERSPECTIVE】 その1 はじめに  現状で承認された再生医療等製品は、そのほとんどが自己由来細胞加工製品であり、対象も希少疾患が多く、その流通は製造業者から医療機関への直送であり、量も決して多いとは言えません。他方、将来的に再生医療等製品を産業として発展させるには、医療機関における製品の使用量(売り上げ)が飛躍的に拡大しなければ、細胞加工およびその支援産業が成り立ちません。筆者は、極論ですが、企業が利益を得ることはそれに比例して多くの患者が助かっていることと同義であると認識します。より多くの人に再生医療等製品を利用してもらうためには、画一的ではない、それぞれの治療に合ったチャネル(経路)を議論する必要があります。本稿では、再生医療等製品を患者に届けるためのチャネルについて、自己由来細胞加工製品を除外し、ロットを形成する同種由来細胞加工製品に限定して、個人の妄想(笑)を、多くの見解(perspective)の中の1つとして述べさせていただきます。  筆者らは、阪大紀ノ岡研究室にて製造コストに関わる細胞製造設計のシミュレーション検討を行っていますが、例えば細胞治療(数千万個レベルの細胞数が投与される製品)の製造プロセスを自動化するには、年間数千例以上の臨床運用が継続的に実施されることが不可欠と考えます。そして事業化を検討するならば、そこにおける物の流れと、手順および人的資源(教育訓練レベル)を考慮することが最優先と考えます。本年度では、これらの物の流れと人的資源についても少々雑感を述べさせていただきます。当然、異論は多いと存じますが、笑って許していただければ何よりです。 ● 投与場所は病院かクリニックか  筆者は、細胞加工製品の製造を設計するときには、先ずコストパフォーマンス、次にスループットの向上可能性を検討します。製造要求する母数は、市場からのニーズに依存しますが、その根拠は治療対象となる患者の潜在数ではなく、治療を行う医療機関あるいは医師の、処理能力(手技に依存するものを含む)と、集客意思(治療対象の患者を募集する活動)に基づくと考えます。すなわち、対象となる細胞加工製品の投与が、病院で実施されるのかクリニックで実施できるのか、外科的に投与されるのか内科的に投与できるのか、年間投与数が多いのか少ないのかで、製品の保管や輸送などを含む、物流の考え方が大きく異なります。

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2022/03/11 再生医療

ロットを形成する製品の、下流工程(充てん・凍結)から保存(保管・輸送)までのプロセスをまとめて議論します。

再生医療等製品の品質保証についての雑感【第35回】

QBDを意識した工程設計の考え方 (7) ~ 下流工程その3 はじめに  ここまで、下流工程における設計の考え方についてお話ししましたが、細胞加工製品は、上流工程(培養)の終了時から患者への投与までの間、作業を重ねる度に品質(細胞の生存性)が顕著に下がり続ける製品です。またそれは凍結後の保存(保管・輸送)も同様で、一連と考えます。本稿では、ロットを形成する製品の、下流工程(充てん・凍結)から保存(保管・輸送)までのプロセスをまとめて議論します。 ● ロットを形成する製品の品質を確保する設計  ここまでロットを形成する凍結細胞製品の下流工程として、充てん作業、凍結作業についてお話ししましたが、この間、製品品質に相当する細胞の生存率(バイアビリティ)は不可逆にかつ劇的に低下します。凍結製品については、機能を回復させる培養組織作製の原料として解凍後再び培養に供する可能性も将来的には考慮されますが、現状の多くでは、バッグ形態でそのまま点滴あるいはバイアルからシリンジに移し替えて注入することで、そのまま投与することが前提です。すなわち、ロットを形成する凍結細胞製品は必ず、下流工程の充てん・凍結および保存により細胞生存率が一定量低下した状態が製品の品質規格に定められます。保存は、凍結後から出荷判定がおりるまでの間と、出荷後の保管・輸送(外工程)の間も継続します。もちろん、このときの細胞生存率は、以前(第11回)に紹介したように、アポトーシスのスイッチが入ってしまった(解凍後に自殺する運命の)生細胞を除く、活性(有効性)を有する細胞のみである必要があります。  凍結細胞製品は、下流工程の開始から患者への投与までで、図のように、上流工程が終了した時点で最大のポテンシー(P)を持った状態(P0)から、充てんおよび凍結工程を経ることで細胞生存性が低下し、ポテンシーが低減します。そのポテンシーの低減は、それぞれ、1) 充てん作業、2) 凍結作業。および3) 外工程を含む保存の作業において、一定の低減が予想されます。細胞に関わる管理すべきCQA(重要品質特性)が細胞生存性であると想定した場合、外工程の作業後におけるポテンシーが要求規格を満たすように設計を行う必要があります。 [https://fs.one-cmp.com/GMPP_art_mizutani_20220309_1_847ddecdad.jpg] 図.  下流工程の温度変動に伴う細胞生存性(製品品質)の低減イメージ  

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2022/02/10 再生医療

今回も引き続き下流工程の設計についてお話しします。

再生医療等製品の品質保証についての雑感【第34回】

QBDを意識した工程設計の考え方 (6) ~ 下流工程その2 はじめに  今回も引き続き下流工程の設計についてお話しします。ロットを形成する製品は、自己細胞由来製品、同種細胞由来製品を問わず、細胞を凍結する操作が不可避であると考えます。 ● 凍結作業  細胞加工製品は凍結を行わなければ保存できません。そのため細胞製品を凍結状態にするには、凍結作業は充てん作業と一連のものとなります。したがって、凍結作業のCQA(重要品質特性)は、先回の充てん作業でお示しした「活性を有する細胞数」を、充てんと凍結のプロセスを経た製品の目標品質として確保する必要があります。  さて、凍結細胞製品の製造では、上流工程において目的細胞を必要な数量にまで調製を行った後、前回お話ししたように、投与あるいは再調製に必要な数量に分注し、そのまま続けて、適切な条件で凍結を実施します。凍結作業では、細胞は、懸濁溶液を凍結保護剤に置換して、図のように、制御可能な温度降下速度にて、細胞内の脱水プロセスと氷晶形成プロセスを経て、適切に-80℃付近の温度帯へと移行します。このような凍結方法は、緩慢法と呼ばれるもので、水の凍結時における体積膨張に対応するため、予め細胞内の水分を排出させることにより膨張で生じる応力の影響を抑えること、および、氷晶形成による物理的な傷害に対応するため、形成される氷晶サイズを最小化することで氷晶による傷害の影響を抑えることを目的とした手順です。本法以外では、液体窒素下で一気に凍結状態に冷却することで応力と氷晶による影響を抑制するガラス化法がありますが、ロットを形成する大量の細胞製品を処理する方法としては発展途上であると認識しています。 [https://s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/fs.one-cmp.com/GMPP_art_mizutani_20220209_1_10d652fce2.jpg]

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2022/01/14 再生医療

下流工程設計で必要な品質確保要件とは。

再生医療等製品の品質保証についての雑感【第33回】

QBDを意識した工程設計の考え方 (5) ~ 下流工程その1 はじめに  前回までにお話をした、細胞製造の上流工程設計は、製薬開発と同様のQbD設計を行うのは非常に難しいと考えます。その理由は、時間とともに生じる細胞の変化(増幅・分化)に依存するアウトプットが治療の有効性(QTPP)と相関があることを説明するのが難しいからです。一方で、時間変化を伴わない遺伝子導入などはQbDによる申請が比較的容易に可能となり、実績もあると認識します。  下流工程は、前述の後者に相当しますので、原則としてQbD設計が可能であると考えます。 ● 下流工程設計で必要な品質確保要件  下流工程の工程設計をQbDにより実施するには、前提として、上流工程の遺伝子導入と同様に、実施(プロセス)のアウトプットが、CQA(重要品質特性)として定量的に評価できることが必要と考えます。我々は、以前(第11回)にお話しした通り、保管や輸送を含めた最終製品のCQAを「活性を有する(増殖可能な)細胞の数」に限定できると考えます。すなわち、細胞の氷晶形成などにおける物理的な破壊による死、あるいはアポトーシスによる自然死など、細胞の生死に関わるもののみとみなしています。ここでもし、製品品質に他の影響が生じる想定がされるならば、対応する評価基準が追加で必要となりますが、このとき、細胞だからと「未知のリスク」を定義すると何も進まなくなります。品質リスクマネジメントを適切に実施することが重要となります。  細胞製造の下流工程では、分離・精製、充てん、凍結の作業で構成されると認識しますが、製品が生きた細胞であるため、凍結プロセスに入るまでの作業は一定の時間範囲内で実施される必要があります。そのため、分離・精製に相当するプロセスはできる限り含まれないことが望ましいと考えています。細胞製造の分離・精製は、最終製品のポテンシャルを評価することは困難なため、主な目的は、目的外細胞種の除去であると認識します。その場合、目的外細胞種は上流工程において選択的に除去することが可能な場合が多く、セルソーターによる細胞選別にはできる限り時間を割きたくはないと考え、どうしても採用が必要な場合には、より高スループットな手段が望ましいです。  充てん作業は、全ての細胞製品において必ず必要となります。無菌操作法を採用する全ての製造では、充てん作業による無菌性の確保が製品の安全性に対する最大の留意点です。偶発的に混入した微生物を含む異物は、引き抜き試験での検出は困難で、バリデーションによる評価が必須となります。細胞製造では、これらの無菌性確保の手順構築に加え、上記の活性を有する細胞数(CQA)が安定して達成できる工程パラメータのデザインスペース設計が必要となります。  凍結作業は、製品を安定的に保存するためには不可欠で、特にロットを形成する製品では手順構築が必須となると認識します。凍結プロセスは、ほとんどの作業が人の手操作が加わらない機器で実施されますが、機器内においては、CQAに対する工程パラメータの制御が非常に難しいと認識します。

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