医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第67回】
有機溶媒抽出のこれまで
新しい医療機器の生安性通知が発出され、3か月ほど経過しましたが、皆さまのご対応はいかがでしょうか。
ご承知のとおり、実際の試験方法はISO 10993シリーズの各パートに従って実施するという大きな方向転換がありました。
日本はISO加盟国ですので、試験方法はISO 10993シリーズに従うことで問題はないのですが、表題に書きました「有機溶媒抽出」をどうとらえるかが悩みどころのひとつかと思いましたので、今回はこのことについてお話したいと思います。
これまで、有機溶媒抽出を採用していた試験方法は、感作性試験と遺伝毒性試験です。
被験物質が有機ポリマーの場合、アセトンやメタノール等の有機溶媒を用いて抽出し、抽出率が高い場合は、抽出物を集めてそれについて試験します。抽出率が低い場合は、試験項目によって対応が異なりますが、有機溶媒抽出液か別の媒体で抽出した液を用います。
下図に示したような取り組みが基本です。
*2: 小核試験、マウスリンフォーマTK試験
抽出率の多寡に応じて抽出法が決定していくという、それなりにわかりやすいスキームではないでしょうか。
このような方法は、かなり昔から国内ガイダンスで用いられた方法でした。
有機ポリマー、すなわちプラスチックは、生分解樹脂を除くと水に溶けたり、容易に加水分解したりする材料は一般的ではないと思います。身の回りを見ても、清涼飲料水の包材のほとんどはペットボトルですし、ウォーターサーバーしかり、吸水タンクやマンションの屋上の簡易専用水道の受水槽しかり、おおよその水を貯めるものはプラスチック製で、危険な包材という認識はないと思います(もちろん食品包材は食品衛生法で定められた規格を満たした材料なのですが)。一方、自動車やタンカーのタンクのほとんどは金属製で(最近の自動車は高分子ポリエチレン製が増えています)、灯油のタンクは樹脂製ではあるものの、一定の規格に適合した高分子ポリエチレン等です。ホワイトガソリンを樹脂の容器に誤って入れてグニャグニャに変形した経験がある方がいらっしゃるかもしれませんが、もともと合成樹脂は、石油化学製品と呼ばれるように、石油由来の有機樹脂ですので、あまりガソリンや有機溶媒には耐性がありません。
それなのに有機溶媒で抽出するなんてナンセンスだと、海外の方からはしばしば批判されてきました。
それにも関わらず日本は、なぜそこまで強い溶媒にこだわるかというと、その根拠となる背景が平成15年の生安性ガイドラインにあたる事務連絡医療機器審査No.36の感作性試験の項の参考情報に記載されています。ヒトでアレルギー性の接触皮膚炎の事故があった原因物質の製品中の残留量をもとに、それが100%抽出されたと仮定しても、ISO 10993-10:1995で指定されている生理食塩液及び植物油の抽出条件では、抽出液中の原因物質濃度が低く、試験では陽性にならないという考察です。したがって、そのような抽出条件ではなく、有機溶媒を用いて抽出物や抽出液を調製することにより、濃縮した条件で動物にばく露させることにより、感作性のハザードを検知すべきというものです。
現在でも、生理食塩液や植物油抽出の条件は、重量比で抽出する場合、医療機器1 gにつき、5 mLの抽出溶媒を用いることが多いので、もし、感作性原因物質が100%抽出されたとしても、抽出液中には原因物質が20%ほどの濃度でしか存在しないことになります。一方、有機溶媒の抽出率が5%の医療機器の抽出物を調製した場合(原因物質がすべて抽出されたと仮定すると20倍濃縮)、例えば抽出物を20%に溶解又は懸濁した試験液を試験系である動物に用いると、20倍×20%ですので4倍(400%)の濃度でばく露させることができます。抽出率が0.5%で抽出物だった場合は、この10倍の濃縮になりますので、4000%の濃度です。生理食塩液や植物油の抽出と比較して、それぞれ20及び200倍というかなりの高感度です。また、有機溶媒抽出でも抽出液の場合は、医療機器1 gに対して抽出液が1 mLになるよう調製しますので、100%の濃度ということになります。
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