2018/08/10 原薬

中国等海外原薬の品質確保と調達リスク回避の考え方【第8回・最終回】

8. 品質監査の考え方・進め方と留意事項(3) 8.1トレーサビリティーの確保 監査対象となる原薬が動植物からの抽出物などに由来する場合は、トレーサビリティーに関する記録の確認が必要となります。トレーサビリティーの確保は動植物由来原薬の安全性を保証する根拠として重要であり、昨今、患者の安全性確保に加え、企業のリスク管理の観点からも重視されてきていることは周知のとおりです。トレーサビリティー確保に向けての対応の詳細はここでは省略しますが、対応が必要となる原薬のリストアップやどこまで遡って関連の記録を収集・保存するかといったことに関し、考え方の整理を行うことがポイントになるでしょう。   8.2 その他の要確認文書 上記のほか、当該製造所のGMP認定やISO認証に関する書類、また、公的な試験機関などに業務委託している試験検査があれば、それに関連する記録の確認も信頼性確保の観点から重要となります。このほか、製造や試験検査の現場にも機器使用記録や清掃記録などを含め様々な手順書や記録が設置されていますので、そういった書類の確認も製造や品質管理の状況を知る上で大切となります。原薬の定量試験に使用する試薬や標準品の調製・使用に関する記録もその一つですが、これらについては、ラボツアーの際に現物に示されている使用期限表示等と合わせて確認するとよいでしょう。なお、標準品に関しては、万一、現物がない場合は購買伝票などを確認するのも信頼性を確認する一つの方法として有効となるでしょう。   8.3 部分精査から全体を推量する力量 時間に制約のある海外の監査においては、予期せぬことが発生し、予定した文書記録の確認が十分行えない状況になることも少なくありません。このような場合、限られた文書や記録の精査から全体の管理状況を推量する感性や力量が求められます。こういったケースでは、バリデーション、変更管理、逸脱/OOS対応、教育訓練といった特に重要な文書と記録を精査し、その結果から、全体の管理状況を類推し評価する必要があります。このように、海外監査では大局視点と要所を押さえた柔軟な対応が求められることから、監査員の育成にあたってはこういった点にも留意し、監査姿勢等の指導を行うことも望まれます。   8.4職員の資質、組織力 海外製造所の監査においては、施設設備、文書記録に加え、人的資源、すなわち、製造、QC/QAなどのマネージャーやリーダークラス、さらに製造現場の作業者の資質や力量をよく観察し評価することも大切です。数ロットのサンプル評価で品質に問題のないことが確認できたとしても、それを継続して安定的に製造・供給できるかどうかは、ひとえに、関連の業務に携わる職員の資質にかかっています。この点から、彼らが必要な資質を備え信頼に足るかどうかといった視点からの評価・判断は非常に重要と考えられます。   現地に赴き監査を進めるにあたっては、一連の監査の中で、常にこの点にも留意して進めることが大切です。 たとえば、休憩時などに、製造所の会議室や廊下の掲示物に目を転じて、掲げられているスローガンの意味を尋ね、原薬製造や品質確保に対する彼らの意気込みやポリシーを聞き出すことも一つの方法です。また、食事を共にする機会があれば、雑談を通して彼らの人柄の一端を垣間見ることもできるでしょう。こういったことは、職員の資質や組織力を評価する上で参考になります。   このように、採用決定後も継続して所定品質の原薬を確保するためには、文書記録の整備状況や設備機器の維持管理の状態などの確認に加え、職員や組織の資質や力量の確認も欠かせません。特に、品質トラブル発生時に、円滑なコミュニケーションを確保し、迅速かつ的確に改善対策を講じるためには、監査の折に、品質部門や製造部門のリーダーの人柄や資質を確認しておくことが必要と考えられます。

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2018/07/13 原薬

中国等海外原薬の品質確保と調達リスク回避の考え方【第7回】

7. 品質監査の考え方・進め方と留意事項(2) 7.1 文書記録の確認の効率的な進め方 GMP文書および記録は原薬の品質保証の基礎となるものであり、日ごろの製造および品質管理に関する業務の全容がここに集約されていると言っても過言ではないと思います。この点において、文書・記録の監査は大変重要な業務と言えます。しかしながら、海外製造所の監査においては、十分な時間が確保できない上、言語の問題もあり、段取りが悪いと満足な監査ができません。こういう状況の中で、いかに効率的、効果的に監査を行うかというのが監査担当者の課題となります。   通常、チェックリストに沿って個々のGMP文書・記録の有無とその内容の確認を進めますが、時間的制約からすべての項目の精査は難しく、どうしても表面的な確認になりがちです。その結果、重大な問題を見落とす可能性も否めません。そこで、効率よく確認できて、しかも重大な問題を見逃さない方法が必要となる訳ですが、その方法としては、一連の文書記録から事前に重要な文書と記録をリストアップしておき、GMP要件とされている文書と記録がすべて漏れなく整備されている(重要な文書・記録の欠落がない)ことを確認した後、リストアップした文書と記録について精査するという方法が一般的ではないでしょうか? なお、文書リストを事前に入手しておくと、必要文書の有無確認の時間が節約できます。   重要な文書・記録としては、出荷判定、変更管理、逸脱管理、教育訓練などの手順書、製造記録、試験検査記録、バリデーション、防虫対策、標準品の管理、分析機器の校正、規格外試験結果(OOS)対応などの記録が挙げられます。なお、教育訓練に関しては、試験検査員に関する資格認定制度やその運用状況に関する手順書や記録を確認することにより、職員の技量をより的確に把握することができ、その工場の製品品質の信頼性を量る上の参考になるでしょう。また、不適合事象を総括的に評価し、是正措置と予防措置を講じるCAPA(Corrective Action Preventive Action)システムの構築とその実施状況に関する手順や記録も、品質トラブルの全容や傾向の把握に役立ち、その工場の改善対応のレベルを知る上で有効です。   7.2 年次報告書の活用 文書記録の確認を効率的に進めるもう一つの方法として、年次照査報告書(Annual Review)の活用があります。欧米に輸出実績のある原薬工場では年次報告書がGMP要件とされ整備されているので、重大な逸脱や品質に影響を及ぼす重要な変更の管理は、必ず年次報告書に記録されています。何らかの理由で、予定していた時間が十分とれなかった場合などは、年次報告書をベースに重要事項を確認するとよいでしょう。 7.3チェックリストの活用とメリハリのある監査 日本に輸出する原薬を製造する海外の製造所は、基本的に日本のGMP省令に適合する必要があります。 また、原薬の場合は原薬GMPガイドライン(ICH-Q7)への適合も求められることから、これとの整合確認も必要となります。従って、監査のチェックリスト作成にあたってはこれらの要求事項がすべて包含されていることが必要となります。その上で、監査に際してはこれを有効に活用する方法が求められる訳ですが、時間に制約のある海外監査では、チェックリストに忠実すぎると上記のような文書記録に関する確認ミスの可能性もあり、また、施設の実地確認においては、異物混入につながる衛生管理上の重大な問題の見落としなども懸念されます。従って、海外製造所の監査に使用するチェックリストは、上記のような基本となるチェックリストに少し手を加え、重要な確認項目にチェックを入れるなどのひと工夫を行い、メリハリのある対応を行うと、より効率的で有益な監査が実施できるでしょう。

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2018/06/08 原薬

中国等海外原薬の品質確保と調達リスク回避の考え方【第6回】

6. 品質監査の考え方・進め方と留意事項 6.1 製造所監査のフローと留意事項 監査の実施にあたっては概ね下記のような事項に留意し進めるとよいと思われます。   ①監査の申入れと伝えるべき事項   ②監査計画の立案と事前準備   ③プラントツアーの重要性と視点   ④文書及び記録の確認の要点   ⑤チェックリストの活用とメリハリのある監査   ⑥効果的な監査手法と幹部職員の資質の確認   ⑦カントリーリスクへの留意   ⑧指摘事項の報告と信頼関係の構築   ⑨フォローアップと継続的なコミュニケーション   ⑩中国の原薬製造所監査と使用言語   ⑪通訳の重要性と資質   ⑫中国語の物質名の確認   6.2 監査の申し入れと伝えるべき事項 海外製造所の品質監査を行う場合も国内製造所の場合と同様に、先ず、製造所に監査の申し入れを行う必要があります。これに関しては、多くの場合、当該原薬の紹介を受けた商社にアレンジをお願いすることになりますが、事前にこちらの希望日程、訪問メンバー等に加え、訪問日前後の行動予定などについても、差支えのない範囲で商社の方に連絡しておくと、調整がより円滑に進みます。日程の調整がつけば、目的等と合わせて正式文書として提出することになります。 監査申し入れを行う段階では、製造所の周辺情報の収集・評価を終え、監査目的に応じて監査概要・要点などの整理を行う必要があります。 ちなみに、監査には大きく、当該原薬の採用前の監査、すでに使用している原薬に関する定期監査および品質問題が発生した際に行う監査(For Cause Inspection)の3つのケースがありますが、監査の準備はこれら監査の目的に応じて、要件を整理し行うことになります。 ちなみに、化粧品原料に関してはGQP省令において製造所監査が義務付けられていませんが、機能性を期待する重要な代替原料のような場合は、原薬と類似した手順を踏むことが望まれます。  

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2018/05/12 原薬

中国等海外原薬の品質確保と調達リスク回避の考え方【第5回】

5. 製造所監査に先立つ情報共有 5.1 共有すべき情報と共有の考え方 海外原薬の導入検討を行うにあたり、先に述べた品質評価と同様に重要となるのが製造所のGMP監査ですが、これを効率的かつ的確に進めるためには、事前に日本の薬事GMPの規制に関する情報を提供し要点を説明しておく必要があります。GQP省令(医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の品質管理の基準に関する省令:平成16年9月2日、厚生労働省令136号)及び、GMP省令(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令:平成16年12月24日、厚生労働省令第179号)はこれら規制の中心になるものであり、GQP省令は品質契約の締結や製造所のGMP監査(GMP実施状況の定期確認)の必要性を説明する際の根拠法令であること、また、GMP省令は海外製造所の場合も、日本の行政査察は、この日本のGMPを法的根拠として査察が実施されることを説明する上で重要です。    海外の製造所の場合は、当然ながら、その国のGMP規制が適用され、これを基本に日々の製造管理、品質管理が実施されているので、PIC/S-GMPにハーモナイズされてきている現在でも、実態として、細部ではその国固有の規制内容で運用されている部分がある可能性もあります。従って、上記のように日本のGMPに基づいて監査を進める必要があることを説明し理解を得ておかないと、監査の段階で予期せぬトラブルになりかねません。また、原薬製造所に関しては世界標準であるICH-Q7「原薬GMPガイドライン」への適合性確認も必要となるので、チェックリストを作成する場合などは、これら双方の要求事項が確認できる内容で整備しておく必要があります。ちなみに、ICH-Q7は、日本では、「原薬GMPのガイドライン」(平成13年11月2日、医薬発1200号)として通知が発出されているのは周知のとおりです。このほか、監査先製造所への提供が望まれる重要な規制情報としては、外国製造業者認定、GMP適合性調査、原薬等登録原簿(MF)、および、国内管理人などに関する事項がありますが、単に、規制の要点を説明するだけでなく、それぞれに、原薬の貿易業務や品質確保を円滑に進める上で、どういう点で重要であるかということを、事例を交えて説明することが望まれます。   また、原薬の品質評価から採用までの業務フローについて、その概要を周知しておくことも大切です。特に、代替原薬の採否判断に要する品質評価の内容と所要時間を知らせておくことは重要です。これにより、監査以後に発生する重要業務のプロセスとそれに要する時間が先方に理解されるだけでなく、採否の最終判断の根拠や考え方もより的確に伝えることができ、採用に至らなかった場合でも先方の理解が得やすくなるでしょう。   5.2 GMP監査当日の再確認 上記のように、薬事規制を中心とした情報をGMP監査に先立ち周知しておくことが、監査を効率的に進める上で大切となりますが、特に重要な事項に関しては監査当日も会社概要説明の後などに、原薬導入の一連のプロセスとの関連に絡めて確認しておくと、先方もそれらをより身近なものとして理解してくれるでしょう。メールでの情報共有は一方的であり、関係者のどれだけの方がそれを確認しているか分からないので、関係者が一堂に会する場で少し時間をとり出席者の反応を見ながら説明することは非常に大事なことと言えます。   具体的には、製造販売業と製造業の二業態の関係に基づく品質保証体制を基礎に、製造販売業者の責任、GMP監査を行う必要性、新規に原薬を採用する際に必要となる薬事手続き、原薬の製造管理とMF登録の関係、品質契約の締結や外国製造業者認定取得の必要性などを、原薬導入のタイムスケールに関連付けて概説するとよいでしょう。これらに関し簡潔にとりまとめた資料を作成し共有しておくことで、それ以後の監査を含む一連の業務もより円滑に進むと思われます。 なお、上記のような規制情報のほか、事前共有が必要な事項としては、導入対象の原薬に固有の品質事項(例えば、所定規格外の物性要件)などが挙げられます。

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2018/04/06 原薬

中国等海外原薬の品質確保と調達リスク回避の考え方【第4回】

4.1 ジェネリック医薬品の使用促進策とオーソライズドジェネリックの投入 政府のジェネリック医薬品(以下「ジェネリック」)使用促進策の下、ジェネリックの使用率は増加の一途を辿り、平成23年9月の40%から平成29年9月には66%と順調な伸びを示し、平成32年9月の目標である80%達成も視野に入ってきました。この状況下、ジェネリックには中国やインドの原薬が多用されている現状から、その品質確保の重要性は、特に生物学的同等性の確保の観点から、今後さらに高まると考えられます。一方、ご承知のように、ジェネリック市場に、「オーソライズドジェネリック; Authorized Generic」(以下「AG」)の投入という新しい動きが出て来ています。抗アレルギー剤の「ベポタスチンベシル酸塩口腔内崩壊錠10mg」(一般名)などはその代表的なものですが、先発医薬品の販売名「タリオンOD錠10mg」(田辺三菱)に対し、AGでは「ベポタスチンベシル酸塩OD錠10mg「タナベ」(ニプロ)の販売名で今年3月より市場に供給されています。   AGはご承知のように、先発医薬品と同じ原薬、添加剤、製法により製造され、製剤の形状など外観も同等、いわば、“完全コピー“とするにすることにより、薬剤の溶出プロファイルの経時変化を含めた品質の安定性や生物学的同等性、すなわち、有効性、安全性に関し先発医薬品との同等性保証のレベルが、通常のジェネリックに比べ高いと考えられることが売りであり、今後、ジェネリック市場において重要な存在になると考えられます。ジェネリック市場が伸長する一方、新薬メーカーは新薬開発に多額の費用と長期間を要する現状に鑑み、先発ならではの強みを生かし、このような差別化を基礎に中堅製薬企業と連携し、ジェネリック市場でのシェア獲得を狙おうとの意図が窺えます。薬価は二分の一程度になるものの、確たる競争力の下、伸長するジェネリック市場で一定の存在感を示すことが期待されます。今後、大きな市場シェアを獲得した優れた新薬はAGとして生まれ変わり、ジェネリック市場に投入されるというのが一つの流れになるでしょう。   4.2 ジェネリック医薬品の代替原薬と品質確保 こういう状況の中、既存のジェネリックメーカーは、錠剤を小さくする、口腔内で溶け易くするなど、超高齢化社会を視野に入れ、服用のし易さなどをアピールするための製剤学的修飾による差別化にさらに拍車をかけると同時に、中国やインドの低コストの原薬を品質確保して使用することのメリットをさらに追及することも重要な課題になると思われます。このときに最も重要になるのが、先発医薬品との経時安定性を含めた生物学的同等性の確保ではないでしょうか? 先般、PIC/S-GMPへの調和により、「安定性モニタリング」がGMPの実施事項として要件化されましたが、その後、安定性モニタリングに際する溶出試験の規格不適合を理由に医薬品の回収が行われている事例が散見されます。   先発医薬品との生物学的同等性の根拠となる溶出試験への適合性確保は、ジェネリックメーカーにとって当該医薬品の有効性・安全性の保証に直結する最も重要な品質課題であり、万一、これに問題があると懸念された場合、市場競争力に大きな影響を及ぼすことになります。   原薬は日本薬局方など所定の規格に適合しても、製造方法の違い(合成方法、晶析条件、純度など)により溶解性など物性が微妙に異なる場合がありますが、こういった微妙な物性の差異が薬剤の溶出性にバラツキを生じ生物学的同等性に影響を与える可能性が考えられます。また、この僅かな差異が製剤の経時変化により少しずつ拡大し、最悪の場合、医薬品の有効期限に達する前に溶出試験が承認規格を外れるという事態を招くこともあり得ます。勿論、溶出性は原薬のみならず、添加剤や製造方法を含む製剤全体の特性に依存しますが、先ずは原薬自体の物性の評価・確認が重要であることに変わりありません。特に、ジェネリック医薬品の剤形の多くが錠剤であることから、原薬の溶解性に加え、錠剤の崩壊牲など、薬剤の溶出性に関係する様々な要素、製剤特性に関し慎重に検討を行い、製剤トータルとして、経時安定性を含めた溶出試験の規格適合性の確保が重要となります。

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2018/03/30 原薬

医薬原薬の製造【第31回】最終回

序 医薬原薬の製造について自分が今まで勉強して事をGMP platform のHPに掲載し、技術者の参考にしていただこうという思いから、このシリーズを書いてまいりました。業界の方々から、「あの記事見てますよ。参考にさせていただいてます。」という話をいただくことも時々あり、この記事を書いて来てよかったなと思っています。   さて原薬の製造シリーズですが、ネタ切れになってきました。今回、紹介する減圧蒸気加熱・冷却についてを最後に、完結しようと思います。今まで小生の記事を読んでいただいた方々に深く感謝いたします。 蒸気による加熱と温水加熱 プラント装置の加熱には、蒸気と温水が用いられます。蒸気による加熱は、蒸発潜熱を利用します。蒸気は、境膜伝熱係数が水に比べて非常に大きくなり、熱伝導の指数である総括伝熱係数は、蒸気では温水よりもかなり大きくなります。従って、蒸気加熱は、温水よりも圧倒的に速いですし、また槽全体を均一な温度で加熱することができます。温水ですと、反応槽ジャケット入口と出口では温度が変わってきますし、蒸気並のスピードで加熱しようと思うと、莫大な流量が必要になってきます。このように蒸気は非常に優れた熱源です。しかし蒸気は常圧、加圧下では100℃以上ですから、100℃以下の加熱に使用するには、使い勝手が良くありません。反応槽を40度以下に温度をコントロールする場合、蒸気はほとんど使われず、温水が用いられます。   そこで、反応槽を100度以下に加熱することを考えてみます。   温水を熱源として加熱する場合、ΔTが蒸気(100度以上)よりも小さくなりますし、また総括伝熱係数が蒸気に比べて下がりますので、室温から設定温度まで加熱に要する時間は、蒸気に比べて相当長くなります。スケールアップの際は、伝熱面積/槽容量が槽サイズ(寸法)の逆数に比例して小さくなりますので、温水加熱による加熱時間の延長は大きな問題になります。   スケールアップの際の加熱時間を短くするために、初期は蒸気(100度以上)で加熱し、内温が一定温度以上に達したら、熱源を蒸気から温水に変えるということも行われています。この方法は、加熱時間を短くすることが可能になりますが、槽表面の局所では、設定温度以上の温度になって副反応を起こしたり、また槽内温度が設定温度以上に上がりすぎたりするリスクがあります。特に内温を厳密に管理する必要がある場合、スケールアップが非常に難しくなります。   ここで、100度以下の加熱に、減圧蒸気を用いる方法があることをご紹介したいと思います。蒸気を真空ポンプを使って大気圧以下にしますと、100℃以下の蒸気を作ることができます。圧力をコントロールすることで、ジャケットを100℃以下の温度で均一にコントロールすることができます。このような装置が国内で販売されています。2社取り扱っているようです。(下記)海外でも製造しているメーカーを探したのですが、見つかりませんでした。EUで取り扱っている会社があったのですが、日本製の機械でした。この装置は、日本発祥の装置だと思われます。化学工学の専門家でも、こんな加熱方法があることをご存知ない方が多いです。このように減圧蒸気加熱はポピュラーな機器ではありませんが、なかなか興味深い機器なので紹介したいのです。    新栄技研  http://www.shin-ei-giken.com/prod_vs.html [http://www.shin-ei-giken.com/prod_vs.html]  TLV   https://www.tlv.com/ja/catalog/news50j.html [https://www.tlv.com/ja/catalog/news50j.html]   話しはそれますが、上記のTLVというメーカーのHPには、蒸気や化学工学についての勉強部屋があって、非常に面白い内容が紹介されています。工場設計に携わる方、プロセス化学の専門家などにお勧めのサイトです。GMP platform のHPと合わせてご覧いただくことをお勧めします。   さて、100度以下の蒸気加熱、の温水加熱に対するメリット、デメリットを考えたいと思います。まずはメリットから。   1. 蒸気の圧力調節により温度(100度以下)を簡単に変えることができる。 (温水加熱の場合も、蒸気と温水をミックスして製造するならば混合比を変えるだけでコントロールできるので大きなメリットとは言えないかもしれません。) 2. ジャケットのどこの部分も同じ温度(沸点)にすることができ、均一加熱が可能。 (温水加熱の場合は、ジャケット入口と出口の温度が異なり、均一ではなくなります。) 3. 蒸気の凝縮熱は非常に大きいので、温水加熱に比べて急速な加熱が可能。スケールアップの際の加熱時間を延長を避けることができる。 (総括伝熱係数Uが大きい)   一方デメリットは、   1. 蒸気の熱容量が小さいので、内温が上がり過ぎた場合、蒸気の温度を下げてもほとんど冷えない。過熱が生じた場合は、減圧蒸気から、温水もしくは冷水による冷却が必要。温水加熱の場合は、冷水に切り替えるだけで冷却ができる。 (これは大きなデメリットとは言えないでしょう。) 2. 蒸気を冷却し、真空ポンプ(エジェクター)によって、減圧蒸気を発生させる装置が必要なので、設備費がかかる。温水加熱の場合、蒸気と水を混合して温水を作る装置を使うが、この方がかなり安い。 (これが一番のデメリットでしょう) 均一加熱、急速加熱が可能という減圧蒸気は、スケールアップした際に役に立つものです。多くの開発担当者が、反応槽内の温度均一性が保てないため、スケールアップしたときに、反応収率が悪くなるという経験をしています。そういう意味で、このメリットは大きなものかと思います。ただし、温度が上がり過ぎた場合の対処がかなり難しいし、設備費もかかるというデメリットもあります。 次に、真空蒸気をどのように発生させるのかその原理を紹介し、システムの限界、問題点、その解決方法等について議論します。

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