前回は、新薬事法細則(Decree 54/2017/ND-CP)のポイントのうち、外資による医薬品輸入業での進出について検討しました。
今回は、日本からベトナムへの医薬品輸出に関する新薬事法上の改正のポイント、外資のベトナム駐在員事務所におけるMRの雇用の可否、その他の新薬事法細則による実務への影響等について解説します。
1 ベトナムへの医薬品輸出に関する改正のポイント
日本を含むベトナム国外で製造された医薬品をベトナムに輸出する場合、従前は、Circular 17/2001/TT-BYT(Circular 17)が適用されました。
Circular 17は、医薬品の輸出者に対して、医薬品事業活動登録を行うことを義務付けており、医薬品事業活動登録にあたっては、1)輸出国において適法に設立され医薬品の製造又は販売を行う法人であること、2)ベトナムの医薬品輸入業者との間で輸出入契約を締結していること、3)輸出国において医薬品の製造又は販売につき3年以上の実績を有することなどが要件とされていました(Circular 17第5条)。
新薬事法の下では、Circular 17に代わってDecree 54第91条15項が適用されます。Decree 54第91条15項は、上記の医薬品事業活動登録という手続を規定しておらず、その代わりに、ベトナム国内の医薬品輸入業者と輸出入契約を締結できる主体を、1)医薬品の製造業者、2)輸出国における医薬品の製造販売承認の取得者、3)ベトナムにおける医薬品登録の申請者又は4)ベトナムにおける医薬品輸入業許可等の取得者に限定しています。
当該改正について、医薬品事業活動登録制度の撤廃により、輸出国における3年以上の製造又は販売実績という要件が撤廃されている点は外資に対する規制緩和と捉えることができます。
他方で、Decree 54の上記規定をふまえると、医薬品の製造業者又は製造販売承認の取得者に該当しない医薬品卸売企業は、ベトナムにおける医薬品登録の申請者となるか 1) 医薬品輸入業者としての許可を取得しない限り、ベトナムに医薬品を輸出できないことになると考えられます。Decree 54の施行により、医薬品卸売企業によるベトナムへの医薬品輸出事業が制限される結果となったと解される点に留意する必要があります。
1) ベトナムにおける医薬品登録の申請者となるためには、新薬事法第54条3項に基づき、当該申請者が医薬品販売事業を行っていること及びベトナムに駐在員事務所を設立していることが要求されます。したがって、医薬品卸売企業であっても、ベトナムに駐在員事務所を設立し、当該駐在員事務所をもって当該医薬品に係る医薬品登録を申請することにより、ベトナムへの医薬品輸出が可能となると考えられます。
前回まで、医療分野でのベトナム進出に関する法規制の内容を検討しました。
今回からは、2017年7月1日より施行されている新薬事法細則(Decree 54/2017/ND-CP)のポイントについて解説します。
1 新薬事法(Law 105/2016/QH13)に基づく改正のポイント
まず、Decree 54の内容に入る前に、その前提となる新薬事法(Law 105/2016/QH13)のポイントについて確認したいと思います。新薬事法は、2017年1月1日から施行されており、以前の連載記事「ベトナム医薬品・医療機器分野への進出に関する法規制」第3回 1) では、新薬事法に基づく改正のポイントについて、以下のとおり整理しています。
1)医薬品登録時の臨床試験の免除に関する5年要件の撤廃
2)OTC医薬品のスーパーマーケット等での販売解禁
3)政府調達等の際に国内製造の医薬品を優先
4)外資企業への医薬品輸入業の解禁
上記のうち4番目のポイントについて、以下のような事情が背景としてありました。
すなわち、ベトナムは、2007年のWTO加盟時に批准したWTOコミットメントにおいて、国内市場の外資への段階的な開放を約束していますが、医薬品輸入業(医薬品をベトナム国内に輸入し卸売業者に販売する事業)については、2009年1月1日以降の市場開放を約束していました 2) 。しかし、2009年以降も、外資企業が医薬品輸入業を行うための要件や手続を規定する国内法が一向に制定されず、ベトナム国内法の不備により、医薬品輸入業が事実上外資に開放されないという状況が続いていました。
この点、新薬事法及び同法施行直後にパブリックコメントのために公開されていたDecree 54の草案において、外資企業による医薬品輸入業を許容するものと思われる規定が存在し、Decree 54の施行による医薬品輸入業の外資への解禁が期待されていました。
その後、2017年7月1日より、外資による医薬品輸入業の許可要件やその申請手続を規定したDecree 54が施行されており、当該Decree 54によって上記国内法の不備が是正され、WTOコミットメントに従った外資への医薬品輸入業の開放が実現されたものと評価されています。
2) 他方で、医薬品流通業(ベトナム国内での医薬品の卸売及び小売業)については、WTOコミットメントに
おける市場開放の対象から除外されており、現在でも外資への開放は予定されていません。
医療分野でのベトナム進出について、前回の連載ではWTOコミットメントに基づく外資規制の内容について確認しました。今回は、ベトナムでの医療機関の開設にあたって必要な手続、要件等を検討します。
1 現地法人の設立
ベトナム国内で医療機関を開設するためには、当該医療機関の運営主体として、まず現地法人を設立する必要があります。
当該現地法人の設立にあたっては、Law67/2014/QH13(投資法)及びLaw68/2014/QH13(企業法)に基づき、投資登録証明書(IRC)及び企業登録証明書(ERC)の取得が必要となります。この点、IRCは外資企業によるベトナムへの投資許可に該当し、ERCは日本における法人登記に該当するものと言えます。
IRCの取得手続においては、ベトナム計画投資局に対して、開設する医療機関の事業計画、予定される人員・設備等の内容、現地企業との合弁会社とする場合には合意契約書1)等を提出する必要があります。投資許可に関する実質的な判断はIRCの取得段階において行われますので、法人登記に該当するERCの発行はより形式的な手続となります。IRCの取得段階においては、所管の人民委員会や計画投資局との間で、投資計画の内容やその実現可能性等について協議を重ねながら慎重に手続を進めていく必要があります。
2 医療機関運営許可の取得
現地法人の設立後、当該現地法人において、医療機関運営許可を取得する必要があります。医療機関運営許可の発行主体は、計画投資局ではなくベトナム保健省となります。
Law40/2009/QH12(診断治療法)第42条、第43条及び第46条に規定されている医療機関運営許可の申請書類として主なものは、以下のとおりです。
1)医療機関の運営を事業内容とする現地法人のIRC
2)医療従事者のリスト
3)各医療従事者の医療従事証明の写し
4)法定条件を満たす十分な人員及び設備を備えていることを示す説明書類
5)医療機関の組織・運営に関する規程類
上記3)の医療従事証明の取得に関連して、ベトナム国外の医療従事者(日本人医師等を含みます)がベトナムにおいて医療サービスを提供する場合には、診断治療法第19条及び第23条並びにDecree109/2016/ND-CP(医療従事証明・医療機関運営許可に関する政令(本政令))第6条等に基づき、ベトナム国外における医療資格証明書や無犯罪証明書等の提出に加え、当該医療従事者がベトナム語を流暢に話せることが要求されます。
このベトナム語要件をクリアするためには、ベトナム語により実施された12か月以上のトレーニングプログラムを完了していること、ベトナム国内の大学等が行うベトナム語認定試験に合格していることなどが要求され(本政令第17条)、これをクリアすることは実務上非常に難しいものと思われます。
通訳人を利用することにより医療従事者自身へのベトナム語要件の適用を回避する方法もありますが、当該通訳人についても、語学能力だけではなく、医学に関する学位の取得や所定のトレーニングプログラムを修了していることなど、一定の医学知識を有していることが要求されており(本政令第18条)、そのような人材を確保することは容易ではないと思われる点に留意する必要があります。
1) 外資規制の部分で検討したとおり、外資100%による医療機関の開設が可能ですが、
ビジネス上の判断として現地パートナーとの合弁を選択する可能性は十分にあると思います。
はじめに
ベトナムは、2016年時点で約9270万人とASAEN諸国の中でもインドネシア及びフィリピンに次ぐ人口規模を有しており、単なる製造拠点としてだけではなく、昨今、国内マーケットをターゲットとした小売業、サービス業といった分野での外資による進出も増えています。また、堅調な経済成長に伴う中間所得層、富裕層の拡大により、ベトナム国内でも高品質な医療サービスを求める声が高まっています。
このような状況をふまえて、日系医療法人によるベトナムの現地医療機関との技術協力契約の締結といった事例も出てきており、将来のベトナムでの医療機関開設に向けて検討を開始している医療法人も多いのではないかと思います。そこで、本連載の前半では、医療分野でのベトナム進出において留意すべき法規制について検討いたします。
また、2017年1月1日よりLaw 105/2016/QH13(新薬事法)が施行されていますが1)、当該新薬事法に基づく細則であるDecree 54/2017/ND-CP(新薬事法細則)が2017年7月1日から施行されました。本連載の後半では、新薬事法細則の施行によるベトナム国内の医薬品事業への影響など、そのポイントを解説いたします。
1 医療分野でのベトナム進出に関する重要法令
医療分野でのベトナム進出にあたって、特に留意すべき法令は以下のとおりです。
・Law 40/2009/QH12(診断治療法)
・Decree 109/2016/ND-CP(医療従事証明・医療機関運営許可に関する政令)
・Circular 41/2011/TT-BYT(医療従事証明・医療機関運営許可に関する通達)
診断治療法は、医療機関の開設、医療行為の提供といった事項に関する基本的な法律であり、患者、医療従事者及び医療機関の権利義務、医療従事者のライセンス、医療機関の開設許可、医療過誤事件における紛争解決手続といった様々な事項を規定しています。
医療従事証明・医療機関運営許可に関する政令(本政令)及び通達(本通達)は、それぞれ診断治療法に基づきベトナム政府及び同保健省により制定されたものであり、診断治療法が規定する事項の中から、特に医療従事者のライセンス及び医療機関の開設許可について定めた細則です。医療分野でのベトナム進出を検討するにあたっては、本政令及び本通達の内容を確認し、医療従事者のライセンス及び医療機関の開設許可に関する要件、取得手続等を確認していく必要があります2)。
上記の他に、ベトナムの国内法令ではありませんが、医療分野でのベトナム進出に関する外資規制を確認するために、いわゆるWTOコミットメントの内容を確認する必要があります。外資規制やWTOコミットメントの詳細については、次ページに記載のとおりです。
1 医療機器輸入業に関する法規制
医療機器分野でのベトナムへの進出形態について、前回の連載では、
1)ベトナム国内に製造拠点を設けて医療機器を製造し、ベトナム国内で販売する。
2)ベトナム国内に拠点を設け、自社又は他社製造の医療機器の輸入元となり、輸入
した医療機器を販売する。
3)ベトナム国内に拠点を設けることなく、ベトナム国外で製造した医療機器を現地
の輸入代理店に輸出する。
4)医療機器の製造、販売等を行う現地企業に対して資本参加する。
との選択肢があることを確認したうえで、上記1の進出方法に関連する法規制を検討しました。引き続き、上記2、3及び4の進出方法に関する法規制について検討します。
医療機器輸入業での進出(上記2の進出形態)にあたっては、製造業での進出の場合と同様に、まず医療機器輸入業を事業目的とする現地子会社を設立する必要があります。その際、Law 67/2014/QH13(企業法)に基づく有限会社を法人形態として選択するのが一般的であること、有限会社の設立にあたって、投資登録証明書(IRC)及び企業登録証明書(ERC)の取得が必要となる点も同様です。
但しこの点、投資登録証明書(IRC)の取得の際に、外資企業による輸入販売業に関するライセンスを受ける必要がある点に注意が必要です(Decree 23/2007/ND-CP)。製品の輸出入、卸、小売といった貿易・流通業については外資規制が存在しており、外資企業が同分野に対して投資を行う際には、投資登録証明書の取得に加えて、Decree 23に基づくライセンスの取得が必要となります。なお、当該ライセンスは、医療機器輸入業であることに着目した規制ではなく、外資企業による貿易・流通業への進出に関する一般的な規制です。
上記のとおり現地子会社を設立したうえで、医療機器に関する業規制として、Decree 36に基づく医療機器の販売ライセンスを取得する必要があります。Decree 36に基づくDeclaration of Eligibility to Trade Medical Equipmentが当該販売ライセンスに該当し、1)医療機器の設置及び使用方法について十分な知識を有する専門技術者を有すること、2)医療機器の保管及び運送のための適切な設備を有していること又は第三者との契約によりこれらのサービスを提供可能であることが許可要件となります(Decree 36第37条及び38条)。なお、最もリスクの低いクラスAの医療機器の販売について当該販売ライセンスは不要とされており、正確には、クラスB~Dの医療機器を販売する際に当該販売ライセンスが必要となります。
医療機器製造業での進出の際にも述べたとおり、医療機器を販売する前に、その品目毎にFree-Sale Registration Number(流通番号登録)を取得する必要があります。輸入医療機器に関する流通番号登録の取得にあたっては、1)当該医療機器の外国における製造業者においてISO13485又はISO9001を取得していること、2)当該医療機器の輸出国におけるCertificate of Free Sale(自由販売証明書)の提出等が要求されます(Decree 36第18条)。
1 ベトナムにおける医療機器関連法令
今回の連載から、医療機器分野へのベトナム進出に関する法規制について検討します。
まず、ベトナムにおける医療機器の製造、販売等について適用される法令はDecree 36/2016/ND-CP(Decree 36)です。
Decree 36は2016年7月1日に施行されており、新薬事法と同様、比較的新しい法律です。従前は、医療機器がベトナム国内で製造されるか、輸入されるかによって適用法令が異なり、前者についてはCircular 07/2002/TT-BYT(Circular 07)、後者についてはCircular 30/2015/TT-BYT(Circular 30)が適用されていましたが、Decree 36により、ベトナム国内製造であるか輸入品であるかにかかわらず、全ての医療機器について一つの法令が適用されることになりました。Decree 36により、医療機器分野における法規制がより整理され、理解しやすくなったと評価されています。
Decree 36に基づく法規制の中身については、進出形態に即した形で後述します。
2 医療機器分野における外資規制
医薬品分野での進出にあたっては外資規制が大きな問題となり、外資企業はベトナム国内での医薬品の卸売、小売事業に進出できないなど様々な障害が存在しました。
この点、医療機器分野での進出に関しては、特段の外資規制は見当たりません。したがって、外資企業がベトナムに進出する際に通常要求される投資登録証明書(IRC)の取得など、最低限の外資規制は存在するものの、医薬品分野のように進出形態の検討にあたって外資規制が重要な判断要素となることはないといえます。
外資企業は、以下のような形態によりベトナムへの進出を検討することができます。
1)ベトナム国内に製造拠点を設けて医療機器を製造し、ベトナム国内で販売する。
2)ベトナム国内に拠点を設け、自社又は他社製造の医療機器の輸入元となり輸入した
医療機器を販売する。
3)ベトナム国内に拠点を設けることなく、ベトナム国外で製造した医療機器を現地の
輸入代理店に輸出する。
4)医療機器の製造、販売等を行う現地企業に対して資本参加する。
医薬品分野への進出形態と比較すると、上記2)のとおり、他社製品についていわゆる商社的な形で製品の輸入、卸売、小売事業を行うことが可能であること、上記4)のとおり、株式の外資保有割合につき特段の制限がないことから現地企業との交渉次第では株式の過半数の取得も可能であることが注目すべき点と思います。上記のとおり、医療機器分野においては、外資規制にそれほど縛られることなく、比較的自由に進出形態を選択することが可能といえます。