医薬品開発における非臨床試験から一言【第67回】

尿・糞中排泄まで探る

薬物動態研究では、尿・糞中排泄試験に解析を加えて重要で役に立つ情報へと仕上げています。この事例紹介では、小分子化合物を親化合物と想定します。最初の探索的な実験段階では放射性標識体の用意がされていないため、実験動物から採取した尿と糞をHPLC試料に調整後、分析して、投与量(dose)に対する排泄量(%)を「% of dose」で示すのが一般的です。

開発が進み放射性標識体の準備ができるとRI実験室で排泄試験を行います。尿試料は一部をシンチレーターに混入して、液体シンチレーションカウンターを用いて総放射能量を分析します。糞試料は水を用いてホモジナイズし、一部をオキシダイザー用の紙カップに採取して、乾燥し、燃焼法で14CO2にした後にCO2吸収剤に通してシンチレーターを加え放射能を測定します。

いずれも総放射能レベルで、投与量に対する排泄量を% of doseで示します。可能なら、RI室で同じ尿・糞試料をHPLC分析して、未変化体と代謝物の存在量を求めて、総放射能排泄率に対する個々の排泄率を考察します。これは臨床試験でも実施可能で、同じようなRI試験が報告されています。例えば、総放射能排泄率が20%で、そのうち10%は未変化体、5%は代謝物A、2%は代謝物B、残量の3%はその他の代謝物総量と推定される。・・・のような解析を行います。

経口剤として開発し、標的臓器が「胃」の場合は、胃酸で分解されにくく、胃内で十分な作用濃度を保つことができれば十分です。しかし多くの薬剤は、消化管での吸収が第1関門になります。胃酸の影響を受け易い薬剤は腸溶剤の選択肢もあります。消化管吸収が悪いと、単純に糞中排泄されて体内の標的臓器まで届きません。

In vitroでのスクリーニング試験で有効だった薬剤が、実験動物を用いたスクリーニング試験で経口投与後に吸収されないと、「石のような化合物」と称されます。ナトリウム塩にしたり、アモルファス(非晶質、結晶構造を持たない構造)にしたり、吸収補助剤を加えたり、物性的に製剤化を図ります。消化管組織(胃、小腸)に吸収され血中に移行するには、消化管内で「溶解」することが必要です。酸性の胃、さらにアルカリ性の小腸で、十分な溶解を継続することが大切です。ナトリウム塩のように、一時的に溶解しても不溶性に変化する物性を持つ化合物もあり、注意が必要です。

溶解して消化管組織の細胞膜を濃度勾配に応じて、あるいはトランスポーターの助けを借りて細胞内に移動し、血管側の細胞膜を通過できると、「門脈血中濃度」として吸収された状態になります。「吸収」の逆が排泄の過程であり、消化管を素通りして排泄されることがないような化学構造の工夫が大切です。

 

 

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます