中国等海外原薬の品質確保と調達リスク回避の考え方【第7回】

7. 品質監査の考え方・進め方と留意事項(2)
7.1 文書記録確認の効率的な進め方
GMP文書および記録は原薬の品質保証の基礎となるものであり、日ごろの製造および品質管理に関する業務の全容がここに集約されていると言っても過言ではないと思います。この点において、文書・記録の監査は大変重要な業務と言えます。しかしながら、海外製造所の監査においては、十分な時間が確保できない上、言語の問題もあり、段取りが悪いと満足な監査ができません。こういう状況の中で、いかに効率的、効果的に監査を行うかというのが監査担当者の課題となります。
 
通常、チェックリストに沿って個々のGMP文書・記録の有無とその内容の確認を進めますが、時間的制約からすべての項目の精査は難しく、どうしても表面的な確認になりがちです。その結果、重大な問題を見落とす可能性も否めません。そこで、効率よく確認できて、しかも重大な問題を見逃さない方法が必要となる訳ですが、その方法としては、一連の文書記録から事前に重要な文書と記録をリストアップしておき、GMP要件とされている文書と記録がすべて漏れなく整備されている(重要な文書・記録の欠落がない)ことを確認した後、リストアップした文書と記録について精査するという方法が一般的ではないでしょうか? なお、文書リストを事前に入手しておくと、必要文書の有無確認の時間が節約できます。
 
重要な文書・記録としては、出荷判定、変更管理、逸脱管理、教育訓練などの手順書、製造記録、試験検査記録、バリデーション、防虫対策、標準品の管理、分析機器の校正、規格外試験結果(OOS)対応などの記録が挙げられます。なお、教育訓練に関しては、試験検査員に関する資格認定制度やその運用状況に関する手順書や記録を確認することにより、職員の技量をより的確に把握することができ、その工場の製品品質の信頼性を量る上の参考になるでしょう。また、不適合事象を総括的に評価し、是正措置と予防措置を講じるCAPA(Corrective Action Preventive Action)システムの構築とその実施状況に関する手順や記録も、品質トラブルの全容や傾向の把握に役立ち、その工場の改善対応のレベルを知る上で有効です。
 
7.2 年次報告書の活用
文書記録の確認を効率的に進めるもう一つの方法として、年次照査報告書(Annual Review)の活用があります。欧米に輸出実績のある原薬工場では年次報告書がGMP要件とされ整備されているので、重大な逸脱や品質に影響を及ぼす重要な変更の管理は、必ず年次報告書に記録されています。何らかの理由で、予定していた時間が十分とれなかった場合などは、年次報告書をベースに重要事項を確認するとよいでしょう。

7.3チェックリストの活用メリハリのある監査
日本に輸出する原薬を製造する海外の製造所は、基本的に日本のGMP省令に適合する必要があります。
また、原薬の場合は原薬GMPガイドライン(ICH-Q7)への適合も求められることから、これとの整合確認も必要となります。従って、監査のチェックリスト作成にあたってはこれらの要求事項がすべて包含されていることが必要となります。その上で、監査に際してはこれを有効に活用する方法が求められる訳ですが、時間に制約のある海外監査では、チェックリストに忠実すぎると上記のような文書記録に関する確認ミスの可能性もあり、また、施設の実地確認においては、異物混入につながる衛生管理上の重大な問題の見落としなども懸念されます。従って、海外製造所の監査に使用するチェックリストは、上記のような基本となるチェックリストに少し手を加え、重要な確認項目にチェックを入れるなどのひと工夫を行い、メリハリのある対応を行うと、より効率的で有益な監査が実施できるでしょう。

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