【2025年7月】医薬品品質保証こぼれ話 ~旅のエピソードに寄せて~

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話

 

第16話:企業風土と品質文化

今年もささやかな菜園に夏野菜の苗の植え付けを終え、その成長ぶりを観察しながら水遣りをして早朝の時間を過ごす時期を迎えました。今年はトマト苗の一部が根付かないという“事件”があり、数本の苗を差し替えるという予期しない出来事が起きました。接ぎ木のよい苗でしたが、もともと粘土質の土地(土壌)を、忙しさにかまけて十分耕さずに植え付けたことにより、水はけが悪く根腐れを起こしたようです。大半の土を入れ替え、よく耕し、水はけのよい状態を確保して新たに植えた苗は元気に育っています。いくら良い苗であっても、土壌が悪いと育たないことを理解するよい経験となりました。

翻って、企業等組織における人材の育成や企業の発展といったことに視点を変えたとき、これと同じことが言えるのではないでしょうか。つまり、人材の育成や企業の発展、また、製薬業界においては、品質を確保する上で最も重要となる職員の品質意識の向上に対して、“組織の風土や体質”といったことが大切であるということ。このことはこれまで耳にタコができるぐらい聞かされてきましたが、実際、これを組織の上役を含めどれほどの人が実感し、真に理解しているかははなはだ疑問です。野菜などの植物が土壌の良し悪しに敏感に反応し、上記のような残念な現象が如実に現れるのに対し、企業等組織における風土や文化、総じて言えば、“職場環境”といったことの良し悪しが人の成長や企業の発展に与える影響を、経営陣を含め多くの人があまり感じていない(理解していない)のが実情ではないでしょうか。

優秀な人材であっても、好ましくない(コミュニケーション活性化のレベルが低い、など)企業風土の下では根腐れを起こし、本来の力を十分発揮することができない。逆に、それほど期待されなかった新人が、十分に耕された風通しのよい組織において、自由闊達に活動する場を得たことから期待以上の活躍をするといったことも稀ではありません。このようなことを、組織の上に立つ者が理解していない、見えていない現状があまりにも多いように感じます。その結果、組織改革などと大きな幟を挙げても、実施される内容が伴わず残念な結果に終わることが少なくないようです。職員の皆さんが本来の力(Potential)を存分に発揮できる職場環境を整えることの重要性を真に理解できている経営陣・管理者の下では、人は成長し、組織は発展する。このことは、言わば、自然の摂理であり、企業に限らず、役所、教育、医療、福祉など、人が集まり構成されるあらゆる領域の組織について言える“原理原則”です。

しかしながら、多くの企業をはじめとする組織においてこのことが実践できておらず、 “望まれる組織風土の醸成”は、今なお古くて新しい重要課題として君臨している状況にあり、このことは医薬品の製造販売業の領域においても例外ではないようです。医薬品の製造販売に関わる者のミッションは生産の安定、品質確保、安定供給といったことですが、これらを実現するための基礎もまた、上に述べたような組織環境を整えることにあります。昨今は“品質文化(Quality Culture)”という言葉がもてはやされていますが、こういったものの醸成の根底に求められるのも、組織、つまり、医薬品企業、製薬工場の良質な職場環境にほかなりません。

 

 

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