医薬原薬の製造【第31回】最終回
序
蒸気による加熱と温水加熱
医薬原薬の製造について自分が今まで勉強して事をGMP platform のHPに掲載し、技術者の参考にしていただこうという思いから、このシリーズを書いてまいりました。業界の方々から、「あの記事見てますよ。参考にさせていただいてます。」という話をいただくことも時々あり、この記事を書いて来てよかったなと思っています。
さて原薬の製造シリーズですが、ネタ切れになってきました。今回、紹介する減圧蒸気加熱・冷却についてを最後に、完結しようと思います。今まで小生の記事を読んでいただいた方々に深く感謝いたします。
さて原薬の製造シリーズですが、ネタ切れになってきました。今回、紹介する減圧蒸気加熱・冷却についてを最後に、完結しようと思います。今まで小生の記事を読んでいただいた方々に深く感謝いたします。
蒸気による加熱と温水加熱
プラント装置の加熱には、蒸気と温水が用いられます。蒸気による加熱は、蒸発潜熱を利用します。蒸気は、境膜伝熱係数が水に比べて非常に大きくなり、熱伝導の指数である総括伝熱係数は、蒸気では温水よりもかなり大きくなります。従って、蒸気加熱は、温水よりも圧倒的に速いですし、また槽全体を均一な温度で加熱することができます。温水ですと、反応槽ジャケット入口と出口では温度が変わってきますし、蒸気並のスピードで加熱しようと思うと、莫大な流量が必要になってきます。このように蒸気は非常に優れた熱源です。しかし蒸気は常圧、加圧下では100℃以上ですから、100℃以下の加熱に使用するには、使い勝手が良くありません。反応槽を40度以下に温度をコントロールする場合、蒸気はほとんど使われず、温水が用いられます。
そこで、反応槽を100度以下に加熱することを考えてみます。
温水を熱源として加熱する場合、ΔTが蒸気(100度以上)よりも小さくなりますし、また総括伝熱係数が蒸気に比べて下がりますので、室温から設定温度まで加熱に要する時間は、蒸気に比べて相当長くなります。スケールアップの際は、伝熱面積/槽容量が槽サイズ(寸法)の逆数に比例して小さくなりますので、温水加熱による加熱時間の延長は大きな問題になります。
スケールアップの際の加熱時間を短くするために、初期は蒸気(100度以上)で加熱し、内温が一定温度以上に達したら、熱源を蒸気から温水に変えるということも行われています。この方法は、加熱時間を短くすることが可能になりますが、槽表面の局所では、設定温度以上の温度になって副反応を起こしたり、また槽内温度が設定温度以上に上がりすぎたりするリスクがあります。特に内温を厳密に管理する必要がある場合、スケールアップが非常に難しくなります。
ここで、100度以下の加熱に、減圧蒸気を用いる方法があることをご紹介したいと思います。蒸気を真空ポンプを使って大気圧以下にしますと、100℃以下の蒸気を作ることができます。圧力をコントロールすることで、ジャケットを100℃以下の温度で均一にコントロールすることができます。このような装置が国内で販売されています。2社取り扱っているようです。(下記)海外でも製造しているメーカーを探したのですが、見つかりませんでした。EUで取り扱っている会社があったのですが、日本製の機械でした。この装置は、日本発祥の装置だと思われます。化学工学の専門家でも、こんな加熱方法があることをご存知ない方が多いです。このように減圧蒸気加熱はポピュラーな機器ではありませんが、なかなか興味深い機器なので紹介したいのです。
新栄技研 http://www.shin-ei-giken.com/prod_vs.html
TLV https://www.tlv.com/ja/catalog/news50j.html
話しはそれますが、上記のTLVというメーカーのHPには、蒸気や化学工学についての勉強部屋があって、非常に面白い内容が紹介されています。工場設計に携わる方、プロセス化学の専門家などにお勧めのサイトです。GMP platform のHPと合わせてご覧いただくことをお勧めします。
さて、100度以下の蒸気加熱、の温水加熱に対するメリット、デメリットを考えたいと思います。まずはメリットから。
均一加熱、急速加熱が可能という減圧蒸気は、スケールアップした際に役に立つものです。多くの開発担当者が、反応槽内の温度均一性が保てないため、スケールアップしたときに、反応収率が悪くなるという経験をしています。そういう意味で、このメリットは大きなものかと思います。ただし、温度が上がり過ぎた場合の対処がかなり難しいし、設備費もかかるというデメリットもあります。
次に、真空蒸気をどのように発生させるのかその原理を紹介し、システムの限界、問題点、その解決方法等について議論します。
そこで、反応槽を100度以下に加熱することを考えてみます。
温水を熱源として加熱する場合、ΔTが蒸気(100度以上)よりも小さくなりますし、また総括伝熱係数が蒸気に比べて下がりますので、室温から設定温度まで加熱に要する時間は、蒸気に比べて相当長くなります。スケールアップの際は、伝熱面積/槽容量が槽サイズ(寸法)の逆数に比例して小さくなりますので、温水加熱による加熱時間の延長は大きな問題になります。
スケールアップの際の加熱時間を短くするために、初期は蒸気(100度以上)で加熱し、内温が一定温度以上に達したら、熱源を蒸気から温水に変えるということも行われています。この方法は、加熱時間を短くすることが可能になりますが、槽表面の局所では、設定温度以上の温度になって副反応を起こしたり、また槽内温度が設定温度以上に上がりすぎたりするリスクがあります。特に内温を厳密に管理する必要がある場合、スケールアップが非常に難しくなります。
ここで、100度以下の加熱に、減圧蒸気を用いる方法があることをご紹介したいと思います。蒸気を真空ポンプを使って大気圧以下にしますと、100℃以下の蒸気を作ることができます。圧力をコントロールすることで、ジャケットを100℃以下の温度で均一にコントロールすることができます。このような装置が国内で販売されています。2社取り扱っているようです。(下記)海外でも製造しているメーカーを探したのですが、見つかりませんでした。EUで取り扱っている会社があったのですが、日本製の機械でした。この装置は、日本発祥の装置だと思われます。化学工学の専門家でも、こんな加熱方法があることをご存知ない方が多いです。このように減圧蒸気加熱はポピュラーな機器ではありませんが、なかなか興味深い機器なので紹介したいのです。
新栄技研 http://www.shin-ei-giken.com/prod_vs.html
TLV https://www.tlv.com/ja/catalog/news50j.html
話しはそれますが、上記のTLVというメーカーのHPには、蒸気や化学工学についての勉強部屋があって、非常に面白い内容が紹介されています。工場設計に携わる方、プロセス化学の専門家などにお勧めのサイトです。GMP platform のHPと合わせてご覧いただくことをお勧めします。
さて、100度以下の蒸気加熱、の温水加熱に対するメリット、デメリットを考えたいと思います。まずはメリットから。
1. 蒸気の圧力調節により温度(100度以下)を簡単に変えることができる。
(温水加熱の場合も、蒸気と温水をミックスして製造するならば混合比を変えるだけでコントロールできるので大きなメリットとは言えないかもしれません。)
(温水加熱の場合も、蒸気と温水をミックスして製造するならば混合比を変えるだけでコントロールできるので大きなメリットとは言えないかもしれません。)
2. ジャケットのどこの部分も同じ温度(沸点)にすることができ、均一加熱が可能。
(温水加熱の場合は、ジャケット入口と出口の温度が異なり、均一ではなくなります。)
(温水加熱の場合は、ジャケット入口と出口の温度が異なり、均一ではなくなります。)
3. 蒸気の凝縮熱は非常に大きいので、温水加熱に比べて急速な加熱が可能。スケールアップの際の加熱時間を延長を避けることができる。
(総括伝熱係数Uが大きい)
一方デメリットは、(総括伝熱係数Uが大きい)
1. 蒸気の熱容量が小さいので、内温が上がり過ぎた場合、蒸気の温度を下げてもほとんど冷えない。過熱が生じた場合は、減圧蒸気から、温水もしくは冷水による冷却が必要。温水加熱の場合は、冷水に切り替えるだけで冷却ができる。
(これは大きなデメリットとは言えないでしょう。)
(これは大きなデメリットとは言えないでしょう。)
2. 蒸気を冷却し、真空ポンプ(エジェクター)によって、減圧蒸気を発生させる装置が必要なので、設備費がかかる。温水加熱の場合、蒸気と水を混合して温水を作る装置を使うが、この方がかなり安い。
(これが一番のデメリットでしょう)
(これが一番のデメリットでしょう)
均一加熱、急速加熱が可能という減圧蒸気は、スケールアップした際に役に立つものです。多くの開発担当者が、反応槽内の温度均一性が保てないため、スケールアップしたときに、反応収率が悪くなるという経験をしています。そういう意味で、このメリットは大きなものかと思います。ただし、温度が上がり過ぎた場合の対処がかなり難しいし、設備費もかかるというデメリットもあります。
次に、真空蒸気をどのように発生させるのかその原理を紹介し、システムの限界、問題点、その解決方法等について議論します。
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