≪解説≫2025年 改正薬機法【第2回】

令和7年改正薬機法の背景 ― なぜ、今この改正が必要だったのか(その1)
品質保証・安定供給・創薬環境の変革に対して企業として備えるべきこと
【第2回】令和7年改正薬機法の背景 ― なぜ、今この改正が必要だったのか(その1)
今回の薬機法改正の内容を深く理解するためには、まずその背景にある一連の議論の流れを把握することが不可欠です。
本改正は、単一の事象ではなく、この数年間で顕在化した複数の構造的な課題が複雑に絡み合った結果、導き出されたものです。
① 議論の起点:深刻化する医薬品供給不安
議論の出発点は、国民生活や医療提供体制そのものを揺るがした医薬品の供給不安問題でした。
日本製薬団体連合会の調査によれば、供給不安が深刻であった令和4年8月末時点で、医療用医薬品全体の28.2%に当たる4,234品目が出荷停止又は限定出荷の状況にあり、そのうち後発医薬品は3,808品目と約9割を占めていました。
これは後発医薬品の全品目のうち約41%が出荷停止等となっている計算であり、まさに医療インフラの危機と言える状況でした 。
これはもはや一部企業の単発的な問題ではなく、我が国の医薬品供給システム全体が抱える脆弱性が露呈したと捉えるべきと考えます。
この供給不安の要因は、以下のとおり複合的な要因によるものでした。
【品質問題と行政処分】
2020年(令和2年)以降、一部の後発医薬品企業を中心において、承認書と異なる方法での製造や品質試験データの改ざんといった、製造管理・品質管理(GMP)に関する重大な不正事案が相次ぎました。
これに対する行政処分の副次的な効果として、該当企業の製品が出荷停止となったことが供給不安の直接的な引き金となりました。
これらの事案は、各企業における不十分なガバナンスや教育、過度な出荷優先の姿勢、バランスを欠いた人員配置などが原因と指摘されています 。
【サプライチェーンの脆弱性】
後発医薬品を含む医薬品の多くは、その有効成分である原薬や、さらにその元となる中間体などの製造を中国やインドなど特定の国に依存していました。
後発医薬品の約半数は海外から輸入した原薬を使用しており、その主要な調達先は韓国、中国、インド、イタリア等が上位を占めています。
こうした中、コロナ禍による国際物流の停滞や、海外製造拠点のロックダウン、地政学的リスクの高まりは、サプライチェーンの断絶リスクを現実のものとしました。
実際に2019年(令和元年)には、抗菌薬セファゾリンが中国の原材料を生産する工場での製造トラブルにより出荷が停止され、国内の供給不安に繋がった事例は記憶に新しいところです。
【予期せぬ需要変動】
読者の皆様も実際に体験されたかと思いますが、コロナ禍においては、特定の解熱鎮痛薬や鎮咳去痰薬などへの需要が急増し、既存の供給能力では到底追いつかない状況も発生しました。
② 浮き彫りになった産業・制度の構造的課題
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