製薬事業所のペストコントロール【第10回】

 

◆ 管理プログラムの開発(構築と改善) その3


 前回につづき、ペストコントロールプログラムを構築し、継続的に改善していくための進め方、その手順について、事例を通じて解説する。

手順8 サンプリング資機材の選択

 この手順は、管理対象の昆虫類をサンプリングするために適切なトラップ等の資機材を選択することを目的に行う。トラップと称して配置していても、対象昆虫類の特性やサイズに合致した適切な資機材を選択することが出来なければトラップとして機能せず、ペストコントロールプログラムの有効性の評価が困難になる。以下は、ある製剤事業所で生じた不具合である。

事例: チャタテムシに分類される、ヒラタチャタテが過去に頻出していた管理区域(グレードD)に於いて、検出のために配置されていたトラップは当該種を捕捉することが困難な形状のものであった。
 しかし知識不足が原因でこの不具合に気が付かないまま、“トラップに捕獲されないという監視実績”を基にペストコントロールプログラムが有効であるとのレビューを行っていた。
 その後、管理区域内を動きまわる当該種が作業員によって発見され、上記の不具合が発覚する事態に至った。


 この事例で用いられていたトラップは、滅菌可能な樹脂製のトラップであり、トラップの入り口のサイズもヒラタチャタテに十分なものであったが、入り口に傾斜(スロープ)が設けられたトラップであった。入り口部分にスロープを設けたトラップは、汎用性が高くよく用いられるタイプであり、“ごきぶりホイホイ”のような一般向けに市販されているトラップにもみられる形状であって、決して特殊なものではないが、このスロープがヒラタチャタテの捕捉の邪魔をする。
 入り口のスロープは、昆虫類が頭部の触覚で入り口の奥のトラップの粘着面を察知するのを防ぐために設計されたものであり、ゴキブリのような比較的大型の昆虫類の捕捉には有効に機能するのであるが、ヒラタチャタテのような小型の昆虫にはスロープが「壁」となって、トラップの中に移動することが困難になる。従って、ヒラタチャタテを捕捉するためには、入り口部分にスロープのないフラットな形状のトラップを選択すべきであった。
 このような機材の選定間違いは時々見受けられる不具合の一つである。当該事例の原因は本連載の第8回の「手順1 プログラム構築と改善を担うチームの編成」で述べた、プログラム開発チームに求められる専門性の欠如ではあるが、「サンプリング資機材の選択」については経験を積むことで解消できる部分である。

 

 

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