ラボにおけるERESとCSV【第7回】

2015/07/13 施設・設備・エンジニアリング

望月 清

はじめに
「CSVにおけるリスクマネジメントの適用方法」として以下の説明を行う。

● 品質リスクマネジメントの活用
● ICH Q9のリスクマネジメント
● インフォーマルなリスクマネジメント方法
● FDAウォーニングレターにおけるリスクアセスメント指摘
● CSVにおけるリスクマネジメント
 

1.品質リスクマネジメントの活用
我が国は2014年7月に、世界のGMP査察当局間の協力機構であるPIC/S 1)に加盟した。そのため、PIC/S GMPにより得られる品質との同等性が我が国のGMPにおいて求められることになった。我が国のGMPとPIC/S GMPの間に基本的な考え方のギャップはない。しかし、PIC/S GMPの重要項目のうち我が国のGMPに記載されていないものがあり、下記項目について国際整合性をとるよう課長通知2)が発出された。
 

(1)品質リスクマネジメントの活用
(2)製品品質の照査 (年次レビュー)
(3)GMP/QMS施行通知の改正
  (「バリデーション基準」「35.その他(電磁的記録等について)」などの改正)
 

「コンピュータ化システム適正管理ガイドライン」3)には、その基本的な考え方のひとつとして「製品品質に対するリスクアセスメント」がもともと記載されていた。PIC/S加盟にともない、CSVにおけるリスクアセスメントにおいてどのように品質リスクマネジメントを活用すればよいか以下に説明する。

 

2.ICH Q9のリスクマネジメント
PIC/Sの品質リスクマネジメントはPIC/S GMP Annex 20 "Quality Risk Management"に規定されている。Annex 20の内容は、ICH Q9 "Quality Risk Management" 4) そのものである(ICH:International Conference on Harmonization 日米EU医薬品規制調和国際会議)。我が国においてはICH Q9を「品質リスクマネジメントに関するガイドライン」5)として2006年に発出している。ICH Q9に記載されているリスクマネジメント方法の一部を以下に紹介する。
 

1) インフォーマルな方法
● 品質に係るリスクは、観察の積み重ねや傾向などに基づいた様々なインフォーマルな方法
 (経験的手法等)により、評価・管理されてきた。
● インフォーマルな方法は、苦情、品質欠陥、逸脱、資源の有効活用等の対応において依然有益であり続け
  る。

2)リスクマネジメントツール
● インフォーマルな方法に加え、広く認識されているリスクマネジメントツールにより、リスクの評価・管
 理を行うことができる。
● 広く認識されているリスクマネジメントツールの例:
 ○ リスクマネジメントを促進する基本的な方法(フローチャート、チェックシートなど)
 ○ 欠陥モード影響解析(FMEA)
 ○ 故障の木解析(FTA)
 ○ ハザード分析と重要管理点(HACCP)
 ○ リスクランキングとフィルタリング

3)リスクマネジメントプロセス
図1はICH Q9の典型的な品質リスクマネジメントプロセスであるが、ICH Q9の序文第5パラグラフにおいて以下のように説明されている。
● 認識されたツールによるフォーマルなリスクマネジメントプロセスが常に適切であるとは限らず、また必
  要というわけでもない。
● 経験的手法などによるインフォーマルなリスクマネジメントプロセスも許容される。

 

つまり、FMEAによりRPN(Risk Priority Number)を算出するようなフォーマルな方法だけでなく、ブレーンストーミングやディスカッションなどのようなインフォーマルな手法もICHは認めているのである。根拠に乏しいリスク評価点に基づく判断より、経験豊かな識者によるディスカッションや測定データなどに基づくディスカッションの方が的確な結論を導き出す場合が多々あると思われる。
 


図1 典型的な品質リスクマネジメントプロセス

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執筆者について

望月 清

経歴 合同会社エクスプロ・アソシエイツ代表。
1973年山武ハネウエル株式会社(現アズビル)入社。分散型制御システム(DCS)を米国ハネウエル社と分担開発。2002年よりPart 11およびコンピュータ化システムバリデーションのコンサルテーションを大手製薬会社にご提供。2009年より微生物迅速測定装置の啓蒙普及に従事。2014年5月より現職。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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