ドマさんの徒然なるままに【第61話】私流

第61話:私流

はじめに
明けましておめでとうございます。本年も「ドマさんの徒然なるままに」のご愛読のほど宜しくお願い申し上げます。

さて、読者の皆さんの“新年の抱負(New Year’s resolution)”は何でしょうか? 「GMPを勉強してレベルアップしよう!」なんて、立派な抱負を掲げる方も、中にはおられるかもしれませんね。そんな方のために少しでもお役に立つ話ができれば、とは思いつつも、他の先生方のような含蓄のあるお話ができるわけもなく、もろ我流と言うか、自分流と言うか、筆者の「GMPに対する考え方、学ぶ姿勢」といったものを、偉そうに『勝手にGMP論』シリーズ*1の第11弾(カミングアウト版を除く)としてお伝えします。もろ私自身の話ですので、読者の皆様にどうのこうのと言うつもりは毛頭ありません。異論・反論も含めて、どう解釈するかは読者にお任せします。

なお、本話においては、品質に関わるGood Practices全体、具体的にはGMP省令・GQP省令・GCTP省令・GDPガイドラインの総称として「GMP」と記しているので、その点をご容赦願います。特定のGMPや本来のGMPに限定して言及している場合には、都度具体的に表記を施しているので、その点をご了承願います。


その1:正直に言います。私はGMPが嫌いです。
私、「第55話:Flexible GMP・前編」の中にも記したが、GMP至上主義者ではない。それどころか、正直なところ嫌いである。そもそも、他人から指示されるのが嫌いな“ひねくれ者”のため、他人に決められたことを“そのまま”やるのが嫌なのである。ただ誤解してほしくないのは、嫌いだからGMP記載内容に従わないということではない。そこに求められることが必要かつ大事なことは認識しており、自分なりに咀嚼し、自分の流儀でやるというスタンスである。


その2:好きか/嫌いかは問題ではない。問題はやるか/やらないかである。
そもそも法規制って、好きか/嫌いかを議論するものじゃないし、嫌いだったらやらなくて良い、なんてシロモノじゃないですよね。品質確保は医薬品にとっての必須要件であり、安全性と有効性のための絶対条件だと理解している。だから、手を抜くつもりなどない。どうせやらなきゃならないんだったら、自発的に、ただ自分の考え・手法でやりたい、と思うだけである。


その3:GMPは覚えない。でも考えてはいる。
そんな“いい加減な奴”なので、GMP省令なども覚えるつもりがない。誤解回避のために言っておくが、読まないのではない。必ず読みます。ただ覚える気はないので、そこに記述された文言(表現)自体は曖昧な記憶でしかない。コンテンツと項目の意味するところを記憶に留めておき、必要に応じて、元の条項を読み直すといった感じである*2。私流のキーポイントとしては、「これはこういう意味だよなー。俺だったら、こうやるよなー。」といった形で記憶に留め、時に反芻することであろうか。ほんのちょっとの考察を入れることで、その求められる本質については結構しっかりと記憶に残せるのである。


その4:他人に指摘され直すくらいならば、自分で直したほうが気分が良い。
先述のように、「他人に決められたことをやるのが嫌」というひねくれ者であるため、行政査察や委託先監査から指摘を受けて直すくらいならば、自分で直すほうが気分が良い。会社勤務時代、傍から見るとボーッとしていたように見受けられたかもしれないが、結構そういう場合は、頭の中では自組織の問題点を抽出し、改善計画を練っていることが多かった*3。会社勤めを辞めてから言うのも変だが、「自分で直すわ!」という意識であったこともあり、自己点検については、かなりマジにやっていた。

皮肉込みで勝手なことを言いますが、お宅は自己点検を(当然、改善対応込みで)ちゃんとやってますか? まともにやっておらず、そのため自ら気づくこと(+改善を図ること)はなかったというのが実情なんじゃないですか? 更には、行政査察や委託先監査でそれなりに指摘されても、それが大きな問題だとも思わず、その場しのぎの、悪く言えば目先の応急処置でごまかしてたんじゃないですか? それが、ある時、グサッとくるほど致命的と診断されて焦るといったことはありませんでしたか? 「うちのことじゃない。」とキッパリと言えるようにしてくださいね。


その5:不治の病にはかからない。
査察や監査で類似の指摘を何度喰らっても直せないのであれば、それは病気と言って良い。すなわち、「直す」のではなく「治す」ことができない不治の病を患っていることになる。長期に亘って、また多製品に亘って不祥事を起こし、営業停止まで喰らった会社さん、行政からの指示は「治しなさい!」ですからね。目先の対応で済ませようと思っているのであれば、それ自体が末期症状ですからね。根本治療が必要です。組織ぐるみといった最悪の場合、“移植”が必要だと思わなければいけません。

「記憶がございません。」とでも言うのであれば、政治家のほうが向いている。少なくとも製薬関連企業には向いておりません。「このくらいだったら許されるんじゃないかー。」と思っていたと言うのであれば、確信犯ですよ。いずれにせよ、罪は重いですよ。私、自分で言うのも何だが、変に記憶力が良い。維持向上も改善・改良もできないという病にはかかりたくない。だから、性格は悪いけど*4、他人から指摘されると結構悩んでちょこちょこと改善を図ることにしている。


その6:現在がベストだと思っていないので、手間を惜しまない。
自分の考え方・やり方が王道だと思っていないので、当然ベストのはずもない。そもそも、現在がベストな状態であれば改善も改良も必要がないわけだから直す必要もない。でも、現実は改善・改良の余地が多すぎる。そのくせ、一気に直すだけの意欲も能力もない(根性もか?)。自分で言うのも情けないものがあるが、ちょっとでも理解が深まれば、それはベターだと思って慰める次第である。

一方で、自分で言うのも何だが、手間は惜しまない。見かけよりも几帳面だし、仕事はキッチリやるほうである。よく耳にするのは、「改善を図るのはいいんだが、手間が増えるんだよなー。」といった言葉である。こう言ったら失礼であるが、こういう者に対しては、心の中で「お前バカか! 改善であれ何であれ、何かをするに当たっては手間が増えて当たり前だろ。何もしないで勝手に改善なんかするはずないだろうが。」と言っている。手間を減らすために機械化や自動化をするんだろ。だったら逆に、金をかけない(かけられない)んだったら、手間暇をかけてやるしかないんだよ。そんな当たり前のことも分からず生きてきたんか!? いい加減にしてくださいよ!


その7:情報や知識は活用することを前提として身に付ける。
勉強家の方っておられますよね。三極のガイドライン等も良く知っていて、質問してもサッと答えてくれる。頼もしい方です。どこの会社さんにも何名かおられるんじゃないですか。でも、そんな方々だけでGMPが回っているわけじゃないですし、その方々で製品品質が決定するわけじゃないですよね。情報を集め、知識を付けることは大事ですが、それらを活用できなければ、品質の維持・向上も図れず、無用の長物になってしまうんじゃないですか。先述のように、覚えることよりも考えることのほうが大事ですよ。考えることで理解が深まり、応用も利いて活用できるんじゃないですかね。


その8:コンプライアンスという言葉でごまかさない。
「コンプライアンス、コンプライアンス!」と声高に叫ぶだけで法令順守が全うできるわけじゃない。それは「がんばれー!」という掛け声と同じだと思っている。悪い言い方をお許しいただければ、それって、問題事象を(身内であっても)他人事として捉えており、上から目線で励ましている状態(むしろ尻を叩いている状態か?)としか思えないのである。

むしろ、それがどんなに些細なことであっても、効果としては薄いものであっても、「悪化しないんだったら、それはそれで意味があるんじゃない!?」と自分なりに進めていくことのほうが大事だと思っている。そもそも、“コンプライアンス”って、別に特別な意識でも何でもなく、常識・良識をもって普通に考え、普通に対応している状態なんじゃないですかね。


その9:無理したくないので、他人や他社と比較しない。
GMPに優劣はないと思っている。査察や監査で指摘を喰らったとしても、その時点での“気づき”として改善し、リスクを無視できる程度にすれば良いだけ。優良企業 or ブラック企業はあるかもしれないが、GMP自体にランキングがあるわけじゃない。ブラックリストに載らない限り、製品品質に問題がないわけだから、別に“普通”で良いと思っている。

どんな分野でも、隣の芝生は青く見えるものである。研修会やセミナー等で、立派な講演を聴講し、「●●さん、凄いなー!」と思うことは悪いことではないが、それに惑わされて自分を見失ってはいけません。各社の情報を得て参考にすることは良いが、身分不相応に至ってしまうほどに周囲に惑わされないようにすべきであろう。自製造所(自社)の製品品質を担保できる、自分に相応しいレベルの対応があるはずである。

自製造所(自社)のほうが「ちゃんとやっている」と優越感を覚えたい者は勝手に優越感に浸れば良い。でも現実には、先述のように「うちは、まだまだだなー。」と思う者のほうが多いんじゃないですかね。私もその一人である。だから、他人や他社と比較しないことにしている。そのほうが、肩肘を張る必要も、見栄を張る必要もなく、無理をする必要がないので気楽である。ただ、状況によっては逆パターンもあるので注意が必要なのも事実ではある*5


その10:大きな目標より、出来そうな目標を立てる。
ハイレベルの目標を掲げるのは格好良い。少なくとも傍目には立派に見える。その目標が達成できれば大したものである。が、その目標が高ければ高いほど成功確率は低くなるのが常である。私のような輩は、そもそも本人のレベルが低いし、根性もないので無理がある。だから、(言い訳だが)少し頑張れば達成できそうな目標を立てる。当然、達成しても成果はたかだか知れている。でも、立派な目標で未達よりも、ちょびっとでも達成したほうが気分的には良くありません? 少なくとも、やる気が失せることはない。ただ、評価も低いので、その点は納得しておかなければなりませんけどね。
 

おわりに
本話で述べてきたこと。あくまで私個人のやり方・考え方を紹介しただけである。同意・同調して欲しいとも思っていない。マネをする者はいないであろうと推測するが、マネをして失敗や後悔したとしても、責任を取れません(取るつもりがない)ので、悪しからず。私が言いたいことは、「GMPは難しい」だとか「GMPは嫌いだ」とか言う者に対して、それを避けて改善や向上が図れるのであれば良いが、そうでないのであれば。こんなやり方や考え方だってあると伝えたかっただけである。

問題は、好きか/嫌いかでも、したいか/したくないかでもなく、結果として、やるか/やらないか、である。だから、そのやり方/考え方は何でも良いが、やるべきことをやれば良いと思っている。それは自分のためじゃない。あなたの製造・販売した製品を使用する患者さんのためだからということである。Quality Cultureという言葉、正直大げさすぎて好きじゃない。でも、その原点の意識は、コレなんじゃないかと思っている。声高にQuality Cultureを掲げる企業さんもおられるが、組織の職員全員が同じ方向を向いているのだろうか。一歩間違うと「仏作って魂入れず」ってことになってしまうんじゃないですかね。それだったら、ちっぽけな、傍目には効果が見えないレベルであっても、場合により異端児とも受け取られる状況であったとしても、口先だけで何もしていない者よりはマシだと思っている。


では、また。See you next time on the WEB.



【徒然後記】
世界遺産
「お気に入りのTV番組は?」と尋ねられたら、TBSで日曜日の夕刻に放映されている「世界遺産」と答える。行ったことのある場所は、国内外の数か所のみであるが、名前を知っている場所は沢山ある。登録された理由は様々であるが、みな美しい。番組を観ていて感じることは、「こんなに美しい場所が世界中の至る所にあるんだ。地球って、こんなに美しいんだ。」ということ。ただ、「風化や破壊などなく、いつまで残るんだろう?」と、ふと思う。いつ死んでもおかしくない歳になったせいか、「この美しい風景や建造物、地球温暖化や戦争により消滅してしまうんじゃないか?」、そんな心配を抱くようになった。
今まで、何だかんだ言って、地球温暖化も災害や戦争による難民のことも自分事として真剣に考えたことはなかった。孫が生まれ、この子たちが世界遺産に行けたらいいな。それまで現状が保存されていて欲しいな。そう思うようになった。そしたら、地球の未来に対して、ほんのちょっびりではあるが協力しようという想いが強まった。そんなことから、この「ドマさんの徒然なるままに」の原稿料をWWFとUNICEFに寄付している。自己満足ではあるが、生まれ育った、この地球に対する些細な思いやりである。
よくよく考えれば、GMPだって患者さんに対する思いやりがあれば、自然とやり方を工夫して品質確保に至るはず。そんな難しいことのはずはない。
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*1:『勝手にGMP論』シリーズ、第1弾から第10弾までは、以下の通りである。
第1弾:第5話「X+Yの悲劇
第2弾:第6話「Psの悲劇
第3弾:第9話「Sustainable GMP
第4弾:第10話「世界に一つだけの GMP
カミングアウト版:第14話「Into The Unknown
第5弾:第18話「ミッション:ポッシブル
第6弾:第27話「GMPの質・前編」および第28話「GMPの質・後編
第7弾:第32話「品質道
第8弾:第40話「教育訓練・前編」および第41話「教育訓練・後編
第9弾:第44話「Continued QA
第10弾:第55話「Flexible GMP・前編」および56話「Flexible GMP・後編
 
*2:直ぐに開けるように、デスクトップにはGMP省令を筆頭に読み直すことが多い各種ガイドライン等が張り付けてある。
 
*3:(天の声)ウソつけ! マジにボーッとしているだけだろ。
(筆者) まぁー、そういう場合もありますけどね。
(天の声)ふーん、いつもだろ。何か考えているなんて、極めて稀なんじゃね。
(筆者) うっせーわ!
 
*4:(天の声)ふーん、自覚症状はあるんだ!?
(筆者) うっせーわ! あんた、自覚症状もないだろ。
(天の声)神様だから、病気なんてないんだわ。
(筆者) 「バカは風邪をひかない!」って子供の時に言われたような・・・。
(天の声)久々に天罰ー!
(筆者) ギャー!
 
*5:「他社の状況はどうだ?」と気にする、「まだ他社でもそこまでやっていないから。」をやらない理由にする上司や管理職はいませんか? それはそれで悪影響だと気づかないんですよね。お気の毒様です。

 

 

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