ドマさんの徒然なるままに【第5話】



第5話:X+Yの悲劇

序章
今回は極めてマジメな話(筆者としては毎回マジメだと思っているが・・・)である。理由は、本話については筆者がリスペクトする古田土真一先生監修のもと、先生の資料を提供して頂いて書いているからである。その意味では、本話は古田土先生+古田ドマの共著とも言える内容だと思って頂ければ有り難い。


第1章:何事にも表と裏がある
さて、本題の話に入ろう。日本人は、とかくマジメで従順である。日本人の特性なのか、謙虚さや周囲との同調が美徳とされ、個人主義的な自己主張はあまりしたがらない。そのためか、「お上に従う」こと、「右に倣う(ならう)」ことが良し、少なくとも“お得”とされがちである。一方で、大同小異を地で行くように、「陰では悪口を言う」とか、「表向きはともかくとして実態としては規律を守らない」といったことも往々にして在り得ることである。

この種の表と裏、GMDPの世界でも多かれ少なかれ存在するように思える。そこまでキツイ言い方をしないとしても、表向きは「弊社は品質重視でGMP(GQP、GDP)コンプライアンスをモットーとしています」と看板を掲げているものの、内部では「他社と同じレベルでいい」とか、「他社はどうなっているのか知りたい」といった、本来の品質ポリシーとは言い難い、「問題が無ければそれでいい」、「平均より劣っていなければそれでいい」といった他社との横並びを気にする企業が多いのではないか。さらには、「他社はまだやっていないのに」とか、「他社以上のことをやる必要はない」として、今やらねばならないことを後回しにするための言い訳や口実にしている企業もあるように思えてならない。


第2章:私は事例集が嫌いである
その一例として、「How to物」、特に「事例集」が好まれるということに反映されるような気がしてならない。筆者、「How to物」はあまり好きでない。その最たるものと言える「事例集」はハッキリ言って嫌いである。読まない訳ではない。情報としては“参考”にするが、実務にはそのまま適用しない。より正確に言えば、ここでの“参考”とは、当局の「参考にすること」の意味合い*1ではなく、一般用語としての「参考にする」の意味*2である*3


第3章:でも理由がある
では、毛嫌いしながらも、なぜ事例集も読むのか。マジに「どこかの製造所の事例ということでの読み物」と捉えている。割り切った言い方をするならば、「そういうことも在り得る」といった“One of Them”という解釈であり、「他所は他所、自分は自分」と見なしている。もっと冷めた言い方をするならば、「私だったらこうする」ということを踏まえて読んでいる。

好き/嫌いを別とすれば、ちゃんとした理由がある。事例集に挙げられている、“とある事例”に縛られたくないからである。読者の皆様方がどう思っているかは計りかねるが、事例集に掲載されているような会社・製造所・状況、まして同様の製品など在るはずがない。異なる状況や製品において、事例集の回答のような対応を図ること自体が愚の骨頂なのでは?あくまで自社・自製造所として、自社製品に最も適した方法や対応を図ること、言い換えれば、純粋にリスクベース・サイエンスベースで考えることこそが、本当の意味でのGMPであり、GDPやGQP(以下、総称的に用いる場合はGxPと記す)なのでは?そして、それこそが本来の根拠であり、妥当性なのでは? 


第4章:事例集に罪はない
いや、事例集に罪はないですよね。そう、事例集が悪いんじゃないのである。その読み方、しいては、その使い方が間違っているのである。要は、「手本として、その通りにやろうとする」、別の悪い言い方をすれば「マネをする」ことが問題なのである。先述のように、事例集に掲載されているような会社・製造所・状況、まして同様の製品など在るはずがないのに、なんでマネしなきゃならないのか。あくまで“事例”であり、“手本”じゃないですよ。そういった盲目的な“事例集のバカ読み”が品質保証から外れるかもしれない事態や状況を招き、表面的にはGxPコンプライアンスとしつつも、現実にはGxPの精神から外れ問題であることを加速させてしまうのである。なぜそれに気づかないのか、それを言いたいだけである。


第5章:捻くれ者だが自分で考えている
そういう捻くれた解釈(本音では自分が正しいと思っている)をしているため、筆者としては、事例集は“横やり”としか思えないのである。悪い言い方をお許し頂ければ、冒頭に示した日本人特有の「お上に従う」、「右に倣え」のような考えを増長しかねず、「他社と同じ」や「事例集通りにやっている」を助長し、ついには、「自分で考えること」をディスターブしかねない。行きつくところ、品質の維持・向上のためのGxPが、真似事のような形式的管理に繋がりかねない。言い過ぎあることは承知しているが、何となく、そんな風に感じるのである。


第6章:GxPの解釈と運用には必ず理由があり、証拠がなければならない
では、どのように解釈すれば良いか?まずは頭を柔らかくしよう。そう、柔軟に考えましょう。自分勝手な、自分のご都合主義で解釈、実行して良いと言っている訳ではない。当然、その解釈や運用には、理由があるという前提である。そして、その理由は、第三者からも納得されるものではなければならない。それを世間では、客観的な根拠とか妥当性とか言うのである。そこには、証拠としての記録が、さらにデータが求められる。その記録やデータの信ぴょう性にも疑義が持たれないようにするために、「Data Integrity」と称する取り扱いが求められるのではないのか。Data Integrityが要件とされているから、記録やデータの取り扱いに注意するのではない。事実を忠実に、かつ客観的に証明しうる手段として残し、また活用できるようにしておきたいということのはず。その延長がData Integrityに繋がるだけであり、GxPだからと言って対応するなんて事態は、本末転倒としか言いようがない。一歩間違うと、GxPコンプライアンスを謳うために記録・データを作成するといった偽造・ねつ造に至ってしまうのである。そのためにも原点に戻って考えることを強くお奨めする。


第7章:頭を柔らかくしよう
さて、そこで読者の皆様方への質問である。以下の数式(図1)の「X」と「Y」に何を入れますか?「1」と「6」ですか?「2」と「5」ですか?それとも「3」と「4」ですか?さらに「0」と「7」もある。いやいや、XとYを入れ替えたパターンもある。全部で8通り。ホントに8通りですか?8通りと思った方、頭が固い。もう一度質問をお読みくださいな。私は、「何を入れますか?」とお聞きしました。整数を入れろとは 言っていない。例えば、「3.5」と「3½」でも、「√9」と「22」でも「7」になりますよ。筆者がここで言いたいことを既にお分かりでしょう。7とするためのXとYは無数にあるのである。

 図1

この数式の左側を「アプローチ」や「手段」、右側を「GxP要件」や「承認要件」と考えてみては(図2)?そう、この数式でお伝えしたいことは、「7」という要件を満たせば良いのであって、「X」と「Y」に相当するやり方を事例集記載の数字に縛られる必要などないと言いたいのである。ただ、惜しむらくは、冒頭で述べたように、日本人の特性のためか、“お上”が示した典型例あるいは代表例の「3」と「4」を入れたがり、当然の結果となる「7」になったと自慢したがることである(図3)。この手の発想を脱却しない限り、日本における真の意味でのGxPの発展は期待できないと思っている。

 図2
 

 
図3



第8章:書いてなくたって理由はある、ならば理由を考える

そもそも、事例集もさることながら、そのベースとなる省令や通知に記載される一般的表現(図4)を考えたことありますか?「□□を○○すべきである」と記されていませんか?「○○すべき」の表現はHow to部分に相当する。当たり前ではあるが特定企業あるいは特定品目のための要件ではない。日本の全ての関係企業に対する一般論(General)でしかない。一方で、そこに理由を挿入してみては?例えば、「□□を(△△のために)○○すべきである」としてみてはということである。ここでの△△は、目的であると同時にアクションの理由・根拠(Why)であり、要件の本質(Essential)である。大事なことは、要件の本質を満たすことであり、要件を満たすためには本質を見極め、そこを突くしかないのである*4

 図4



第9章:法規制は進化している、ガラパゴス化するかどうかはあなた次第である
GMPに限定すれば、本邦のGMPは1976年に「医薬品の製造及び品質管理に関する基準」と題する行政指導通知として上陸し、1980年に「GMP省令」に格上げされ、1994年には「薬局等構造設備規則」と共に当時の製造業者の許可要件とされた。その後、1997年に生物学的製剤等が追加され、2005年の薬事法(現薬機法)の大改正施行に伴い、製造販売業者に対するGQPが分離され、GMPは製造業者の品目に対する承認要件とされた。さらに、再生医療等製品も考慮され、2014年の薬機法への大改正を踏まえ、現在はPQSを踏まえ、経営者の責任にも触れたGMP省令の大改正が検討されている。

ただ、行政がどんなに規制を強化しても、それを受ける企業側がその真の目的を理解せず、表面的な体裁ばかりを気にしていては何の進展も見られない。よくあるパターンとして、要領のよい査察対応ばかりを強化しかねない。せっかくリソースをかけるのであれば、本来の目的にかなう品質保証の強化に繋げてもらいたい。本話、口の悪い言い方とはなったかもしれないが、製薬業界に身を置く者として、危惧されることを正直にお伝えしたものである。


第10章:X+Yの悲劇は他人事ではない
読者の皆様も他人事のように笑ってられるかどうか、もう一度客観的に自身の考え方や解釈を見直したほうが宜しいように思う。気をつけないと、「X+Yの悲劇」が「X+Yの 喜劇」となり、周囲から笑われる羽目になりますから。筆者の見解に過ぎないが、嘆かれるうちはまだ改善の余地ありと思われてマシなのでは?笑われたら、もはや見放されたということのような・・・。


終章
本話では、GxPコンプライアンスに対する考え方(発想)の本質を伝えたつもりでいるが、読者の皆様の感想や如何に。


なお、本話の終わりにあたり、本話の監修と図式資料をご提供くださいました、古田土真一先生に感謝致します。

では、また。See you next time on the WEB.



【徒然後記】
本話で述べたように、筆者、事例に捕らわれることも縛られることも嫌いである。単に筆者が捻くれ者というだけのことかもしれないが、思うに筆者のキャリアに起因するのかもしれない。筆者、こう見えても、実のところ有機合成化学者として某製薬企業の探索(創薬)研究所が社会人の事始めであり、同一会社・同一部署と言う意味では、最も長く15年間勤めた。探索研究ということで、創造力と応用力が求められる。本質的に真似事は通用しない。そのような環境が大きく影響している気がしてならない。有り難いことに、その後の業務に対しては、傍から見ればユニークな発想と極めて高い柔軟性を示してきたように思う。

さて、話変わるが、本話タイトル「X+Yの悲劇」から、エラリー・クイーン(バーナビー・ロス)による「Xの悲劇」、「Yの悲劇」、「Zの悲劇」を思い出したら、かなりの推理小説好きである。これらとは別に薬師丸ひろ子主演で映画化された、「Wの悲劇」なる夏樹静子による推理小説もあるが、本話のタイトルは前者を洒落たつもりである。
小説まがいのGxPエッセイがかけたらいいなー、なんて思うが1つ難点がある。話が長くなってしまい、一話完結が困難なことである。GMP Platform記事は、原則monthlyであることから、1つの話が数ヵ月に及ぶことは、読者の立場としても筆者の立場としても、興味を削ぐものになってしまう。適度の分量で一気に読み切れ、ちょっとだけ勉強になるものが書けたらいいなー、と思って悩んでいる。うーん、なんとレベルの低い悩みであることか・・・。


 
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*1:皮肉っぽい表現をお許し頂けるならば、行政の言う「参考にすること」の意味は、「こういう風にやってねの超遠回しな言い方と思える。現実問題として、企業として「参考ということなので、その方法は採用していません」としたことが寛容されるケースは少ないように思えてならない。
 
*2:一般用語としての「参考にする」は、通常の場合、「それを用いる」、「それを行う」というニュアンスではないと考える。
 
*3:企業側にも問題がある。参考として勉強さえしないような不埒な企業、さらには法令違反をしでかす企業が現れるのである。当該企業が指摘を喰らおうが、営業停止処分を喰らおうが、何であろうが知ったこっちゃない。しかし、同様の問題企業が散見されるとなれば、行政としても見過ごす訳にはいかなくなる。当然の成り行きとして、「参考」が課長通知の一部改正へ、さらには法令改正につながり、いつの間にか、「●●すること」と明記されてしまうのである。企業も「自社の問題では済まされない」ということをよーく考えて行動してほしいものである。
 
*4:オマケの話であるが、山本周五郎の「雨あがる」という小説をご存じだろうか。奉公探しの旅に出ている武士夫婦の話であるが、2000年には寺尾聡主演で映画化されている。雨で川渡の足止めを喰らい、立ち寄った宿での人間模様を軸とする内容である。たまたま当地の藩主に気に入られ剣術指南番としてのチャンスが巡って来るものの、やむを得ぬ状況の中だが賭け試合をしたということで、剣術指南番を断わられてしまうというものである。その中、宮崎美子演じる妻が「何をしたかではなく、何のためにしたかが大事なのでは?」という台詞を吐く場面がある。筆者も同感である。GxPコンプライアンスしていると言うのであれば、まずは何のためのGxPコンプライアンスなのかを考えるべきであろう。そうでないと、空虚なコンプライアンスになってしまうと言ったら、言い過ぎであろうか。
 
 

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