ドマさんの徒然なるままに【第40話】教育訓練・前編


第40話:教育訓練・前編

序章

本話、ほぼ間違いなく異論・反論を唱える方が出てきて炎上しそうなので、はじめに述べておきますが、すべて筆者自身の解釈による個人的意見、すなわち私見です。製薬業界に長く在籍し医薬品の品質保証に関係する者として、行政・企業を問わずセミナーや各専門誌でGMP等の教育訓練が問われ、また不始末をしでかした会社さんからは改善対応の一環として教育訓練の充実を述べていたりするのを垣間見て、思うところをぶっちゃけて言うものです。

ちなみに、本話は、『勝手にGMP論』シリーズ*1の第8弾(カミングアウト版を除く)です。しかも、自分で言うのも何ですが、本話についてはどこまで医薬品の品質保証の運用に役立つかさえも疑問です。ただ、筆者としては真剣に語っているつもりです。

なお、本話においては、品質に関わるGood Practices全体、具体的にはGMP省令・GQP省令・GCTP省令・GDPガイドライン・その他PIC/S GMDP等の総称として「GMP」と記しています。特定のGMPに言及している場合には、都度具体的に表記を施していますので、その点をご了承願います。
 

第1章:そもそも教育訓練って何なんだ?

教育訓練って、GMPの必須要件として出て来ますね。じゃー、この教育訓練って、何のためにあるんでしょうか? 手違いなく作業を行うため。正解! その通りですね。手違い防止は、GMP三原則(人為的な誤りを最少限にすること/汚染及び品質低下を防止すること/高い品質を保証するシステムを設計すること)のトップに出て来ますよね。一方で、GMPの基本要素って、覚えていますか? 「施設(設備機器を含むハードウェア)」と「文書(SOPと作業記録といったソフトウェア)」と「職員(直接間接を問わず作業に関係するヒト)」ですよね。と言うことは、教育訓練って「ヒト」のために行うことになりますよね。ただ、対象がヒトだと、性格や感情といった管理(control or manage?)困難な要素も踏まえての対応が必要になるということになり、困ったちゃんですよね。

教育訓練が必要なことは理解できますが、この管理困難な要素も踏まえて、じゃー、具体的に何をすればいいんでしょうか。相手が性格と感情を持つ“いきもの”ですから、一筋縄では行かないですよね。その場の状況、さらに悪いことには相手によっても変わりますよね。そもそもの教育訓練って何なのか? その原点と言うか、求められている本質について考えたことありますか?
 

第2章:日本での教育訓練って、英語では何になるの?

教育訓練に相当する英語って何だと、ふと疑問に思ったりする。GMP自体が元々は米国からの輸入物、サリドマイド事件を契機に法制化されたとされているが、そのベースとしては米国軍用規格を参考にしたとかという話もある。米国cGMP*2を含め欧米のGMPやGDPでは確かに「train」という用語が使われる*3。でも、「train」は通常の場合、日本語訳は「訓練」に相当するんじゃないか? 「教育」という日本語に対しては、通常「educate」なんじゃないか? でも、なぜかGMPガイドライン等では「train」しか出て来ない。

ちなみに、ネットで調べると「train」は「特定の目的を達成するために教える」という意味らしい。一方で、「educate」は「長期的に教育を施す」ということらしい*4。さらには「teach」や「instruct」っていう言葉もあるが、こちらは「(教師が学問や知識を)教える」や「指導する」ということになり、確かにGMPに向いている言葉ではないと感じる。GMPとしての作業が対象だし、米軍規格が由来だと言われれば、確かにGMPには「train」がマッチしている。

じゃー、誰が「教育訓練」って訳したんだ? GMPが日本上陸したのは1980年代。当時の日薬連メンバーや厚労省スタッフが検討した結果として、「教育訓練」としたものと想像するが、(後述するように)日本文化の背景や当時の社会状況も踏まえて訳したのであれば、絶妙とも言える。
 

第3章:文化の違いもあるんじゃね?

最近はかなり変わってきたものの、日本の就職、本質的には未だに終身雇用で年功序列がベースの社会だと思う。また学校の教育の在り方も、訓練的なものよりも座学としての教育、古い言い方をすれば「寺子屋」的な進め方で、こちらを重んじているんじゃないかと思える。

誤解を招く言い方とはなるが、正直に本音を言います。GMPを知っているとか、GMPに基づいてやっているとかよりも、手違いもなく、目的とする品質のものをちゃんと造ってくれていればそれでいいんじゃないでしょうか。本来の教育訓練って、そんなものなんじゃないかと思っています。GMPだから教育訓練を施す訳じゃないはず。昔の職人さんは、徒弟制度の中で「石の上にも三年」と耐えながら、“修練(まさにtrainedでqualified)”されてきたんじゃないでしょうか。そもそも“職人芸”とか“マイスター”なんてことに魅力を感じてしまうこと自体が、日本人の心のどこかに残っているんじゃないでしょうか。現在求められるGMP要件からすれば程遠い方法だとは思いますが、そんな風にも思えてなりません。

失礼な言い方とはなりますが、分厚い教育訓練記録だけが目立ち、なんと中身の薄いことか、と感じる会社さんが多すぎるように思えます。知識としてのGMPは教えていても、それが何のため、誰のためのもので、どのように影響しているかが窺い知れないのです。極論を言えば、GMPを知らなくとも、やるべきことをシッカリやってくれたらいい。本来、GMPで求められる教育訓練、trainとは、作業者がqualifiedされているかどうかならば、自身の作業が確実にできること、しかしできないと何が起こり、どんなことになってしまうのかを伝えるべきなんじゃないかと思ったりするのです。「あなたの不始末で製造された品質不良のクスリをあなたのご家族に投与しちゃいましたよ。身体に重篤な問題が生じるから回収だなんて、今さら言われたって困るのはこっちですよ!」となったら、どう思います? 手抜きも間違いもしないように注意するんじゃないですか? とてもシンプルなはずなのに、なぜか大義名分を付けた話なっているような気がしてなりません。分厚い教育訓練記録よりも、ここ一番の的を絞った(的を射た)教育訓練があるんじゃないのか、とそう思うのは筆者だけですかね? 
 

第4章:そもそもGMPやGDPのガイドラインのコンテンツとしての「教育訓練」ってちょっと意味が違うんじゃね?

そもそも論で恐縮ですが、欧米のGMPやGDPに中に「Train(ing)」という章はなく、「Personnel(職員)」という章の中の一部の関連項目として“train(trained, training)”という言葉が出て来る(他にも出現はするが・・・)。ただ、ここでの“train”の意味合いは、教育訓練はあくまで手段という使い方であって、目的ではない。目的はたった1つ、「ヒトのクオリフィケーション」なんじゃないですか? 実際、「Personnel」の章の中には、“Personnel Qualifications(しかも複数形である)”として明記されていたりする。要は、“Qualified”されているか否かを目的とし、その評価を問い正しているんじゃないですか? この点が本邦のGMP省令等と若干ニュアンスが異なる点であるように思える。が、実は一番問題な点なんじゃないかと思ったりする。

別に本邦のGMP省令等を否定するつもりなど毛頭ございません。本邦の「職員」と「教育訓練」に関する各章でも、要件として求めていることは“qualified”であり同じだと思います。ただ、もろ個人的な感覚に過ぎませんが、なんでヒト(GMP省令の製造管理者、GQP省令の三役も含む)に関する事項と教育訓練に関する事項を離れ離れの別章に規定したんでしょうかね? “能力”と記された資格要件(英語で言えば、qualifiedのことであろう)の話と“業務に関する(必要な)知識と技術の習得(英語で言えば、間違いなくtrainのことであろう)”との関係を分かり難くさせてしまってはいませんか? 悪く言えば、“qualified”という目的と“train”という手段を、形式的な“見た目の教育訓練”として混同させてしまっているのではないか(口の悪い筆者的に言えば、「教育訓練の逸脱」)という疑問を感じさせるのです*5

そのため、規制当局としての思いとは裏腹に、本来の教育訓練の目的である“qualified”よりも、手段としての(もっと悪く言えば、実施したという既成事実としての)教育訓練に目が向けられ、“質”より“量”になっている印象を受けてしまうのです*6。はい、言い過ぎです。でも、筆者だけでなく、そう感じる方が少なからず居られるような気がしてならないのです。もう一度、原点に戻って、GMPで求められる教育訓練って、あるべき姿の職員って、何なのか考えてみませんか? 少なくとも、製品を受ける側(患者のみならず医師・薬剤師を含む使用者、少なくとも医療関係者は科学者でもある)にすれば、GMPかどうかはどうでも良く、品質を保証して欲しい。そうすれば、安全性と有効性は確保されるよね、(承認書記載事項に準ずることは当然とした上で)科学的に品質不良の懸念が無いのであれば回収も生じず安定供給できるよね、っていうことだけじゃないのでしょうか。 
 

第5章:上級経営陣への教育訓練って?

ここのところGMP違反に伴う回収や、またジェネリック医薬品関係では人員の能力を超える品目数に起因すると思われる不始末も多いですよね。行政も含めて、声高に「経営陣の責任」を問いかけ、「上級経営陣の教育訓練」云々を言い出している。それ自体はその通りで結構なのだが、じゃー、具体的に何をするの? 「医薬品の品質はビジネスに大きく影響し、信用・信頼を失いますよ。GMPはその医薬品品質を保証するためのツールですし、そもそも法令ですからコンプライアンスしなきゃダメですよ。」とでも言うのだろうか。犯罪者とも言える儲け優先の恣意的な商売をしているのでなければ、そんなことは“言わずもがな”で承知(少なくとも認識)はしているんじゃないでしょうか。

うーん、率直に言わせて貰います。上級経営陣だってバカじゃないんだから、そんなことは分かっていると思いますよ。じゃー、どうする? 


続きは、第41話の後編で。。。

 

【徒然後記】

ひまわり
映画「ひまわり」、マルチェロ・マストロヤンニとソフィア・ローレンが主演した、1970年、筆者が高校1年のときに公開されたイタリア・フランスの合作映画である。監督はヴィットリオ・デ・シーカ、音楽はヘンリー・マンシーニという、当時では知らない者がいないほど有名な監督と作曲家である。冷戦期に旧ソ連(現ウクライナ)で初めて撮影された西側諸国の映画とされている。
第二次世界大戦中のロシア戦線で引き裂かれてしまった夫婦のラヴストーリー(悲しいままに終わります)なのですが、オープニングとエンドロールにテーマ曲の切ないメロディにのって、ウクライナの広大なヒマワリ畑の美しい場面が映し出されます。ネットで調べたところ、撮影は現在ロシアに制圧されてしまっている南部ヘルソン州あたりらしい。映画の中でのヒマワリは、厳しい環境の中でも陽を浴びて逞しく生きる愛と平和の象徴のように感じさせます。
ロシアとウクライナの国花、いずれもヒマワリ。過去の歴史はそれぞれにあるとしても、そんな兄弟とも言える国どおし。現実に親戚や友人が両国にまたがって生活していたりする。そんな中での理不尽とも言える一方的な軍事侵攻はやるせないし許せない。政治的なことをコメントするつもりはないが、戦争は悲しみと苦しみしか生まない。あの素敵なヒマワリ畑が何事もなく残されることを祈りたい。


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*1:『勝手にGMP論』シリーズ、第1弾から第5弾までは、以下の通りである。
第1弾:第5話「X+Yの悲劇
第2弾:第6話「Psの悲劇
第3弾:第9話「Sustainable GMP
第4弾:第10話「世界に一つだけの GMP
カミングアウト版:第14話「Into The Unknown
第5弾:第18話「ミッション:ポッシブル
第6弾:第27話「GMPの質・前編」および第28話「GMPの質・後編
第7弾:第32話「品質道
 
*2:21 CFR Part 211
https://www.accessdata.fda.gov/scripts/cdrh/cfdocs/cfcfr/CFRSearch.cfm?CFRPart=211
Subpart B - Organization and Personnel
 § 211.22 - Responsibilities of quality control unit.
 § 211.25 - Personnel qualifications.
 § 211.28 - Personnel responsibilities.
 § 211.34 - Consultants.
 
*3:PIC/S GMP Guide Part I
https://picscheme.org/docview/4588
CHAPTER 2 – PERSONNEL
 Principle
 General
 Key Personnel
 Training
 Personnel Hygiene
 Consultants
PIC/S GMP Guide Part II
https://picscheme.org/docview/4589
3. Personnel
 3.1 Personnel Qualifications
 3.2 Personnel Hygiene
 3.3 Consultants
PIC/S GDP GUIDE
https://picscheme.org/docview/3450
CHAPTER 2 PERSONNEL
 2.1 PRINCIPLE
 2.2 GENERAL
 2.3 DESIGNATION OF RESPONSIBILITIES
 2.4 TRAINING
 2.5 HYGIENE
 
*5:GMP監査として、本邦省令の条項に基づくチェックリストを用いて「あり/なし(Yes/No)」で行っている会社様にあっては、この条項建ての違いから、そのチェックの目的を見誤る可能性があるので要注意だと思います。
ちなみに、筆者は事前質問状を重視し、その回答から毎回チェックポイントをピックアップし、実地に際しては訪問時の質問と応対者の回答により臨機応変に対応していました。
《注》良いか悪いかは別として、Associate auditorを含む同行者には教育訓練(指導)の一環としてチェックリストを作成して貰っていましたが、Lead auditorとしての筆者自身は、彼ら作成のチェックリストを踏まえての内部事前打合せでポイントがインプットされるため、別途にチェックリストを用いる必要がありませんでした。
 
*6:企業間での監査や行政査察での教育訓練のチェックとして、記録確認ではなく、評価基準の設定根拠と適格性判定(間違っても自己評価による理解度ではない)に重点を置いてみては、いかがでしょうか。
個人的経験からは、唐突な質問に対する回答や求めた説明(ある意味ではインタビュー)には、当該製造所や応対者のレベルや現状が反映されていることが多いと感じます。一例としては、以下のようなものです。
①「この教育訓練では何を教えたかったのですか? その際の評価として教育訓練責任者は何をもって理解したか否かを判定しましたか?」など~教育訓練責任者自身のレベルも同時に判定できます。ちなみに、SOP云々を言い出した場合、大方はアウトです。
②「お宅は、製造部門の長として製造管理責任者という立場ですが、ご自身の立場としての業務を説明していただけますか? 製造記録の何をチェックしてOKとするのですか?」など~製造管理責任者自身のレベルが判定でき、そうなれば当該製造部門のレベルも推して知るべしとなります。
③また、「あなた自身が部門長として講師を務めたことはございますか? その際は、何をテーマとしてどのように講義なり説明をしたのですか?」といった質問も効果的~当たり前ですが、講義を受ける立場と行う立場では、段違いの理解度が求められるので、そのレベルが一目瞭然となります。
 

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