ドマさんの徒然なるままに【第44話】Continued QA
第44話:Continued QA
序章
本話は、『勝手にGMP論』シリーズ*1の第9弾(カミングアウト版を除く)である。このシリーズ、(前後編のスタイルを取っていることもあるが)基本的には一話完結に近い形で書いている。が、シリーズとして通しで読んでいただけると、良いか悪いか or 同意見か否かは別として、筆者の「(医薬品)品質の保証に対する考え方」を如実に示していることが分かるはずである。
ただ、これらは必ずしも品質保証部門(以下、QA)の立場にフォーカスした形で書いている訳ではない。本話では、今までの本シリーズで筆者が伝えたかったポイントを整理する、と共にQAの立場としてどうあれば良いかという私見を示したい。
なお、本話においては、品質に関わるGood Practices全体、具体的にはGMP省令・GQP省令・GCTP省令・GDPガイドライン・その他PIC/S GMDP等の総称として「GMP」と記している。特定のGMPに言及している場合には、都度具体的に表記を施しているので、その点をご了承願いたい。
第1章:ちょっと“おさらい”です。
細かいことはさておき、筆者が各回でお伝えしたかったポイントの“おさらい”です。
- 第1弾:第5話「X+Yの悲劇」
GMP要件や承認要件を満たすために、自社・自製品に最もフィットとした手段・アプローチを考えつつ実行することが必要かつ大事である。それにも関わらず、一般論として示された規制を額面通り(悪く言えば、機械的に)にやっているだとか、行政に言われたからやっているというスタンスが散見される。これを改めていかないと真の意味でのコンプライアンスには至らないという、悲しむべき現実がある。 - 第2弾:第6話「Psの悲劇」
「何のためにコレをやっているのだろう?」という意識が重要であり、「Potential Risks」に対して「Preventive」「Prospective」「Proactive」に対応することで、品質不良や品質劣化による被害・危害から患者を守るということが、本来の品質保証である。 - 第3弾:第9話「Sustainable GMP」
立派な看板あるいは建前のようなGMPよりも、多少の拙さはあったとしても、また地道で目立つものではないとしても、当該会社・当該製造所の身の丈に合った、着実かつ堅実に実行し続けることのできる、中身のある「Performance GMP」が求められる。 - 第4弾:第10話「世界に一つだけの GMP」
GMPにおける普遍的な本質を理解した上で、サイエンスベース・リスクベースなアプローチによる柔軟な自製造所・自製品に特化した、実態に則した手順書の作成とその運用が求められる。 - カミングアウト版:第14話「Into The Unknown」
COVID-19パンデミックのような予期せぬ“未知との遭遇”の事態に対して、今般の経験を活かし、「未知への旅」として新薬を開発し人類の救済にあたることこそが医薬品企業の本来の使命である。 - 第5弾:第18話「ミッション:ポッシブル」
COVID-19パンデミックにより、訪問による実地監査ができなくなったということで、筆者の考えうるリモート監査等での考慮すべき点を挙げた。その後、各講演や各誌での情報もたくさん出たこともあり、一参考情報として受け止めていただければと思う。 - 第6弾:第27話「GMPの質・前編」および第28話「GMPの質・後編」
GMPの中に存在する“しつ(quality)”と“たち(character)”について、教育訓練の在り方と共に運用の仕方について述べた。 - 第7弾:第32話「品質道」
「Quality Culture」もさることながら、日本人の感性に訴えかける、その構築・維持・向上というプロセスを重視した「品質道」を考えてみたいという提案である。 - 第8弾:第40話「教育訓練・前編」および第41話「教育訓練・後編」
教育訓練の真の目的は「ヒトのqualification」であることを再認識して行うべきであり、職員はqualifiedされていなければならない。それを踏まえて、上級経営陣にあっては、製薬会社としての正義を全うできる「Qualified Management」でなくてはならない。
第2章:人まねをやめません?
他社の情報や各規制当局の情報が多いことは有益である。が、それらに振り回されていませんか? たくさんの情報を参考にし、そこから自社・自製造所に見合ったGMPにして行くことが大事であり、「隣の芝生は青く見える」からと言って、まねをしたって意味がないんじゃないですか。そもそも会社規模のみならず、製造している製品も違う。製品が違えば、その物性や特性はもちろんのこと、製造方法もスケールも違う。違うモノ・コトを合わせようとすることに無理があると気づくべきである。違って良いのである。問題は、その違いが何であり、なぜ違えたか(あくまで自分の意思で違えるということが前提である)という理由である。そこには、サイエンスベース・リスクベースの根拠が反映されていなければならないし、そうやって考え方を養っていくべきである。そして、それを自らが率先垂範し、拡大して行くことこそがQAのお仕事なんじゃないでしょうか。
第3章:査察・監査対応の一過性じゃ意味ないじゃん!
ハッキリ言う。GMPの組織体制が構築されており、承認書(DMFを含む)に沿ったSOPに従って、それなりに運営を正直に図っている会社・製造所であれば、行政査察や委託先監査等は、メジャー・マイナーといった指摘(クリティカルという表現を使いたがる会社もある)*2を受けてもパスするはずである。
指摘ゼロは望ましいことではあるが必須ではない。むしろ、気づかなかった指摘を受けることで改善を図れることだってある。Positive Thinkingの一環として、Continual Improvementのつもりで、甘んじて指摘を受けてもいいんじゃないでしょうか。
筆者、自慢にも何にもならないが、契約違反とまで言われ、数多くのクリティカルとランク付けされた指摘を受け、さらには相手先オーディターから「QA失格」とまで罵倒されつつも、ここまで来た*3。大事なことは、指摘を受けたことではない。受けた指摘の意味や状況を冷静に熟考し、2度と受けないレベルにアップさせることである。苦労はする。が、苦労なくして楽に向上が図れるなんて思わないほうが良い。世の中、QAに限らず、GMPに限らず、そんな甘い世界があるはずがない。むしろ、苦労した分を血となり肉として「いまに見ておれー!」と、転んでもただでは起きないでいいんじゃないでしょうか。
査察や監査のたびに、必死で“指摘減らし”みたいな作業をやって、何の意味があるんでしょうか。ときに、そんな製造所を見かけることがある。複数回の監査を行っていると、それが垣間見え、逆に普段の実態に疑問を抱かせることに繋がる(監査する側として言いたくはなるが、明白な根拠が無いため言えないだけです)。同じエネルギーを使うのであれば、根本的な“向上”を見据えて対応したほうが賢明なんじゃないかと思うのですが、いかがでしょうか。
第4章:Continual ImprovementはPQSの目的だけどQAの目標でもあるよね?
“Continual Improvement”って、ICH Q10(医薬品品質システム Pharmaceutical Quality System:PQS)*4の主たる目的ですよね。そのためのいくつかの“elements”があり、達成手段として“enablers”がある。末端的には、製造ブロセスや承認書の変更に相当するかもしれないが、あくまでシステムとしては、それらの積み重ねである。技術的進歩は品質のベースとなるが、現実対応が「技術の進歩 = 品質保証の進歩」として見合っているとは限らない。あくまで、技術の進歩に合わせて保証の仕方も歩調が合っていなければならない。品質保証の担当はQAである。だとしたら、QA自身が進歩しないで、どうやってそれを達成しようと言うんだ。現状維持ではない。現状の維持は、あくまで現実の技術的進歩に合わせて、それがマッチしているからこそ維持できるのであって、ほおっておけば、現状さえも保証することは出来ず、取りも直さず、それは“後退”を意味するものでしかない。
第5章:QA自身が変われないなら現場に何を言ったって変わるはずないじゃん。
結論は明白である。QA自身が、向上のために自身を変えましょう。「向上する(させる)こと = 何かが変わる(変える)こと」のはず。だとしたら、現場を含む他者に言う前に、まずは自身を変えましょう。貴方が変われば、それに気づく者が必ずいる。そうすれば、前向きに捉えて変えようという雰囲気が出てきて、少しずつではあっても変わって行くはずである。
少なくとも気持ちと行動として、“continued” *5しませんか? 多種多様なことが求められる現在において、期待されるQAとは、そんな“continued”している部門なんじゃないかと思います。
第6章:勘違いだけはするなよ!
QAの“continued”なんて言うと、必ず勘違いする者が出て来るような気がしてならない。過去、「QAは工場の警察」みたいなことを言われる時代もあった。ただ、経験も踏まえてハッキリ言う。QA業務は警察のような取り締まりや監視をするものではない。あくまで、クスリの使用者である患者さんの目線で、社内の医薬品品質に係るすべての者が手違いや勘違いを起こすことなく作業しやすい状況にすることである。その細やかな気配りと念入りなダメ押しが、結果として品質の保証に繋がるのである。そのための1つ1つの注意すべきことをGood Practicesとして整備・整理しているだけである。
変に存在感を増してしまったQAではいけない。あくまで普段は裏方でいい。ただ、品質に何か問題が生じれば自分の責任だという意識は持っていなければいけない。「何も無ければ相手されない。それが当たり前だから。ただ、何かあれば責任が問われる。それがQAの宿命であり、存在意義なのだから。そんな部署でいい。」、これが筆者の抱いているQA感である。異論や反論のある方も多いかと思うが、それはそれでいい。周囲を見守りながら、技術の進歩や規制の動向に合せて自身の意識と対応を変え、僅かずつながら組織全体の意識と対応の改革を図り、いつの間にかレベルを向上させている。そんな“Continued QA”であり続けたい。
終章:シリーズ各弾におけるQAの対応
「第1章:ちょっと“おさらい”です。」に述べた各回(各弾)のポイントをQAとして実行するために、以下のことを意識してみては、いかがでしょうか。
- 第1弾:第5話「X+Yの悲劇」
要件の本質を見極めましょう。同時に、自社・自製品をとことん理解しましょう。“フレキシブル”とは本質からズレることでありません。本質を貫くことに変わりなく、あくまで手段・アプローチについての柔軟性を容認し、便宜を図るだけです。 - 第2弾:第6話「Psの悲劇」
問題が生じてからアタフタとして処理するようでは、いつになっても本来の品質保証には繋がりません。あくまで、「Potential Risks」に対して「Preventive」「Prospective」「Proactive」に対応するように努めましょう。普段から意識して対応すれば、時間はかかっても身に着きます。そして、それが本来のQAの役目です。 - 第3弾:第9話「Sustainable GMP」
査察・監査をパスさせるだけの一過性のGMP(見た目のGood Practices)は、何の意味もないことを再認識すべきです。無通告査察(立入調査)でも大丈夫なように普段からキチンとやり続けましょう。 - 第4弾:第10話「世界に一つだけの GMP」
自社・自製品を本当に理解し、サイエンスベース・リスクベースと唱えるのであれば、一般論と“同一”なんて事態は在り得ません。それは他社・他製造所との違いだけでなく、製品ごとにも反映するはずです。 - カミングアウト版:第14話「Into The Unknown」
地球温暖化もあって、今までにない感染症等が発生する可能性は高い。新たな物性・特性を有する新薬開発が求められ、それに合わせての品質保証の仕方が必要となったとしても、医薬品に求められる品質保証そのものが変わることはありません。どのような事態や状況にあっても対応しうる策を意識しておきましょう。 - 第5弾:第18話「ミッション:ポッシブル」
リモートであれ、ハイブリッドであれ、手段は色々と考えられます。むしろ、委託先・供給先に対する品質リスクマネジメントに基づいた結果から、どのやり方がベストかを考えるべきであり、それが本来の監査です。受ける側としては、どんなやり方であれ、それが向上に繋がるとして協力する姿勢を示しましょう。 - 第6弾:第27話「GMPの質・前編」および第28話「GMPの質・後編」
自社・自製造所に対しても、委託先・供給先に対しても、誠実に分析・評価しましょう。受ける側としては、相手の言い分に対して素直に耳を傾けて、それが妥当であれば改善に向けましょう。 - 第7弾:第32話「品質道」
自分で理解し易い、納得しうる形で「品質保証」をレベルアップさせさえすれば良いだけです。「Quality Culture」であれ「品質道」であれ、そのスタイルは何でも構わないと思います。自社・自製造所にマッチした目標を掲げ、それに向けて邁進することが大事です。 - 第8弾:第40話「教育訓練・前編」および第41話「教育訓練・後編」
Good Practicesで最も厄介なのは「ヒト」であり、そのための教育訓練であることを再認識して対応すべきです。そういうQAもヒトが担当していることを意識して対応しなければなりません。むしろ、QAがqualifiedされていなければ、総崩れにもなりかねません。
では、また。See you next time on the WEB.
【徒然後記】
バナナ
今年の春以降、ほとんどすべての物品がと言ってよいほど値上がりが続いている。背景にロシアのウクライナ侵攻や円安があるといったこととは別に、基本が年金となって生活している身としては非常に厳しい現実がのしかかる。
筆者の住む近辺は、(他人のことは言えないが)年寄りが多い。そんなこともあってか、ほとんどのスーパーの店頭にはバナナが置いてある。筆者が子供の頃、昭和30年代であるが、バナナはパイナップルと共に、家族の誰かが病気で入院するか葬式でもない限り、見かけることさえなかった高級フルーツであった。要は、見舞いや香典のフルーツバスケットということである。当時は、戦後の影響がまだ残っていた時代であり、交易・関税等の関係からフィリピンや台湾などからの輸入が制限されていたこともあって、子供時代の高級フルーツとして“高嶺の花”で指をくわえて眺めていた。
その反動からか、高齢者と呼ばれる現在になって、食したくなることが多い。パイナップルは、現在でもさほど安くなっていないが、バナナは高級なものから数本100円程度のもの(最近は98円から148円となりガッカリしている)まで存在する。筆者が買うのは後者の安いものだが、栄養価とのコスパで時々購入する。その際に毎回「子供のときにコレが喰えていたらなー!?」という思いがよぎる。
このGMP Platform読者の中には、筆者と同世代、あるいはよりお歳を召した方も居られるであろう。別に同意を求めるつもりはないが、そう思いませんか?
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第1弾:第5話「X+Yの悲劇」
第2弾:第6話「Psの悲劇」
第3弾:第9話「Sustainable GMP」
第4弾:第10話「世界に一つだけの GMP」
カミングアウト版:第14話「Into The Unknown」
第5弾:第18話「ミッション:ポッシブル」
第6弾:第27話「GMPの質・前編」および第28話「GMPの質・後編」
第7弾:第32話「品質道」
第8弾:第40話「教育訓練・前編」および第41話「教育訓練・後編」
「連発されるようなお前が悪い」と言われれば、それも確かにそうだとも思いますけど・・・。
《注》指摘のランク分類は各社で違います。ラップアップ時には、まずランク内容について説明しておきましょう。受ける側(特に、受託製造業者)にとっては、複数社を相手していることもあり、困惑と混乱の元になる可能性があります。
*3:詳細は、第30話「グッジョブ!」を参照のこと。
*4:ICH Q10
https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0039.html
*5:あくまで参考に過ぎませんが、“continued”、“continuous”と“continual”の違いについて。
https://toshian.net/mame-65/
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