ドマさんの徒然なるままに【第1話】



第1話:リーサル・アカン

「つれづれなるまゝに、日ぐらし、硯(すずり)に向かひて、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそ物狂ほしけれ。」 読者の皆様方もご存じの吉田兼好の『徒然草』の冒頭の一説である。

今般、縁あって、本GMP Platformのアーティクルを、しかも連載として執筆することになった。どうせ執筆するならば、少しでも吉田兼好の心境でGMPやGDPの話を語りたい(偉そうにすいません)という思いから、少しでも読者の皆様が仕事の合間に気楽に読めるものを、しかしながら、「えっ、そんなこともあるのか? 知らなかった。」、「そういうことが背景・理由にあったのですね。目から鱗です。」などといった、生真面目な先生方が絶対に記すことのない話をお伝えしたい。本話は、その第1回目として、まずは肩慣らしの話である。

筆者、今にして振り返れば、2000年6月から品質保証業務に従事している(それ以前は、一応研究者で技術者)。そして、海外の某共同開発先による監査で「委託製造先や原材料購入先への監査を実施していない」との指摘を受け、2001年9月にはじめて先輩と共に中間体製造委託先へのオーディットに行った。数回目からは自身がリードオーディターとなり、その後はオーディター養成も踏まえて、国内外の委託先・委託先候補・原材料のサプライヤー等に行くことになった。転職もあったが、会社が変わっても、基本的には品質保証部門の一員としてオーディットはそれなりの数をこなした。

さらに、自社或いはグループ内の製造所(倉庫のみの場合を含む)やCMC研究所(治験薬の場合は研究所が製造している場合があったため)に自己点検としての社内監査もかなりの数をこなした。

当然のことながら、同じ工場を複数回訪れたこともあれば、同一法人の別工場(サイト違い)に訪れたこともある。長いことやっていると、色々なことを経験する。必ずしもいいこととは限らない。唖然とするようなことを目の当たりにすることもある。そんな、「えぇー!」と“目がテン”となってしまったことをお伝えしよう。

ただ、ここで紹介するものは、GMPとして何が驚くべきことで、何が問題点であったのかのポイントを絞って記しており、しかも、読者への分かり易い“読み物”として適度の脚色も加えている。実際の監査では、ごくごく当たり前の部分や良い部分も沢山あった。そんな中での出来事であり、内容に依っては複数企業で類似の状況に遭遇したこともある。そのため、特定の会社や工場として誹謗・中傷する意図はなく、冷やかすつもりもない。あくまで、「こんなことをしてはいけない」ということ。と同時に「もし似たようなことや近いことをやっているようなら即刻改善したほうが良い」というアドバイスのつもりでお伝えするものである。


● お宅が製造管理者?
「製造業者は製造所ごとに製造管理者を置くこと」はGMP省令の基本要件である。今般の改正GMP省令(案)では、従来の製造部門と品質部門の管理監督に加え、医薬品品質システムの管理まで求められる方向で進んでいる。それはそれで良いのであるが、生物由来製品でない、一般の医薬品については薬剤師でなければならない。日本では、原薬も薬機法において「原薬たる医薬品」とされ、医薬品として取り扱われる。

一昔前、2005年の旧薬事法の大改正に基づき、製造と販売とが切り割れられ、製造の全面委託が可能となった頃、原薬やその中間体等の受託製造業者、特に、元々は化成品製造を主として事業していた工場がファインケミカル、さらに医薬品事業へと進展させたケースが多く見られた。

この手の会社にとっては、製造販売業者と異なり、薬剤師の確保もままならない。特に地方の元化学工場からの転身・発展企業にとっては、製造管理者としての薬剤師の確保は困難を極める。絶対人員が少ないことに加え、薬剤師という資格が必要である。そうなると、GMPの理解度以前に薬剤師という資格が優先されるという事態さえ生じる。

ごく一部の会社であり、現在では改善されているものと思うが、こんなことがあった。委託先監査で先ずはご挨拶となる。製造管理者として紹介されたのは、失礼な言い方とはなるが、「スーパーのレジでよく見かける中年のオ●チャン風の方」である。決してバカにするつもりも差別するつもりもなく、あくまで外観や雰囲気を分かり易く伝えるための表現ということでお許し頂きたい(筆者には婉曲に表現しうるほどの文筆能力がないということだけのことである)。

製造管理者、男女も年齢も無関係であり、その立場の役目を果たしてくれれば、それでいい。しかしながら、現場ツアー時の同行もしない。書面調査時の質疑応答には、説明どころか何のコメントもない。ただ、黙って座っているだけ。ややもすると常勤なのかどうかさえ疑問を抱く。2005年3月末までの旧GMP省令では、「製造管理者=出荷承認者」と規定されていた。えっ、と言うことは、製造現場も知らず、GMPの中身も分かっているとは思えない者が出荷承認? そーいうことなんです。レギュレーション的には違反していない。が、品質保証ということでは、はなはだ疑問を呈する現実が存在していたのである。

さて、読者の皆さん、コレをどう思いますか? その判断は皆様にお任せしますが、雇う側も雇われる側も、せめてキチンと教育訓練の下に、最低限の製造管理者としての責務を認識し実行して貰いたいと願う。


● 印鑑ボックスの謎
通常、委託先監査で製造部門の管理室にまでは立ち入らない。ただ、施設の構造的な問題で、製造エリア内に入るために管理室を経由することはある。

某製薬会社の製造施設がまさにそうであった。管理室に入るなり、部長秘書のような感じの年配の女性が座っている。そのすぐ傍にはシャチハタ等、数多くの印鑑が花壇のように立っている。たぶん、製造部門の全員の分なのであろう。「あぁー、事務処理をなされる方なんだなー。」と思う。が、またその隣のデスクに山積みされた製造記録が目に留まる。皆さん、この光景をどう思います?

その際の筆者としては、「この女性がまとめて捺印しているんじゃないのか?」としか思えなかった。もちろん、製造管理責任者である部長さんの分もである。正直、頭から疑っての質問も出来ない。仕方なく、「あのー、この情景、誤解を生じるのでやめた方がいいですよ。」とだけ伝えた。でも、ホントのところはどうだったんだろうか。今でも疑問に残る。


● クリーンゾーンの切り替え?
製造エリア内のクリーンゾーン、そのクラスがどうであれ、立ち上げ時のバリデーション(クオリフィケーション)に始まり、以降の維持管理に多大なる労力を要する。通常、ある清浄度区分としての環境管理を行うのであれば、非作業時も含めてその環境を保持しなければならない。

某原薬受託製造業者の話である。ISO 8(Class 100,000)の最終原薬取扱い用のクリーンルームの使用記録を拝見させて頂いた。そこには「切り替えのため停止」、「クリーンルーム復帰のため環境測定」といった言葉が記されている。「これ、どういう意味ですか?」と筆者。「弊社では、中間体等、最終原薬以外では必ずしもクリーンルーム内で作業することは規定していないので、最終原薬以外の物を当該ルームで製造する際は、環境規定から外しています。」との回答。

唖然! 同一のクリーンルームの清浄度区分を製造する物で切り替えるという行為。筆者の中でも初めての経験。どう解釈してもGMPの考え方からは大きく逸脱しているとしか言いようがない。普通は「逆だろ!」と心の叫び。設備のロットサイズや他品目の生産計画の関係から、やむなく一時的に必ずしもクリーンルームの清浄度を必要としない製品を製造する事態が発生することはある。そうだとしても、当該クリーンルームの環境で中間体等を製造すればいいだけ。

一歩引いて、一時的にクリーンルームの清浄度を下げて使用するような事態が発生するかもしれない。ただ、その場合、使用後に元の清浄度に復帰・安定させるためには、単に清浄度を測定するだけでは済まず、ほぼ再バリ―ションに近い作業を要することになる。再バリ―ションの手間を考慮するならば、むしろ先述のような本来のクリーンルームの環境での製造(より清浄度の高い環境内での製造)の方が楽なように思う。それを製造物によって環境の切り替えを常態的にやってるとは・・・。

さらには、「作業開始前と終了後に環境測定して問題のないことを確認している。」との言い分。それってリスクアプローチになっておらず、単に結果論。“たまたま”ということだって十分に在り得る。「それ、おかしいですよ。」と言ったら、「貴社の製品については、作業前後に加え、作業中も測定しますから。」というコメント。そういうことじゃないんですが・・・。ホントにリスクベースの考え方、分かって欲しいんですけど。今まで、他の委託先さん、何も言わなかったの?

ちなみに、当該施設、その後に「真菌(カビ)が生えて、環境測定がアウトになった。」というオチまで付いています。エアコン切ったりしたら、特に夏場はカビさん元気に活躍しますよ。皆さん、ご用心のほど。
<<筆者注>> 真菌(カビ)の悪い所は、細菌(バクテリア)と違い、進化が進んだ微生物で、かなり強い生命力。通常の殺菌剤程度では死滅しない。さらに悪いことに、壁のちょっとした亀裂から壁の裏側に繁殖し易いため、表面的な清掃や洗浄では除去不能となる。そして繁殖したカビを餌としてチャタテムシが繁殖し易く、さらにそれを捕食しようとゴキブリのような昆虫が侵入・繁殖し易いという、まさに食物連鎖の引き金になりうることである。ご注意のほど。


と言うことで、読者の皆さん、ちょっとしたことが大誤解を生んだり、不安・不信の元になるので注意しましょう。なんだ大したことないじゃないかという感覚でおられるのであれば、あなた、それ病気とも言える状態です。しかも、完治不能、まさに致死的(リーサル)な状態です。

あなたのお母様はお強いですか? 私の母は30年以上前に他界しておりますが、大変強い、まさに“リーサル・オカン”でしたけど。

では、また。See you next time on the WEB.
 
【徒然後記】
日本は平均寿命世界第一位を誇っている。男性に限れば世界第一位ではないが、それでも長寿国と言える。長生きであることは良いことである。ただ、健康年齢という観点で捉えた場合、平均寿命と必ずしも一致しない。筆者、平均寿命からすれば、まだ若造のジジイであるが、もろ健康年齢。健康診断では、要再検・要精検の成人病真っ盛りで、いつ病院に担ぎ込まれてもおかしくない数値が列を連ねる。正直、長生きしたいとは思っていない。いつ死んでもいい。一方で、子供たちに看病や介護の面倒をさせたくない。そう思いつつ今日を生きている。

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