ドマさんの徒然なるままに【第55話】Flexible GMP・前編

第55話:Flexible GMP・前編

序章
本話を読み始めた読者にひとつだけお願いがあります。別に熟読する必要はありませんが、読み始めたら、ザーッとでも良いので最後まで、続く後編の第56話までお読みください。そうでないと、本話のタイトルとして“Flexible”と付けた、筆者の真意が分かりません。書いておいて言うのも何ですが、誤解だけは避けたいのです。よろしくお願いします。

なお、本話は、『勝手にGMP論』シリーズ*1の第10弾(カミングアウト版を除く)である。筆者のような、Good Manufacturing Practicesと称する品質の管理*2についての手法が規制要件として日本上陸する前 or 行政も企業もその意味を十分に理解できていないGMP黎明期における、一昔前のGMP組織を知っている者として、現在のような“立派”とも言えるGMP、その他の規制強化やその運用について、何となく疑問を感じることがある。そんな根拠もない、もろ感覚的なことを、勝手な言い分で書いてみました。

なお、本話においては、品質に関わるGood Practices全体、具体的にはGMP省令・GQP省令・GCTP省令・GDPガイドラインの総称として「GMP」と記しているので、その点をご容赦願います。特定のGMPや本来のGMPに限定して言及している場合には、都度具体的に表記を施しているので、その点をご了承願います。


第1章:Good Manufacturing Practices上陸以前の品質って管理されてなかったの?
当時は製造部門を中心に設置されていた「QCサークル」や「提案委員会」を懐かしく感じる。じゃー、当時は、品質の管理*2が未熟であったかと言えば、そんなことは無かった。当時、品質保証という言葉や概念はあったが、必ずしも現在で言うQuality Assuranceという捉え方ではなく、それに特化した部署(部門)も、欧米に輸出を行っていた大手製薬会社でもなければ、本邦で設置していた会社は極めて少なかったのではないだろうか。

逆に言えば、当時の製造現場は、現在よりも自主的に品質を管理し、品質のみならず、効率化も踏まえて向上に努めていたんじゃないかと思うのである。当時だって製造指図・記録書を筆頭に、様々な手順書(SOPs)は在った。現在のGood Manufacturing Practicesで求められているシステムや要件からすれば、「ここが甘い!」と言われたらそうであったかもしれないが、非常に気真面目に、正直に実践していたと思う。


第2章:私、GMP至上主義者ではありません。
読者の皆さんはどうか測り兼ねるが、私は、GMDPに関わる者であるにも関わらず、「GMP至上主義」ではない。むしろ、製造関係時代も、QA時代も、そして現在も、「大義面分としてのGMPなんて好きになれない。記載要件を額面通りに受け取って暗記したように言っている奴が信じられない。」である。でも、「あなたが安心できる形で、品質は保証しますよ!」のスタンスである。“いい加減な奴”と言われたら、その通りである。が、自己責任の下、リスクベース&サイエンスベースで判断し、行動するという認識なのである。

GMP至上主義者ではないからこそ、GMPを筆頭としたGood Practices、そしてPQSといつたことを自分なりに勉強し、常にアップデートして対応しているつもりである。それで、「お前はおかしい」だとか、「思えは間違っている」と言われたことはない。少なくとも、「なぜそう思うか」、「なぜそうしたほうが良いか」という問いかけに対しては、キチンと説明できるだけの知識と経験は有しているつもりである。


第3章:とかく日本人にありがちなことって?
そんな中、GMP塾のような親切かつ丁寧なご指導に疑問を感じることがある。研修会やセミナー等での行政のご講演やグローバル企業の自社システムの紹介といったものである。それら内容に問題があるわけじゃない。正論であり、立派なシステムなのである。

ただ、聴講・受講する側のことを考えた場合、講師ほどGMPを理解しているとは限らないし、大企業とも限らない。とかく日本人にありがちなのは、「長い物には巻かれろ」といった状態に陥りやすいことである。また、「同調圧力」に屈しやすいということである。自社の製品数や従業員数も顧みず、最先端の情報に流され、それをマネしたがることが問題なのである。自社の不十分な点を補うため、改善のための「参考」であれば良いのだが、単なる「ないものねだり」で形式的な“見た目”だけを追う、もろマネであれば、現状悪化に繋がりかねない。本質を見失った、“Blind Compliance”のスタートである。それを危惧するのである。


第4章:そもそも、お宅、自分で考えたことある?
失礼とは存じますが、お宅、GMPの具体的対応、自分で考えたことあります? 他社でやっているからとか、普通はこうやると聞いたからとか、そんな影響を受けていませんか? 当たり前ですが、お宅で取り扱っている製品、他社と同じじゃないですよね? まして造り方なんて違っていますよね? だとしたら、違っていて当然であり、周囲の言葉に惑わされてどうするんでしょうか? 一歩間違うと、自分たちが正しいことをしていたのに、周囲に言われて無理に合せることで、目的とは裏腹に悪化の方向に進んでしまうかもしれないと考えたことあります? 

中には自分の考えを押し付ける人もいるし、言いすぎる人も多いですよね(お前だってか? すいません)。こんな、“押し付け”とも言えること、ちょっと冷静に考えてみませんか。根が真面目で素直な方々ほど影響を受け易いんじゃないですかね。最近は、情報が沢山あって勉強し易い環境にありますけど、GMPの世界もSNSの世界と同様に、すべてが正しいとは限りませんよ。自分の都合優先で物事を捉えると、「確証バイアス」*3のトラップにはまってしまうので、注意したほうがいいですよ。


第5章:受ける側の問題なのですが、困ったちゃんです。
前々章と前章について、もう少し具体的に説明しよう。

例えば、行政のご講演や査察でのコメント、有り難いと同時に「行政のご指導に従えば良い。」、「行政のご指導がベストである。」といった、“日本人ならでは安易な従順さ”を助長させてしまう可能性が潜在しているのである。一歩間違うと、真面目であればあるほど、「現場では、こういうやり方のほうがやり易いんだけどなー。」、「あのご指導、理屈では確かにそうなんだけど、逆にうちでは手違いが増える可能性もあるよなー。」といった、査察官の思惑とは別方向に行ってしまうことも否定できないのである。

さらに、グローバル企業の「弊社の●●構築と運用」といった素晴らしい内容、それを否定するものではないが、自社の企業規模も顧みない、「羨ましい」を通り超えた「うちもアレをしよう。」といった安直な判断により、勘違いの方向への誘導が起こりかねないのである。

行政としたら、別に強制しているわけでも何でもなく、「こういう事例や事案がありますので、ご注意ください。こういったことに対しては、こういう形での対応もご一考ください。」と言っているだけでしょうし、グローバル企業の話では、「弊社はこういうやり方で上手くいきました。」と事実を紹介しているだけと思う。ハッキリ言って、聴講・受講した側の問題です。ただ、日本人の特性なのか、“我が身を考えず”に、「うちも」という短絡的発想、いわゆる“同調”し易い人間、さらに言えば、“同調圧力”をしがち、かつ受けがちな人間に対しては、注意が必要なんじゃないかと思うのである。行政や大手企業さんへのお願いです。あくまで「講演は一参考情報であって、あくまで自分で、自社で考える。」ことを推奨していただけませんか?


第6章:もう少し柔軟な考え方と運用はできませんかね?
自社(自製造所)、突き詰めれば自身で考えて行動することについて、もう少し検討してみても良いのでは? 「SOPに従って作業する」ということの真意は、「それで間違っていないかどうかを判断して実行する」ということが前提で、「何も考えずに記載通りに実行しなさい(指示されていることに黙って従え)」という意味ではないと考える。「自身で考えながら作業する」ということと「SOPに従って作業する」ということは、同時進行できる(同時進行で進めるべき)ことだと考える。

「SOPに従って作業する」ということを額面通りに受け止め、あまりにも頑なに解釈してしまうと、「何も考えず、また疑問を抱かず、書いてある通りに実行すれば良い(余計な事を考えるな!)」ということになってしまう。これは危険である。SOPに不備があることだってあるかもしれない。SOP自体に不備はなかったとしても、「なにも考えず盲目的に従うことがベスト」としてしまうと、改善や改良に繋がるとは思えない。それが連鎖すると、当該GMP組織全体の“Blind Compliance”の増長に繋がっていくように思う。

本来、現場での“生の声”が改善・改良の本来の姿なんじゃないのか。医薬品製造で言えば、少なくとも現場を熟知していないQAが言い出すことではない。現場での改善・改良とGMP上の変更管理とは意味が違う。軽微届出や一変が伴うか否かは、評価の結果としての薬事手続きの問題である。QAは、あくまで客観的・論理的・科学的に評価・分析し、その妥当性を根拠として社内承認するだけのはずである。先に述べた点、QAも意識して注意して貰いたいと願う。

くどいようだが、誤解回避のために言っておく。現場での柔軟な発想に余地を残したほうが良いと言っているだけで、現場で勝手にやって良いなんて言っていない。そんなことをすれば、承認書記載事項との乖離を招くだけでなく、GMPでいう変更管理さえも無視した行為にあたる。


第7章:そうは言っても、良からぬことをしだす輩がいるのも事実なんだよねー。
ただ、研修会等でどんなに丁寧かつ親切に説明しても、また失敗事例を示しても、まったく効果が無い会社(製造所)がある。この手の会社(製造所)、特に権限を有した上級経営陣は、ほぼ間違いなく、「自分のところは、キチンとやっていて問題ない。」としか思っていないと想像する。自分自身を客観的かつ改善を前提に冷静に見つめていないので、向上を期待したところで無意味である。どれだけGMP省令を改正し、関連通知を発出したところで「うちには関係ない。」としか思っていないので通じるはずがない。この手の会社(製造所)に対しては、査察や監査等で、面と向かって「お前の会社(製造所)は、コレコレが問題なんだよ!」と言い放つしかないと思っている。何度言っても分からない奴(話の通じない輩)に対して、お宅はどう対処しますか? 正攻法は無理なんじゃないかと思うのですが、どうですか? 


第8章:品質問題と規制強化のタイミングが合いすぎだと思うのは、私だけ?
6~7年前から悪質なGMP違反企業が頻発しだした(露呈しただけ?)。一方で、GMP省令の一部改正を筆頭に規制強化が進められる。元々GMP省令の改正は、2012年のPIC/S加盟申請時から(PIC/S GMPとの整合を図っていくとして)申し出されていた話ではあるものの、タイミング的には、あたかも“悪質企業のための規制強化”のように映ってしまう。

筆者は法律家ではないので、好き勝手なことを言うが、規制強化と悪徳企業の是正(懲罰?)を区別して推進しては? 違反企業に対する処罰をより厳格化する。医薬品が国民の健康に直結する必須のものであり、欠品が許されない辛い状況下にあることは理解するが、違反者に対する罰則、他の産業に比べると甘いように感じる。数十年以上前からの「護送船団方式」が現在でも変わっていないってことなんですかね? 

ちょっと目線を変えて、純粋に品質の維持・向上に向けて、より使い勝手の良い具体的なガイドライン等を制定するということだって考えられるんじゃないかと思うんですよね。ずばり言いますが、規制強化で製品の品質が向上するわけじゃないですよね? もし規制強化で品質が向上したとしたら、それって「じゃー、今まで何だったの?」ってことになりません? PMDAから「オレンジレター」なる分かりやすい違反事例が紹介され、チェックポイントも示されており、GMPの理解促進には繋がるんですが、「うちはちゃんとやっている。」と思い込んでいる輩の問題企業には通じない一般論のように思えます。

率直に言っちゃいますけど、規制強化は良い・悪いに関係なく、すべての企業に影響する。今までも一生懸命に対応してきて、もう限界に来ている中小企業だってあるんじゃないですかね。筆者だけかもしれませんが、規制強化って明るい未来が見えず、規制対応に疲弊した“マトモな会社さん”の姿しか見えないんですよ。まっとうな会社さん、特に中小企業は反論しませんからね。言われれば、(我慢しながらも)素直に従う。うーん、コレッてどうなんでしょうね。


前編のおわりに
科学の進展および技術の進化に伴い、製品自体が高度化している。そのため、その製品の品質保証も高度化させざるを得ない。また、PIC/S加盟も含めて、GMPもグローバルな運用が求められるようになった。各極のGMPを使い分けしていた時代を生きた者としては、有り難くさえ感じる。だが、海外輸出などに無縁な、国内限定の製品を地道に製造している会社さんにあっては、この状況をどう感じているのだろうか。ふと、そんなことを考えたりする。

一方で、どんなに法規制を厳しくしても、“自社(自製造所)の実情”を認識していない(できていない)輩も存在する。そんな相反する社会の中では、規制強化の背景・事情は理解するし、それ自体を否定するつもりもないが、規模や製品内容からすれば、「そこまで本当に必要か?」といった、根がマジメな会社(製造所)ほど、改正のたびに、通知のたびに、必死で対応してくれていたりする。こういう状況を垣間見てしまうと、「真面目な奴ほどバカをみる」ということだけは避けて欲しいと願う。

筆者の若い頃のスポーツ、基本的に“根性論”であった。現在でこんなことを言っていたら笑われるであろう。変な言い方かもしれないが、「GMP根性論」にならないように気を付けてほしいと願う。“ストイックな会社(製造所)”だってか? それって、単なる「パワハラの根源」にすぎませんからね。そんな会社(製造所)が経営陣含みで問題を起こしたんじゃないですか。ちなみに、パワハラも、加害者側は絶対に「自分はそんなことしていない。」としか思っていませんよ。そんな感覚だからパワハラするんですから。セクハラも同じだってか? 私もそう思います。

次回の第56話・後編では、ちょっとひねくれた見方をする奴(私のことです)もいるということで話を続けたいと思う


では、また。See you next time on the WEB.



【徒然後記】
幼児虐待2
幼児虐待については、このドマさん第9話「Sustainable GMP」の徒然後期として一度取り上げた。以降、減少するどころか、増加しているように感じられる。そんな中、神戸市でアンビリーバブルな事件が発生した。殺害されたのは、6歳の穂坂修(なお)くん。容疑者はなんと、修くんの母親を含む叔父・叔母の4名。どうも一家の次男にあたる叔父の支配下にあっという話もある。祖母にあたる容疑者の母も虐待されたが、なんとか逃げ出したとか。
我が子であろうがなかろうが、子供を虐待したり、まして死に至らしめたりなんて、やれと言われたって出来ることじゃない。確かに、カーッと頭にくるようなことも無いとは言わない。我が子を叱るつもりで、ついつい力が入って殴ることもあるかもしれない。でも普通、そこには手加減があるはず。本気で大人の力で殴るわけじゃない。心のどこかに、「お前を殴りたいんじゃない。こういうことは二度としちゃいけないと分かってほしいんだ。」と泣く泣くの行為であるはずである。
先の徒然後期に記したが、虐待を受けた子供たちには共通点がある。TVからだけで分かる。みんな良い子、凄くい良い子だということ。それが、なぜ、なんで・・・。未来を絶たれた子供たちのご冥福を祈りたい。現世では味わえなかった分を取り戻すほどに、天国で思いっきり笑って、遊んでほしい。ある意味、残念だけど、そこには君みたいなお友達も沢山いるんだろうね。でも、そこは虐待もないし、みんなお友達だよ。合掌。
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*1:『勝手にGMP論』シリーズ、第1弾から第9弾までは、以下の通りである。
第1弾:第5話「X+Yの悲劇
第2弾:第6話「Psの悲劇
第3弾:第9話「Sustainable GMP
第4弾:第10話「世界に一つだけの GMP
カミングアウト版:第14話「Into The Unknown
第5弾:第18話「ミッション:ポッシブル
第6弾:第27話「GMPの質・前編」および第28話「GMPの質・後編
第7弾:第32話「品質道
第8弾:第40話「教育訓練・前編」および第41話「教育訓練・後編
第9弾:第44話「Continued QA
 
*2:「品質管理」と書くと、本来のQuality Controlの意味としてではなく、本邦では狭義(試験検査業務)と広義(本来の意味である製品品質の管理)の解釈による誤解を生む可能性があるため、ここでは敢えて「品質の管理」と記している。
 
*3:「確証バイアス」とは、自分の考えや信念を裏付ける理論や情報だけを積極的に集めてしまう心理傾向のことである。
《参考》https://gimon-sukkiri.jp/kakusyou-bias/

 

 

 

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