医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第61回】

2025/01/24 医療機器

今回はGLPについて述べたいと思います。

GLPのはじまり

 これまで2か月にわたりデータの信頼性確保に関する取り組みや規制について述べてきましたが、今回はGLPについてお話したいと思います。
 GLPのフルスペルはGood Laboratory Practiceで、昔、日本語では優良試験所規範と確か訳されていたように思います。私が獣医学生であった頃に薬理学か何かの授業で、教科書にこういうのがあるよと1行だけ記載されていた用語でした。優良試験所規範との訳を見ても何のことかさっぱりわからず、大学の先生も知りませんので、スルーというような状況だったかと記憶しています。

 GLPのはじまりは米国で、1970年代にFDAが法令化しています。1970年代というと、大阪で万国博覧会が開催されたり、オイルショックでトイレットペーパーがなくなったりした頃のことですが、以前も生殖発生毒性試験のところで話題にしたサリドマイドの薬害が1960年代から問題になっていました(第44回)。サリドマイドはもともとドイツの製薬会社が発売し、日本では1958~1962年まで販売されていた薬剤ですが、米国では製薬会社がFDAに申請した際、審査官が安全性に疑義を感じ、申請が却下されたため、薬害としては臨床試験で投与された少数の方だけに限定されたようです。どんなところに疑義を感じたのか、個人的にはたいへん興味があります。さらにFDAが調査すると、非臨床試験である生物学的安全性試験のデータに様々な虚偽、捏造が発見されました。生物学的安全性データの虚偽や捏造というと、毒性があったにも関わらずあたかも毒性がなかったようなデータに改ざんされいたということですが、そのようなウソのデータで安全性を担保していたということで大問題です。そこで、1976年にGLP基準が提案されて、1979年に実施されることになりました。私が大学に入学したのは1980年で、GLPという用語を習ったのは専門に入ってからのことですので、できたてほやほやの規制を教科書に掲載した先生は大したものですね。
 ところで、その内容はどんなものであったというと、今でも43 FR 60013というタイトルで、Federal RegisterのインターネットサイトにPDFが公開されていました。米国は世界で最も先進的なことを生み出し、経済力も世界一ですが、情報公開も大したものです。

 内容をちらっと拝見しましたが、 総則からはじまり、組織及び職員、施設、機器、試験施設のオペレーション、被験物質と対象物質、非臨床試験の試験計画書と運用、記録と報告、試験施設の欠格などのパートがあり、細かいところはアップデートされ続けているものの、基本的な考え方は、現代でも十分通用するものではないかと思います。

 一方、その頃の日本はどうかと言うと、サリドマイドは承認された薬剤でしたのでたくさんの新生児に先天異常が生じ、生活環境では塩素系農薬が住宅のすぐそばで多量に散布され、公害という言葉で示された工場から排出される毒性の高い物質による人の健康障害がいくつも問題になりました。、そして、今では禁止されているような食品添加物も出回った時代です。私はそのような時代が小学生~高校生であったのですが、今あらためて思いますに結構リスキーな時代でした。ただ、原爆で被害にあわれた方の悲惨な現状やベトナム戦争の被害などが大きく報道される一方で、当時の今を伝えるものは限定されていたように思います。日本の経済成長が著しかった時代ですので、経済性が優先されていたのかもしれません。

 

 

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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