ラボにおけるERESとCSV【第72回】

2020/12/04 施設・設備・エンジニアリング

望月 清

7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。
 
■ JJJ社 2019/3/29  483
施設:原薬工場


■Observation 1
A: 生データレビューにおける監査証跡レビューが不適切である。電子記録に
  バッチ識別がなく、テストと再解析のレビューを行うことができない。
  オリジナル電子記録のレビュー手順がない。HPLCおよびGCのファイルが
  削除された記録があるが何が削除されたか不明である。
B: 分析を記録するデータシートが管理されていない。ワークシートの識別番号
  が管理されていない。
E: 天秤など、原薬および原材料の分析に使用しているシステムの日時などが
  権限のない操作から保護されていない。
F: 原材料のテストにおいて、分析者およびデータレビュアー間のQCチェックに
  不整合があった場合、それを記録し調査する手順がない。
★解説:
指摘項目ごとに解説する。
A: データレビューは監査証跡をはじめとするメタデータを含んだ電子記録
  により行なわねばならない。しかるに以下の指摘がなされている。
①   電子記録とバッチの紐付け情報がないため、電子記録により
  テスト内容と再解析をレビューできない
②   電子記録をレビューする手順がない
③   電子記録とバッチの紐付け情報がないため、監査証跡を見ても
  HPLCとGCのどのファイルが削除されたか判らない
B: 手書き記録に使用するデータシートが管理されておらず、現場において
  データシートをコピーできてしまう。そのため、不都合な記録を破棄し、
  コピーした新たなデータシートに記録を作りなおすことが出来てしまう
  との指摘である。GMP記録に係わるすべての記録用紙には以下の管理が
  求められる。
•   権限者のみが記録用紙を発行できること
•   現場の職員に記録用紙の発行権限を与えないこと
•   発行管理された記録用紙をコピーできないこと
•   発行した記録用紙数と使用した記録用紙数の帳尻をあわせること
(記録用紙が破棄されないように管理すること)
連載第40回 O社のObservation 3を参照されたい。
E: 試験や製造に関わる職員が機器・装置・システム・壁掛け時計などの
  日時調整を行うことができると、自らが関与した試験記録や製造記録
  の時刻(タイムスタンプ)を改変できるので指摘を受ける。日時調整
  権限を試験や製造に関わる職員に与えてはいけない。日時調整の権限
  設定が出来ない機器は査察において指摘されるので、そのような機器
  を使用し続ける場合には何らかの対応が必要である。また、プリント
  アウトに日時を印刷できるのに、日時を印刷しないように設定してい
  ると指摘を受ける。試験記録や製造記録の時刻(タイムスタンプ)は
  記録の真正性にとって重要であるので、真正なタイムスタンプが自動
  的に印字されるのを査察官は期待している。日時変更の保護機能が無
  い場合であっても、権限なく日時変更ができないよう最大限の策を講
  じる必要がある。
例えば;
•   日時変更権限者を試験従事者以外に限定するよう規定
•   日時変更キーをアクリル板やテープで囲い物理的にアクセス保護
•   機器の使用記録(ログ)に日にちだけでなく使用時刻も記録
 (米国のcGMP Part 211.182には機器の清掃・使用ログには日時
  を記入するよう規定されている)
•   日時調整を行った場合にも機器の使用記録(ログ)に記録
•   機器使用時に機器の時刻が正確であることを確認し記録
タイムゾーンに関し以下の指摘が散見されるのでご注意願いたい。
•   タイムゾーンが記録に明示されていない
•   タイムゾーンの設定が権限のない変更から保護されていない

 

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執筆者について

望月 清

経歴 合同会社エクスプロ・アソシエイツ代表。
1973年山武ハネウエル株式会社(現アズビル)入社。分散型制御システム(DCS)を米国ハネウエル社と分担開発。2002年よりPart 11およびコンピュータ化システムバリデーションのコンサルテーションを大手製薬会社にご提供。2009年より微生物迅速測定装置の啓蒙普及に従事。2014年5月より現職。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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