GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第20回】

1.経営陣の責任
 改正GMP省令やGDPガイドライン等において、経営陣の責任が明記されている。品質方針やマネジメントレビューを行うだけが経営陣の責任ではない。多くの製薬企業で「患者さんのために、GMPを遵守し、高品質の医薬品を提供する」のような品質方針を掲げられている。GMPが求める品質は、恒常的に安定した品質である。品質は金食い虫だが、目には映らないものだと私は思う。横浜の病院で、輸液に界面活性剤を混入し、患者さんを死亡させたと看護婦が逮捕された事件があったが、患者さんが複数亡くなったことから、事件が発覚した。もし、一人の患者さんが亡くなっただけなら、発覚しなかったかもしれない。では、医薬品の製造現場で、故意ではないにしろ、このような混入が起こることはないだろうか。すべての医薬品製造所で、ラインクリアランスの徹底を行い、発生の可能性は、ほぼないと信じる。しかし、その保証はできないと思うし、性善説、性悪説ではないが、従業員が悪意を持って、混入させることがないとは言い切れない。製造所のラインクリアランスの徹底などの作業環境の整備や従業員の資質に、経営陣が責任を持たなければならない。医薬品に不純物が混入して、健康被害があったとしても、病気が悪化したとか、副作用だとか、品質に原因があると特定されないリスクがあることを忘れてはならない。だからこそ、医薬品の製造にあたり、品質の維持を常に考えなければならない。
 ヒューマンエラーによる逸脱が多いと嘆く経営陣は多いのではなかろうか。作業するにあたり、従業員の意識が低いと思っているだろう。しかし、作業現場では、作業環境が悪く、作業のしづらさを嘆いていることもある。また、GMPの要求事項が年々高まり、設備の更新が間に合わないと考えられる経営陣も多いことだろう。GMPは、常に最新の設備を求めてはいない。しかし、最新の設備なら、最新のGMPの要求事項に対応しており、古い設備で同様なことを行うと、手間がかかり、人手や時間を要することも多い。それが、品質維持が金食い虫となる点である。新しい設備を入れられず、マンパワーで対応すれば、操作の面倒さや保守管理の複雑さから、人起因の逸脱発生につながる。経営陣は、従業員の意識低下を嘆く前に、製造や試験検査などの現場の状況を把握し、いま、製造所で何が必要かを判断することが必要である。社長が製造現場など監査するのは無理であろう。だからこそ、製造管理者からのマネジメントレビューが重要になる。従業員の意識が低いことが課題ならば、リスク分析をし、Quality Cultureの向上のために必要な教育を行う体制を強化することが経営陣の責務である。
 FDAが提唱したQuality Cultureとは、患者さんへ高品質な医薬品を提供するために組織及び個人がその集団としての態度、信念及び行動のことである。ISO9000において、経営陣は、人的資源、物的資源を整備しなければならない。経営陣は、従業員の意識が低いと考えたなら、組織全体として、意識向上のために、人的及び物的の環境を整備する必要がある。ヒューマンエラーが多いと嘆く前に、Quality Cultureとして、今、何が不足しているのか、従業員の意識を向上させるには、人的な支援及び作業環境を整えるために、会社として何をすべきかを考えること自体がQuality Cultureを向上させることになる。経営陣は、従業員とのコミュニケーションを図り、Quality Cultureの向上を図ることで、ヒューマンエラーの防止を推し進めるべきである。

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます