GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第3回】

1. 記憶にするな!記録しろ!
 記憶とは、実にあいまいなものである。人間の脳では、コンピュータのようにそのままデータが保存されるわけではなく、その時の感情等にも影響を受ける。また、他人からの意見などにも同調してしまう。思い出すときにも、違う記憶と混同され、場合により書き換えられてしまうのである。自分の経験の話をすると、平成17年の製造販売業制度が施行になり、その見做しが終了する年の適合性調査で、ほぼ毎日、調査が続いた。当然、調査時のメモを取っているが、調査報告書を記載しようとしたとき、そのメモを見ても、どの工場の状況か混乱してしまい、苦労したことがあった。それを教訓に、事務所にいけない日が続くときは、調査が終わるたびに、家で報告書の作成をした。(今時の査察では、許されないことだとは思うが…)
 記録は作業をしながら、その作業が手順書や指図書のとおり、行われたかを確認しながら記録することが基本である。しかし、医薬品の製造現場は、異物対策等により、筆記具の持ち込み制限等があり、記載できない場合もある。また、作業をしながらでは、きちんと記録を書くには余裕がないことも考えられる。自ずと、チェック等で済ませられるような記録となりがちだが、記録にばかり、神経が注がれて、作業そのものがおろそかになっては、本末転倒である。その時に確認しなければならないものを記録することが原則である。作業時間もその一つである。製造記録等には、作業の開始時刻や終了時刻を記載することが多い。「その時に確認した時計はどれですか。」と査察時に質問したこともよくあった。時刻は後から確認できない。時々、時刻を修正した記録を見ることがあったが、それが記載した時の誤記での修正なら問題ないが、後からその作業時間との辻褄合わせである場合は、問題となる。それは、データねつ造と同じことになる。例えば、次のような記録を見たときにどのような判断をするだろうか。査察官のつもりで考えてほしい。
 
製造記録
                                 2017/08/21 
 混合工程       05誤記修正2017/08/21中川原
開始時刻 10:10               終了時刻 10:15
      作業時間 20分

 この修正は作業開始時に行ったのか、終了時の時刻を記載した時に修正したのか、後から、作業時間を見て、気が付いて修正したのか、混合時間は本当に20分であったのかと疑問点が出てくるであろう。混合機には、タイマーがあり、校正も適正に行われているかもしれない。では、時刻の記録は必要だろうか。20分の確認のためのダブルチェックとして記載しているかもしれない。しかし、このような修正を認めるなら、ダブルチェックの意味をなしていないことになる。ダブルチェックとしての意味なら、タイマーが校正済である確認のほうが有益かもしれない。工数管理のために記載しているなら、開始や終了のどちらかの時刻を記録する方法もある。品質管理の上で重要な点はどちらなのかを考えて記録の様式を決めるべきである。

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