玄人好みの空調技術【第1回】

工場空調は考えることが多くて、とてもおもしろい
第1回 工場空調は考えることが多くて、とてもおもしろい
【世の中には様々な製品があって、色んな製造環境がある】
俗に空調と聞くと、人が室内で快適!とか、夏なら涼しい!とか、冬ならあったかーい!と感じる空間を作るものといったイメージが強いと思います。
前の連載 では、一般家庭の空調・換気に注目して、どのような理論や技術が空調設備に用いられているか分かりやすく、蓮沼先生が解説してくれました。
今回からは、もう少し空調玄人向きに、工場空調にについて私が話をしていこうと思います。
さて、涼しい、暖かい、快適だ、と言う環境は人に対しての空調ですが、工場空調の場合、そういった環境は、工場内で生産される製品や、扱われる原材料などに対して向けられます。当然、そこで働いている作業者のことも多少は考えますが、それは二の次です。(これはあくまでも私個人の考えです。)
例えば半導体製品の場合、特に前工程と言われる半導体ウェハの製造工程では、超微小な塵埃さえも許されません。ウェハに直接あたる空気に至っては分子の大きい有機物分子や静電気も許されないし、温度のブレも許されない。
それはなぜか?
直径30cm程度の半導体ウェハ上には、CPUやICを構成するナノオーダーの電子回路が星の数以上も所狭しに並んでいます。そんなところに有機物でも付着しようものなら回路はショートし、静電気でも受ければ回路不良が生じてしまう。さらに、製造するたびに温度が違えば回路が伸び縮みし、振動があれば配線がズレて不良になってしまう。だから半導体製造では、スーパークリーンでかつ超恒温恒湿の環境が必要になる。しかも微細な振動さえも許されない。さすがにこの環境を建物全体で行うのは不可能なので、この環境は製造装置の中で実現されています。で、その製造装置の廻りもクリーンルームになっている。
このように製品に対する環境は、人に対する環境よりも手間がかかるのです。
その他の製品も続けてみましょう。
フラットパネルディスプレイ。
これは液晶やPDP(最近見ないな。)、有機ELなどの総称で、パネルの方式が違えば、製品の仕組みも製造工程も違います。でも、大きくて非常に薄いガラス基板にRGBの色を発する電子回路を作っていくことは共通です。半導体ほど製造環境の清浄度を気にしなくてよいですが、解像度を上げるためRGBの素子がどんどん小さくなっているので清浄度のレベルも上がっている。また、ガラスが非常に薄いので装置間のハンドリングが半導体よりも気を遣う。それにガラスを平滑に扱うステージや気流にも気を使わないといけない。第7世代を超えたあたりから1枚のガラス基板の大きさは1坪を超えています。ガラスの厚みも1mmにも満たない。微細な回路製造に加えて大きくて薄いガラスの取り扱いまで気を遣わなくてはならないんです。
次に、リチウム電池。
リチウム電池は水分があると電池が不良になり、下手をするとリチウムが水分と反応して火災を起こすかもしれません。なので、リチウム電池の製造環境は、超乾いた環境(ドライルーム)が必要になります。またリチウム電池製造には特殊な揮発性有機溶剤(VOC)を使うので、このVOCを回収する設備も必要になる。
VOCと言えば、化粧品や香料、化成品、印刷工場及び塗装工場などの製造工程ではVOCがよく使われます。このような製造ラインでは、働いている人がVOCを吸ったり浴びたりしない環境が必要で、かつ大量のVOCを外に放出してはいけないし、臭いの対策も必要です。また、濃度の高い有機溶剤は少量の火花で火災も起きる。なので、空調設備以外に、人がVOCを吸い込まないようにドラフトチャンバーと言われる排気付きの作業台が必要になるし、環境負荷の大きいVOCや有毒な溶剤、臭いを除去するのに排気処理の技術も必要になるし、防爆対策を施した設備も必要になる。
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