GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第8回】

2018/04/06 品質システム

1 小手先とその場しのぎ
 
 査察や監査の指摘に対してどのように処理しているだろうか。FDAはWarning Letterの交付の際、指摘事項に対してCAPAとして処理するよう求めている。CAPAについて、明確に規定はない。GMP省令やPIC/S GMPガイドラインには、是正措置について記載されているが、予防措置について明確に記載されていない。FDAが求めるCAPAはどのように処理するべきであろうか。違反や回収に当たり、その再発防止策として、「教育訓練の徹底」と記載する医薬品製造業者は多くある。「教育訓練の徹底」は、CAPAとして十分ではない。「教育訓練の徹底」と記載することが、小手先やその場しのぎとなる。CAPAは、いうまでもなく、是正措置及び予防措置である。是正措置は再発防止策である。予防措置は、いわゆる横展開である。同様な事例が他の品目で起こる可能性がないか確認する必要がある。そこで、「教育訓練の徹底」がCAPAの処理として不足である点を考えよう。査察や監査の指摘事項が発生した原因をまず、リスク分析をし、原因を特定しただろうか。原因の特定のために、特性要因図等を利用して、原因を究明することが必要である。


<図1 特性要因図>

 教育訓練の不足が明確になったなら、その教育訓練の方法、時間、そして、重要な点は、そのスキルが身についたことを評価する方法を確認しなければならない。OJTとしてその作業が適正であるかを確認するのか、テストで知識が十分であったことを確認するか、周知で問題がない程度なら、アンケートでもよいが、その指摘事項となるような事象を招いたなら、周知とすべきではない。そして、最後に、その実効性の確認を行うことが重要である。その教育システムとして、効果があるのか、すべての受講者が理解していない場合、教育方法を改善しなければならない。これらがサイクルとして適切に進んでいくように管理することが必要である。それがPDCAサイクルとなる。「教育訓練の徹底」が、小手先やその場しのぎとなるのはPDCAサイクルとして、システムを構築していないからである。

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<図2 PDCAサイクル>
 
 PDCAサイクルは教育訓練だけに利用するものではない。ここでは、教育訓練において説明する。まず、教育訓練の計画Planを立案する。PIC/S GMPやcGMPでは、教育訓練はトレーニングとして求められる。トレーニングとは、技能Skillを身につけることである。査察や監査でスキルマップを求められることが多い。それは、そのスキルのためのトレーニングを計画しなければならないからである。計画には教育訓練の方法も必要である。座学とするのか、OJTとするのか、手順書の読み合わせもその一つであろう。受講者の評価方法も、計画に記載しなければならない。テストだけではなく、OJTによる実作業の確認やアンケートにより確認するのも良い。Skillにより評価方法は決定すべきである。計画ができれば、その計画に基づき実行Doする。実行には、対象がSkillを修得したことを評価することも含まれる、実際のトレーニングがなく、評価のみを実行することもある。実行後に、評価Checkとなる。評価は、そのトレーニング方法に問題がないかを確認する。対象者がSkillを修得したかのCheckではなく、Skill修得者がもしほとんどいない状況なら、トレーニング方法が不適切と評価する。改善Actは、是正措置である。評価した結果、問題となった点を是正することとなる。教育指導者が不適切なのか、時間が不足していたのか、資料などに問題があったのか、評価方法が悪かったのか、原因を特定し、場合により、原因が特定できず、推測となる場合もある。その原因を排除するためにどのように改善するかを考えなければならない。つまり、「教育訓練の徹底」ではなく、適切に評価をしたうえで、教育訓練の方法を見直し、不足時間を補い、適切な評価を行うことが必要となる。

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執筆者について

中川原 愼也

経歴

GMPコンサルタント
1984年神奈川県庁に入庁し、1997年国立公衆衛生院(現在の国立保健医療科学院の前身)でGMP研修を受講後、薬務課及び小田原保健所等で医薬品等の製造販売業、製造業の許認可、審査、指導を主にGMP・GQPリーダー査察官として16年にわたり活躍した。その間、MRA(日・欧州共同体相互承認協定)の締結の際のEUの調査、2005年の製造販売承認制度の施行に携わり、PIC/S加盟にあたり、厚生労働省の委員等委嘱を受け、次の活動に参加した。
平成20、21年度 GMP/QMS調査・監視指導整合性検討会委員
平成21、22年度 厚生労働科学研究~GMP査察手法の国際整合性確保に関する研究
2012年に神奈川県庁を退職し、医薬品原薬輸入商社であるコーア商事株式会社で、品質保証部長として国内管理人としてのGQP取決め及び医薬品製造業としての GMP管理を統括した。2015年から株式会社ファーマプランニングにて、GxPコンサルタント業務に携わる。2017年高田製薬株式会社に入社、大宮工場の製造管理者、品質統括担当参事を経て、2021年より生産本部顧問に就任。同年より中間物商事株式会社品質保証部部長として勤務。
2021年11月より、共和薬品工業株式会社鳥取工場品質保証部長となる。
2022年4月からGMPコンサルタントとして独立したが、2023年2月硬膜動静脈瘻に疾病し、言語障害となった。退院後、自宅にてトレーニングし、完治。8月にネオクリティケア製薬株式会社品質保証部に入社、従来通り活動をしている。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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