医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第37回】

遺伝毒性試験の実際と試験結果の解釈

 皆さまにおかれましては、COVID-19にもめげず本年もご活躍のことと存じます。
 私は去る12月にとうとうCOVID-19に罹患してしまいました。そして、規定の療養期間明けすぐに勤務先に米国FDAの医薬品cGMP査察が入り、かなり辛い思いをしました。
 COVID-19につきましては、無症状で経過する方もあると聞く中、私の場合は軽症と分類されるのでしょうけれど、入院できるものならすぐにでもさせて欲しいと心から思ったほどで、お陰様で今まで大病になったことがなかったものですから、とても苦しい日々でした。近くの診療所の発熱外来では駐車場で診察を待つことなり、北海道の12月は最高気温が零下になる真冬日が続きますので、39℃以上の発熱があると待っている車内でも全身の震えが止まりませんでした。また、快気直後の後遺症的な倦怠感や咳、味覚/嗅覚障害やらが残っている中でFDA査察があり、一日が終わると電池が切れたようなシオシオのパー状態でした(査察官の方に、”My body battery is almost empty.”などとくだらない冗談を言っておりました。「シオシオのパー」は1960年代後半に放映されたテレビ番組で、ブースカというかわいい怪獣がつぶやいていた言葉です。)。そんなこんなで、とんだ師走でしたが、幸い1ヵ月程度で後遺症もなくなり、健康に過ごせることにつくづく感謝しております。

 さて、遺伝毒性の影響と試験の選択についてお話しさせていただきましたが、今回は試験の実際と得られた試験結果をどう解釈するかについてお示ししたいと思います。
 遺伝毒性試験としては、「遺伝子突然変異試験」と「in vitro哺乳類培養細胞を用いた試験」の両方を実施する必要があります(in vitroは試験管内、in vivoは動物体内という意味です)。それぞれの具体的試験方法として一般的であるのが、復帰突然変異試験(Ames試験)と培養細胞を用いる染色体異常試験です。いずれも溶解/分散または抽出を行うのですが、下図に抽出の概要を示したとおり、国内ガイダンスでは、水溶性や水分散性がないものは、有機溶媒抽出を第一選択として用います。医療機器は有機ポリマーである場合が多いので、有機溶媒抽出となるケースがほとんどで、具体的にはメタノールとアセトンを用いて室温で24時間抽出した後に溶媒を留去して乾固し、重量を測定して抽出率を求めます。いずれかの溶媒で抽出率が高い方を用いて抽出し、試験を行います。
 以前にも感作性のところでお話したかと思いますが、有機溶媒抽出というのは、国内ガイドラインの特徴で、海外ではこのような抽出を行う例は少なく、ほとんどは、有機溶媒の抽出率を調べることなく図にある抽出液を用いない方法に示されている方法を採用しています。
 一方、ISO 10993-12では、極性溶媒と非極性溶媒を用いるよう記載されており、2種類の抽出液による試験が要求されています(Annex Aには日本の有機溶媒抽出の記載もあります)。前述のとおり米国ラボの試験報告書を見ると、実際には復帰突然変異試験ではジメチルスルホキシド(DMSO)だけであったり、in vitro染色体異常試験では血清加培養液抽出だけであったりする例がほとんどです。想像するに恐らく、DMSOは極性溶媒として分類されるものの有機化合物を溶解することができることから、極性溶媒にも非極性溶媒にも溶出する化合物を検出可能という解釈で、そして、血清加培養液の場合、培養液は極性溶媒に該当するものですが、血清中には脂質が含まれることにより非極性溶媒としての機能があることや培養細胞に添加しても生育を阻害しないことをその理由にしているのではないかと思っております。
 金属の場合は、金属イオンを用いることとなっていますが、金属塩を用いた復帰突然変異試験や染色体異常試験の文献的データが多々ありますので、場合によってはそのような既知情報を用いることも考慮できます。
 

 

 

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