医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第33回】

血液適合性試験の選び方

 血液適合性試験は、医療機器が意図せず引く起こす血液への影響を検索する試験ですが、その影響とは、溶血、血栓の形成、血液細胞の減少などの異常、そして、補体の活性化という分類により示されることを前回お話ししました。
 今回は、皆さまが開発されたり、導入しようとしたりする医療機器について、一体どの試験を選択したらよいのかということについて考えたいと思います。単的には、全部のタイプの試験をしておけば無難ということになるのですが、血液との接触様式により適切な項目に絞るのが合理的です。
 そこで参考になるのが、ISO 10993-4:2017です。

 血液との接触という観点でまずは3つに分類します。
  ①血液と接触しない医療機器
  ②体外で血液と接触する医療機器
  ③体内に埋め込まれて血管内で血液と接触する医療機器

 この中で、血液と接触しない医療機器については、血液適合性の評価はもちろん不要です。ただ、手指を誤って包丁で切ると必ず出血がみられます。手指だけでなく、口の中を切ってしまっても、鼻に指を強く突っ込んでも血液が出てきます。当たり前ですが、組織には毛細血管が張り巡らされていますので、例外(例えば角膜)はあるものの、どのような組織でも血管が破綻すれば出血します。だとしたら、血液適合性はどんな医療機器でも考慮の必要があるのではという疑問を持たれるのかもしれません。人工関節でもインプラント時は結構の出血がありますし、創傷被覆材も出血している部位に適用します。しかしながら、血液適合性の評価が不要とされている理由は、「正常な組織において血流と接触する医療機器」ではないからと理解いただくとよろしいかと思います。
 血管ステントや心肺バイパス経路、人工肺などは、血管の中や血管をつないで使用されるもので、血液適合性評価は必須だということが明らかです。このように血液流路にさらされる医療機器については、血液適合性の評価が必要なのですが、グレーゾーンもあります。例えば人工血管を接合するための医療機器(縫合糸や医療用接着材など)は血管の外周を覆うような形で適用されるものがあり、血管内にまでその姿を現すことはないものもあるのですが、出血を止めるための接着材であれば、破綻した血管をとおして血液流路にばく露される可能性があるということになり、それであれば血液適合性も評価しておこうということとなります。グレーゾーンと思しき医療機器については、臨床上起こり得るワーストケースにおける血液流路への接触(直接的または間接的)という観点で整理いただくとよろしいかと思います。
 また、ISO 10993-4:2017では、「ごく短時間または一時的に循環血液と接触する機器または機器構成部品(例えば、使用時間が1分未満のメス、皮下注射針、毛細管)は、一般に、医療機器と血液との相互作用試験が不要」と示されています。ただ、薬液等が充填されたプレフィル型注射筒などでは、薬液に注射筒からの溶出物が溶け込んでいるリスクがありますので、注射時間が1分未満であったとしても、溶血性評価くらいはしておいてくださいということとなっております。

 血液流路に接触するとなった場合、つぎに医療機器が体外で血液流路と接触するのか、体内かです。それが特定できれば、下記にお示ししたISO 10993-4:2017に示された医療機器のタイプ別の血液適合性評価項目の表を参考にして、評価すべき試験のカテゴリを特定します。

ISO 10993-4:2017に示された医療機器のタイプ別の血液適合性評価項目

a: 血栓形成はin vivoやex vivoにおける現象であるが、in vitroでシミュレートできることがある。臨床適用状況が反映されたin vitro血栓形成試験が実施されていれば、in vivo/ ex vivoの試験が不要なことがある。
b: 直接または間接的に血液に接触する部材に限る。間接的にしか血液と接触しない部材に関しては、in vivo血栓形成及び機械的溶血または補体活性は必須ではないことがある。
c: 血液凝固や血小板及び白血球の反応は、血栓形成の初期過程と考えられている。そのため、血液凝固、血小板や血液学的試験のカテゴリの特定の試験が、in vivo試験の代替となるかどうか製造業者は判断する。
d: 補体活性についてアナフィラキシーなどの他のエンドポイントを考慮する必要がある場合は、ISO/TS 10993-20(免疫毒性)の情報を参考にする。
 
 

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