医薬品品質保証こぼれ話【第41回】

医薬品の安定供給と課題

厚生労働省は6月25日、医薬品の製造等に係る重大な違反に対する行政処分としての業務停止期間の上限を「概ね110日」から「180日」に引き上げたと発表しました。約5年前、化学及血清療法研究所(当時)の違法製造に対し110日間の業務停止命令が下されて以降も、小林化工等の製造販売承認書の内容を逸脱する製造行為が散見される状況下、より強い措置が必要と判断されたものと推察されます。このような長期に医薬品の生産業務が停止すると、先ず懸念されるのが汎用される重要医薬品の欠品です。重要医薬品の欠品は医療現場の混乱を招き、円滑な医療の推進に重大な影響をもたらします。医薬品の安定供給が障害される原因は、このような法違反による業務停止以外にも見られ、近年、比較的多く見られる“中国やインドなどの海外原薬の異物混入などの品質トラブルや工場施設のGMP不適合”などはその代表的な事例と言えるでしょう。また、このパンデミックの世においては、本稿第39回で取り上げた“製造工程に使用される部品や部材の調達に問題が生じ”生産が一時停止するといった事例も見られています。このように、医薬品の安定供給に影響を与える要因には様々な事例が見られていますが、今回は、先日発表された“技術移転が関係する生産の一時停止”を話題にとりあげ、改めて医薬品の安定供給について考察を行いたいと考えます。

日医工は6月22日、“製造所変更に際する技術移転の遅延”を理由に、骨粗鬆症治療薬「エルデカルシトールカプセル」の一部製品の供給を停止すると医療関係者に連絡しました。医薬品の安定供給に支障が生じる事案は、これまでは、上記のように、品質問題やGMP査察不適合、また、工程トラブルなどが主な原因となっていましたが、今回、“技術移転”が予定どおりに進まず医薬品生産が一時停止するという、これまであまり聞かれなかった事例が報告されました。このことから、今後の医薬品の安定供給を考える上の有益な示唆が得られると考えます。すなわち、このことは、医薬品の品質確保の一連のフロー(開発から商業生産)における各プロセス(科学的および法的な要件としての)において発生する様々なトラブルが、生産の一時停止の原因になる可能性があることを意味し、今回の“技術移転”はその一つに過ぎない、と捉えることができます。ちなみに、“技術移転”には大きく、開発から生産へ移行する際の技術移転と、今回の日医工のケースのように、すでに商業生産されていた医薬品を他の製造所に移管する際の技術移転があり、後者の場合、使用される製造機器が異なるなど移転前と移転後の製造環境が異なる程度が大きいほど、より周到な検証が求められるため、この場合は、十分な時間をかけて移転前後の医薬品品質の同等性をより慎重に検証する必要があるとされています。

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