医薬品品質保証こぼれ話【第2回】

現場主義

1月半ばに宮古島を旅しました。宮古島を含む五島にはそれぞれに観光ポイントが示されており、ナビを頼りに巡るこれらのポイントはいずれも予想を超える絶景で、その中の数か所は特に素晴らしく、その場を去るのを躊躇うほどでした。そういうポイントでは感動を記録に残したく、アングルやズーム倍率を変えて写真撮影を試みましたが、写真ではその感動を得ることはできません。眼下に広がる海と大橋が織りなす絶景のスケール、濃淡混ざり合い光り輝く紺碧の海の彩、浜に点在する大小の岩と入り江の形状の調和、そのどれもが写真では伝えることができません。これらの素晴らしい光景から得られる感動は、現地に足を運んだ者の特権のようなもので、そこに行った者にしか分かりません。

翻って、医薬品の品質保証に目を転じると、製造や試験検査の現場に足を運び自分の目で様々な状況を実地に観察することが、品質保証を的確に推進する上で大切であることが容易に理解されます。現場に身を置くだけで、五感で実に様々な情報を得ることができます。デスクのパソコンから得られる文字や写真の情報、また、口頭で関係者から伝えられる情報は限定的で、且つ、提供者のフィルターを通したものです。これに対し、現場で自ら目にするものは、すべてが生の情報で非常に多様なものです。そこが最大のポイントで、この一点をとっても、現場で自ら観察することの重要性は理解されます。「聞くと見るでは大違い!」ということも少なくありません。

製造や試験業務の現場では日々いろいろなことが起きます。一般に、重大な問題が発生した場合はラインを通して管理者にその情報が上がるシステムになっていますが、重大かどうかの判断基準があいまいなことも影響し、時に、重要情報が管理者に伝達されないケースもあります。立場の違いにより、「情報が上がってこない」、「必要な情報は報告している」、といった行き違いが起きる所以でもあります。部長、課長、マネージャー、リーダー・・・、企業により呼称は様々ですが、要は、日常、現場よりもデスクでパソコンに向い、管理する側に立って仕事をする立場の者ほど、自然と現場への足は遠のきます。メールの返信、共有情報の閲覧・・・、パソコンによる仕事には事欠かず、これがその理由にもなります。

しかし、医薬品は製造の現場で品質が造り込まれ、試験検査の現場で品質が評価され、また、これらのプロセスや得られたデータに関する記録が行われます。デスクのパソコンから得られるのはその結果だけです。このことは、皆、頭では分かっていますが、管理側に立つと会議なども増え、なかなか現場に足が向かないのが現状でもあります。しかし、現場には管理者には分からない大小、様々な問題が潜在しています。

たとえば、熟練作業員が、原料投入作業に際し、ほぼ毎日投入する20kg包装の汎用原料を、腰への負担を軽減するために10kg包装に変更できれば助かるのだが、と思いながら、なかなか上司に言えない。「どうせ言っても聞いてもらえない」という思いがあるかも知れません。こういうとき、管理者が日常的に現場に足を運び、作業者に寄り添っていれば、作業者もその希望を自然な形で伝えることができます。こういった、一見、些細な課題も、ひいては品質に影響する問題であり、また、この事例で言えば、熟練作業員に代わる信頼できる人材の確保が容易でないことを考慮すると、現場に足を運びこの作業員の声に耳を傾けることの重要性が理解されるでしょう。この種の事例は現場に山ほど転がっており、これを拾い上げるのも管理者の重要な仕事と言えるでしょう。

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