医薬品品質保証こぼれ話【第1回】

品質保証と“Integrity”

医薬品の品質保証に従事する人は世界規模でみると、どれぐらいおられるのでしょうか?
医薬品の品質保証といってもその業務内容は様々であり、開発・製造から流通・使用の段階まで、いわゆる医薬品の“Life Cycle” を通して考えると、本当に多岐に亘ります。製剤開発、製造管理、試験検査、文書管理、設備機器管理、物流輸送管理、クレーム対応・・・。こういった、医薬品の品質を保証するための一連の業務を“品質保証業務”と考えると、世界で医薬品の品質保証に携わる人の数は想像もつきません。

医薬品は世の中になくてはならない製品の最たるものであり、品質保証関係者はその品質保証という極めて重要な業務の一翼を担い、強い責任意識の下、日々、それぞれが担当する業務に取り組まれているわけですが、トラブル対応や査察に向けての膨大な文書記録の整備などに追われ、いわば、“受け身”で仕事を進められているケースも少なくないと思われます。品質保証業務は、本来、改善などを軸とした創造的な業務であるべきであり、より主体的な活動が期待されるはずです。第1話では、こういった状況を少しでも改善するための考え方について考察したいと思います。

医薬品は微量で生理活性を有し、高度に知識が集約された製品であり、何より人の病気の治療や健康維持、さらには疾病の診断に使用される、人の生命に直接関係するものであり、その品質保証には高い精度が求められます。それゆえに、これに携わる者の責任は重く、業務には万全を期す必要があります。今、“Data Integrity”をキーワードにGMP記録・データの完全性が注目されていますが、医薬品はこのような特性・使命から、開発から生産、品質試験、流通、使用のすべてのプロセスにおいて、本来、“Integrity”が求められるものと言えるでしょう。

例えば、開発段階における製剤設計を例にとれば、最終製品で均一性が確保されるために、商業生産に移行した段階で偏析が生じないよう、添加剤の選択など処方設計に関わる部分への配慮に加え、使用する製造機器の特性を理解し、それを踏まえて設計する必要があります。また、使用期間を通して品質の安定性が保証できるように、配合手順や乾燥終点などを周到に検討し設計することが求められます。同様に工程設計においても、製剤設計の要点を踏まえ、均一性や安定性を確保できるよう製造機器の特性に合わせ、製造手順や条件を設計する必要があります。

しかし、人間は神様ではないので、周到に検討したつもりでもミスは生じます。“Integrity”は永遠の課題であり夢物語かも知れませんが、人は知恵を絞り、それをできるだけ現実に近づけるために様々な工夫を凝らし、新たな考えを編み出します。バリデーションはそのための代表的な手法の一つと言えるでしょう。GMP記録の信頼性確保に関して、欧米の各当局から示されている“Data Integrity”関連のガイダンスも同様な視点から考案されたものと考えられます。

医薬品の品質保証をより高精度に実現するために、「ミスを最少化し、誰が実施しても期待される精度で実現できる」、という考え・目的に基づき、開発段階から流通・使用まで、GMP基準をはじめとする様々な規制が敷かれています。法令、通知、ガイドライン、Q&A事例・・・規制レベルは様々ですが、実に多岐に亘って医薬品企業が実践すべき事項が示されています。こういった規制は、医薬品の品質保証のために、人間の英知を結集し導き出された貴重なものであることに違いないのですが、同時に、これを受けて実践する企業にとっては、労力、コストを要する対象として疎んじられるという側面もあります。

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