最新コスメ科学 解体新書【第20回】

ピッカリング エマルション② 粉のふるまいを物理する

 界面活性剤を使わずに、固体粒子が油相と水相の界面に吸着してするピッカリング現象に出会って数年がたち、何の変哲もない粉体でも表面の濡れ性さえ最適化されれば、エマルションを安定化できることが確認できました。そして、この技術を使ってファンデーションやサンスクリーンを作るにはどうすればよいか、自分なりに理解できるようになりました。

 しかし、私の中ではもやもやしたものが残っていました。普通の界面活性剤の場合、界面活性剤の水や油の中でのふるまいを物理化学的な観点から記述するモデルが確立されていて、親水性親油性バランス(HLB)、パッキングパラメータ等のパラメータを使うと、安定なエマルションを調製するためにはどの界面活性剤を採用すればよいか、どんな液晶構造が形作られるのか、目途をつけることができました。しかし、粉体の場合は、そもそも根本となる理論がない・・・。

 そんなことを考えていたところ、界面化学のエキスパートのFさんが「これ、参考になるんじゃないかな?」ということで一冊の本を紹介してくれました。それがイスラエルの理論物理学者であるサフラン先生が書かれた「コロイドの物理学-表面,界面,膜面の熱統計力学-」でした [1]。この本は、界面で起こるさまざまな現象を統計熱力学という物理的な考え方で解説したものなのですが、その中に界面活性剤や両親媒性高分子が集合してできた界面膜の形状を力学的な 特性に基づいて解析する「曲率弾性モデル」という理論が紹介されており、それがピッカリング現象によって形成される粉体の自己組織化挙動を説明する上で役に立つのではないか、というのです。
 
 若かりし頃の私、「これだ!」と思いました。粉体が界面に吸着した界面膜の一般の界面活性剤との最大の違いは、硬い固体的な特性にあるとすると、「弾性」という力学的なコンセプトはこの問題を解決するためにピッタリのように感じたのです。

 ところが、一つ問題がありました。

 

 

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