GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第46回】

2021/07/02 品質システム

普段と異なる状況の中での対応、その管理・対策をどのように求めるのか。

新型コロナウイルスから学ぶ

1.緊急時対応
 コロナウイルスワクチンの接種が進む中、温度管理が不適切で廃棄になるニュースをたびたび耳にする。電源プラグが抜けていたや届いたワクチンを常温で放置したなどファイザー社製新型ウィルスワクチンは温度管理が厳しいことは周知のものであったのに、どうしてこんなに発生するのかと思ってしまう。GMPやGDP(医薬品適正流通ガイドライン)において、常に、温度管理の必要性を認識している読者にとっては、あきれてしまうことだろう。医薬品倉庫の温度逸脱時に緊急連絡システムを設置している製造所や物流センターも多くある。自治体の首長の謝罪会見が報道されているが、その後の対策はどのようになっているかまでは報道されていない。謝罪することより、必要なことは、温度管理を適切に行うことで、そのための必要な設備とその運用にある。しかし、今回は臨時の設備や緊急の応援者が、普段と異なる状況の中で対応することは難しいことであるが、しっかりとした管理は求めたい。
 製造所においても、生産計画の急な変更等で他部門からの応援なので乗り切ろうとすることがある。他社の違反事例や回収事例で、代替品にあたる品目の生産対応を迫られた製造所も多いことと思われる。通常と異なる対応をしなければならない時こそ、事故につながることが多い。通常の業務として行っている者には、目の前の急がなければならない業務と普段、その業務を行っていない者への指示などその作業の配慮もしなければならず、苦労が多い。応援者も、慣れない業務を熟さねばならず、大変であろう。GMPでは、臨時の応援者等に対して、GMP管理エリアに立ち入るならば、更衣や手洗いなどの衛生管理やその作業についての教育訓練をあらかじめ行わなければならないが、急な応援では、十分な教育訓練ができないことも考えられる。普段からこのような対策を行っておくことが必要である。
 コロナウイルスワクチンでは配送時のミスによる温度逸脱もあったようだ。通常医薬品を配送しない者が対応したのかどうか不明だが、GDP管理が適切に行われたか疑問に思う。GDPガイドラインが発出されて、輸送時や物流センターでの温度管理に対して、厳しい目が向けられている中、輸送時の温度検証や物流センターの温度マッピングなどの実施はあったのか疑問に思う。ワクチンの接種会場でトレーニングとしての模擬訓練も実施したことが報道されていたが、保管や入出庫での管理についてはされていたのだろうか。模擬訓練を行うことは、リスクアセスメントとして重要である。机上のみの検討では発見できないことが多い。製品が届いた際にすぐ冷凍庫や冷蔵庫へ搬入する余裕があるのか、到着時は、製品の確認や輸送時の温度に問題ないか温度ロガーの確認や配送者から必要な情報伝達もある。行うべき作業は多い。人員も限られた中で、多くの確認作業と速やかな保冷庫への搬入など、通常の作業場所ではないところで、貴重なワクチンを扱うプレッシャーも作業者にはある。その点も加味して対策をたてられているか考えるべきである。
 医薬品の取り扱いは、供給の面と品質の面をしっかり対策を立てなければならない。コロナウイルスワクチンで、会場のことや接種者数が問題として取り上げられているが、医薬品としての品質維持と安定供給を行うために必要な管理と有能な人員の確保は欠かせない。また、その環境も考慮する必要がある。当然、精神論的問題にすり替えてはならない。緊急時だからこそ、そのマネジメントを適切に行い、貴重な医薬品を無駄にしてほしくないと願う。

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執筆者について

中川原 愼也

経歴

GMPコンサルタント
1984年神奈川県庁に入庁し、1997年国立公衆衛生院(現在の国立保健医療科学院の前身)でGMP研修を受講後、薬務課及び小田原保健所等で医薬品等の製造販売業、製造業の許認可、審査、指導を主にGMP・GQPリーダー査察官として16年にわたり活躍した。その間、MRA(日・欧州共同体相互承認協定)の締結の際のEUの調査、2005年の製造販売承認制度の施行に携わり、PIC/S加盟にあたり、厚生労働省の委員等委嘱を受け、次の活動に参加した。
平成20、21年度 GMP/QMS調査・監視指導整合性検討会委員
平成21、22年度 厚生労働科学研究~GMP査察手法の国際整合性確保に関する研究
2012年に神奈川県庁を退職し、医薬品原薬輸入商社であるコーア商事株式会社で、品質保証部長として国内管理人としてのGQP取決め及び医薬品製造業としての GMP管理を統括した。2015年から株式会社ファーマプランニングにて、GxPコンサルタント業務に携わる。2017年高田製薬株式会社に入社、大宮工場の製造管理者、品質統括担当参事を経て、2021年より生産本部顧問に就任。同年より中間物商事株式会社品質保証部部長として勤務。
2021年11月より、共和薬品工業株式会社鳥取工場品質保証部長となる。
2022年4月からGMPコンサルタントとして独立したが、2023年2月硬膜動静脈瘻に疾病し、言語障害となった。退院後、自宅にてトレーニングし、完治。8月にネオクリティケア製薬株式会社品質保証部に入社、従来通り活動をしている。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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