GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第41回】

2021/02/05 品質システム

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GMPヒューマンエラー防止のための文書管理
 



1.期待される結果
 バリデーション基準1)にバリデーションの目的が記載されている。
バリデーションは、製造所の構造設備並びに手順、工程その他の製造管理及び品質管理の方法(以下この基準において「製造手順等」という。)が期待される結果を与えることを検証し、これを文書とすることによって、目的とする品質に適合する製品を恒常的に製造できるようにすることを目的とする。この目的を達成するために、医薬品開発、日常的な工程確認及び製品品質の照査を含む製品ライフサイクルを通じて集積した知識や情報を活用すること。また、医薬品開発あるいは技術の確立が当該製造所以外で行われた場合には、必要な技術移転を実施すること。
 PQ性能適格性評価やPVプロセスバリデーションのバリデーションを実施する際、サンプリングポイントを多くするだけで、その製造手順に基づき、製造販売承認の規格に合致しているから検証されたとは言えない。期待される結果が承認規格だけでは、その製造方法が検証できたとは言えない。
 神奈川県庁勤務の査察時で、pH計の標準液の管理について、質問したことがあった。pH10などの標準液は酸化しやすいのでその保管方法が重要であるが、その施設では、その標準液をビーカーに取り、1週間放置したところ、pHに影響がないことのバリデーションを実施し、変動がないことを検証したそうである。その結果に基づき、1週間は標準液、始業点検で繰り返し使ってよいことにしていた。しかし、そのバリデーションの内容は、そのビーカーに標準液を入れ、1週間放置後、その元の瓶に保管していた標準液とpH計で測り比較しただけのものであった。1週間放置した温度や湿度の記録はなく、どのように放置されたか不明で、通常の使用状況とは異なる状況であった。また、比較した標準液は、すでに開封されていて、それが真の値である保証もできないものであった。つまり、その途中の経過も特定せず、期待する結果も疑わしい標準液を使用したことで、検証がされていないものであった。
 期待される結果とは、承認規格を満足するだけでは不十分である。例えば、含量均一性において、個々のポイントが承認規格内であるから問題ないとしていないだろうか。そのバラツキが、上限や下限に偏った時、規格外となる製品になる可能性はないのか考えるべきである。医薬品の試験検査は、一部をサンプリングして、そのロットの判定をしなければならない。その為、そのサンプリングポイントがそのロットを代表しているのか、ワーストとして評価すべき点なのか、その根拠が重要である。期待される結果を何とするのか、リスクがないのか事前に検討が必要である。製造工程や試験方法に関して、リスク分析をし、期待される結果とは何かを事前に把握していなければならない。
 期待される結果とは、最終製品の規格だけではない。自主基準として設けた規格や工程検査としてのパラメータも含まれる。例えば、乾燥工程での水分値など、製造販売承認書の製造方法欄に記載されている工程管理値やPTP包装におけるリーク試験など、実際数値とならない場合もある。その乾燥工程で管理すべき、温度や時間をいかにコントロールすることにより、期待される結果としての水分値が得られるか、PTP包装時の接着時間や温度管理などのコントロールにより、リークのない製品を製造できるかを、現場作業者もその検証を知ることにより、常に適切な管理がされることになる。

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執筆者について

中川原 愼也

経歴

GMPコンサルタント
1984年神奈川県庁に入庁。1997年国立公衆衛生院(現在の国立保健医療科学院の前身)でGMP研修を受講後、薬務課及び小田原保健所等で医薬品等の製造販売業、製造業の許認可、審査、指導を主にGMP・GQPリーダー査察官として16年にわたり活躍。その間、MRA(日・欧州共同体相互承認協定)締結の際のEU調査、2005年製造販売承認制度の施行に携わり、PIC/S加盟にあたり、厚生労働省の委員等委嘱を受け、次の活動に参加した。
 ・平成20、21年度 GMP/QMS調査・監視指導整合性検討会委員
 ・平成21、22年度 厚生労働科学研究~GMP査察手法の国際整合性確保に関する研究
2012年に神奈川県庁を退職後、医薬品原薬輸入商社、製薬企業、コンサルティング企業で品質保証やGxPコンサルタント業務に携わる。2025年6月よりGMPコンサルタントとして独立、現在に至る。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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