医薬品品質保証こぼれ話【第23回】

デジタル化とハンコの廃止
日本のトップが交代し、9月16日、長年、官房長官として安倍内閣を支えた菅義偉氏が第99代内閣総理大臣に就任しました。組閣後早々、菅首相は次々と新たな施策・改革の指示を関係大臣に出し、早速、手腕を発揮していますが、中でも、デジタル庁の新設は国民の多くが強い関心を寄せているのではないでしょうか?今回のコロナ禍で日本のIT(Information Technology:情報技術)システムの脆弱性や対応の遅れが露見し、台湾や韓国などアジアの隣国に大きな遅れをとっていることが鮮明になったことが、デジタル庁新設を決断する大きな理由の一つになったと考えられます。この動きを受けて、早速、指示を受けた大臣はもとより関連省庁の要人にも慌ただしい動きが見られます。中でも、様々な決済文書や各種届に必要となる押印はデジタル化の迅速な推進の障害となることから、本改革の目玉として、“ハンコの廃止”を推し進めることが発表され、間髪をいれずに、上川法相から結婚届・離婚届に際する押印の廃止が発表され、衆目を集めているところです。
この“ハンコの廃止”は印鑑の製造業者など、これに直接関わることを生業としている関係者にとっては死活問題であり物議を醸していますが、我々の業界においても、医薬品の製造記録、試験記録などの管理や出荷判定などに関連して大きく関わってきます。現状としては、紙記録を正本として運用する製薬企業が多いものの、グローバルな動向としては、“データインテグリティ(Data Integrity:DI ; 記録やデータの完全性・信頼性)”確保の重要性が叫ばれる中、記録やデータの電子化が喫緊の課題であることに変わりなく、潮流としては限りなくデジタル化、ペーパレス、に向かっていることは周知のとおりです。こういう状況の中で、今回のコロナ禍において、給付金の申請手続や感染者との濃厚接触情報の共有などのITシステムに、実用性や堅牢性(システムの安定性)、また、個人情報の漏洩防止などセキュリティ面の問題が表出し、白日の下に晒されました。この現状から、これが日本のデジタル技術の現状を表していると捉える人も少なくなく、もし、それが事実だとすれば、今後、推進される医薬品製造の領域における記録類の電子化に関しても、上記のような問題の発生が危惧され、すでに電子化を積極的に推進しているメガファーマなどは別として、今後、本格的に電子化に取り組む多くの製薬企業においては、上記のような、システムの実用性、堅牢性などの問題に直面し、様々な検証に時間と労力が費やされることが予測されます。
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