ラボにおけるERESとCSV【第67回】

 

7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。
 
■ YY社 2018/8/3  483
施設:製剤工場(OTC)


■Observation 1
①   OTC製造に使用されている原薬の同等性試験にFTIRを使用している。そのFTIR
  のスペクトルデータを分析者は削除可能なフォルダーに格納している。さらに、
  分析者はIRに付属するコンピュータの時計を調整できてしまい、
  チームリーダーはスペクトルデータを削除できてしまう。
②   OTC製造に使用されている原薬の同等性試験にUVを使用している。そのUVの
  スペクトルデータを分析者は削除可能なフォルダーに格納している。さらに、
  分析者はUVに付属するコンピュータの時計を調整できてしまい、チームリー
  ダーはスペクトルデータを削除できてしまう。

★解説:
機器に生成されたオリジナル・レコードがダイナミックデータ形式である場合、オリジナル・レコードである電子記録を生データとして記録保存期間を通して維持するのがデータインテグリティの基本である。下記文献の「5.6 ダイナミック・レコード(動的記録形式の記録)」を参照されたい。
 医薬品業界におけるデータインテグリティ実務対応
 https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/CT_255_03.pdf

電子記録を維持する場合、その保存期間をとおして電子記録の真正性を確保する必要がある。上記文献に記載されているように、電子記録の真正性を確保には以下が必要とされる。
 •    セキュリティ(アクセス権限)
 •    監査証跡(Audit Trail)
 •     バックアップ
FTIRやUVはダイナミック・レコードと解釈するのが普通である。本事例では、FTIRおよびUVのオリジナル・レコードがセキュリティ(アクセス権限)が確保されていないフォルダーに格納されているため指摘を受けている。試験に係わる職員が生データである電子記録を削除できると、自らが関与した不都合なデータを隠蔽できてしまうとの理由で指摘を受ける。FTIRおよびUVのソフトウェア操作によって削除出来ないようにしておくだけではなく、エクスプローラ等OSレベルの操作によっても削除出来ないようにしておく必要がある。本指摘は、OS操作によって削除できてしまうことを指摘されているように思える。

また、試験に係わる職員が機器の時計を調整できると、自らが関与する試験データをバックデートできてしまう。試験に係わる職員が機器の時計を調整できると、本事例のように指摘を受ける。


■Observation 2
QCはHPLCのプリントアウトしかレビューしていない。OTCをバッチリリースする前に、HPLCのオリジナル電子記録と監査証跡をQCがレビューしていない。

★解説:
機器に生成されたオリジナル・レコードがダイナミックデータ形式である場合、オリジナル・レコード(電子記録)を生データとして維持しなければならない。プリントアウトは生データであるオリジナル・レコードの一部を出力したにすぎない。従って、ダイナミック・レコードのデータレビューは生データである電子記録により行わねばならない。監査証跡などのメタデータは生データの一部であるので、監査証跡などのメタデータを含む電子記録によりデータレビューしていないと指摘される。上記文献「医薬品業界におけるデータインテグリティ実務対応」の表2に記載されているように「監査証跡のレビュー、電子記録のレビューがなされていない」との指摘は非常に多い。HPLCがダイナミック・レコードであるのは言うまでもない。

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