ラボにおけるERESとCSV【第53回】
7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。
■HH社 2017/11/10 483
施設:製剤・原薬工場
Observation 1
1)クロマトグラフィ
クロマトグラフィの電子記録を調査したところ、初回の測定とその分析が記録され
ておらず、逸脱管理規定に従った調査がなされていなかった。また、正式分析の前
に試し分析がなされていた。この試し分析の結果はQCのバッチ記録に含まれてい
なかった。
★解説:
① 初回の測定とその分析が記録されていないということは、不都合な測定結果
を隠蔽し良いとこ取りをしたということである。規格外すなわちOOSとなっ
た試験を逸脱管理規定があるにも係わらずその規定に従わうことなく繰り返
し測定をしたとの指摘である。
OOSが発生した場合の処理が不適切であると、不都合事象の隠蔽や良いとこ
取り操作を疑われデータインテグリティ指摘を受けてしまう。FDAは「Guid-
ance for Industry, Investigating Out-of-Specification (OOS) Test Results
for Pharmaceutical Production」においてOOS処理のガイダンスを示してい
る。このガイダンスにはその根拠法令
(連邦食品・医薬品・化粧品法、cGMP)も記載されている。
またFDAのOOSガイダンスを補足すべくMHRA(英国医薬品庁)が発出した
OOS/OOTガイダンス「Out of Specification & Out of Trend
Investigations」は、フローチャートにより、具体的な処理ステップを表示
しており判りやすい。
これらのガイダンスを参照し、適切なOOS処理手順を策定するとよい。FDA
ガイダンスの概要を連載第52回 の図25に示した。また、ファームテクジャパ
ン2018年2月号においてこのFDAガイダンスを紹介したので参照されたい。
上記のOOSガイダンスを参照してOOS処理手順を作成するとよい。OOSが発
生した場合、そのOOS処理手順に従い調査を行い、ラボエラーではなく逸脱
と判断された場合に逸脱処理を起動するのがよい。
OOS発生の都度、逸脱処理を起動するのは負荷が大きすぎる。
② 正式分析の前に試し分析がなされており、その試し分析の結果がバッチ記録
に含まれていないと指摘されている。これは、HPLCの試験前調整分析いわゆ
るプレコンディショニングの試し打ちに関する指摘であると思われる。
プレコンディショニングはHPLCに必要なものであるが、良いとこ取りの隠れ
蓑として実施されることがあり得る。従って、正当な理由のあるプレコンディ
ショニングを実施したことを証明できる必要がある。しかしここでは、プレコ
ンディショニングの記録もなくプレコンディショニングの内容を正当化する記
録もないと指摘されたと考えられる。HPLCプレコンディショニングにおける
試し打ちを隠れ蓑にして、「合格するまでテスト」
(Testing intoCompliance)、すなわち良いとこ取りをしているのではない
かと疑われている。良いとこ取りをしていることが判明すると、信頼のない
試験結果に基づき出荷判定を継続してきたとみなされてしまう。
良いとこ取りをしているとの疑いをかけられないよう、
MHRA(英国医薬品庁)およびFDAは業界に対し以下の指針を示している。
✔ 試し打ちの手順を規定すること
✔ 試し打ちデータはすべて保存し報告すること
✔ 試し打ちに製品サンプルは使用しないこと
HPLCプレコンディショニングにおける試し打ちに対するMHRAとFDAの指針
を連載第15回と第22回において解説したので参照されたい。
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