ラボにおけるERESとCSV【第45回】

7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。
 
■U社 2017/2/2 483
施設:化粧品工場


Observation 3
QCラボのコンピュータにおいてユーザー権限が適切に設定されておらず、HPLC生データの変更・削除を防止できていない。

★解説:
アプリケーションおよびOS双方のユーザーアカウントを適切に権限設定する必要がある。
アプリケーションのアカウント設定;

・オペレータ、アナリスト、スーパーバイザ、システム管理者などの各権限グループに適切な権限を設定する。
・各ユーザーに個人毎のアカウントを与える
・個人アカウントに設定する権限グループは、職務権限に適したものとする
・監査証跡を含む電子記録の変更・削除、監査証跡機能の設定変更、セキュリティの変更などができる権限(システム管理者権限)を、データの生成・照査・承認を行う個人に与えてはいけない
・各個人に与えた権限の正当性を説明できるようにしておく

OSのアカウント設定;

・データの生成・照査・承認を行う個人に以下の権限を与えてはいけない
✓ 時計の設定
✓ セキュリティやアカウントなどのOS設定

OSのアカウント設定;

・アプリケーションのデータをOS操作により変更・削除できないよう保護すること
保護方法については連載第43回のObservation 2の解説を参照されたい。

 


■V社 2017/2/17 483
施設:原薬工場


Observation 10
1)工程内テストの記録が全テストの完全な記録を含むことを保証するよう
 管理されていない。
2)製造の職員が未記入のテスト記録シートを印刷し、工程内サンプルの採取と
 テストを行っていた。

★解説:
FDA査察において、IPT(In-Process Test)やIPC(In-Process Control)に関する指摘が散見される。これらの指摘を理解するには、FDAがIPTとIPCをどのように定義しているか知っておく必要がある。筆者はIPTやIPCについて熟知しているわけではないが、IPTとIPCの解説を試みるので皆様のご意見をいただきたい。まず、筆者が考える製造記録、品質記録、逸脱処理/記録、出荷判定の関係を図13に示す。

 

 
図13 製造記録 品質記録 逸脱処理/記録 出荷判定の関係


1)項について
 (工程内テストの記録)

▷製造工程におけるテストはcGMP§211.110「中間体と医薬品のサンプリングとテスト」に記載されており、その要旨解釈の例を図14に示す。この要旨解釈例により、本解説では製造工程におけるテストを以下の2種類に分類して考えた。ただし、用語は企業により様々であり、査察官も厳密に使い分けていないかもしれない。
✓ 工程内規格試験    (IPT:In-Process Test)
✓ 工程内管理    (IPC:In-Process Control):規格試験を除く
この工程内規格試験(IPT)と工程内管理(IPC)の筆者解釈を以下に紹介するので、皆様のご意見をいただきたい。

① 工程内規格試験(IPT)
✓ 承認書や標準書に記載された中間体の規格値に対する品質試験
(中間体の品質試験)
✓ 製品品質試験と共に品質記録となる(図13参照)
✓ サンプリングは製造部門が行うとしても、試験は品質管理部門が実施
(製造部門に試験を正式に移管している場合もある)
✓ 品質判定は品質管理部門で行われる
✓ 規格値は「必要に応じ」以下の様に決められる(図14参照)
◇ これまでのプロセスの平均および変動度を基に
◇ 適切な統計学的方法の適用より決定
通常は開発段階で規定されるが、PATの場合はこのように
決められるのかもしれない。
✓ 逸脱が発生した場合にはQAに報告し、逸脱処理の適格性が判断される
(品質試験における逸脱処理に関するFDA査察指摘は非常に多い)

 

② 工程内管理(IPC)
✓ 中間製品や医薬品の特性のばらつきの要因となりうる製造工程を管理
✓ 製造が適切に行われていることをそれぞれの工程において確認
たとえば;
◇ QCによる製品や中間体の品質試験とは別に、調製工程においてpHを確認
◇ 自動検査機に点検用サンプルを流し、検査機が正常であることを確認
◇ 充填工程や打錠工程における初品のチェック
◇ 包装工程における機能確認
◇ ろ過滅菌フィルターの完全性試験
 (無菌性保証にとって重要な試験である。完全性試験器に監査証跡が
 ない、電子記録を維持していないなどのFDA査察指摘がある。
 また、繰り返し試験が可能であるので、QCラボと同様の試験管理が
 必要であると考えられる)
◇ アイソレータグローブの完全性試験
 (フィルター完全性試験と同様に無菌性保証にとって重要な試験である。
 監査証跡がない、電子記録を維持していないなどのFDA査察指摘がある。
 また、繰り返し試験が可能であるので、QCラボと同様の試験管理が
 必要であると考えられる)
✓ 工程内管理の記録は製造記録に含める
✓ 項目によっては、不適合となった場合は出荷不可となることがある
(例えば、ろ過滅菌フィルターの完全性試験不合格)
✓ 逸脱や異常が発生した場合にはQAに報告し、製造続行の可否が判断される
(逸脱処理に関するFDA査察指摘は製造においても非常に多い)
▷ 工程内規格試験を製造部門が実施する場合があると聞くが、QCラボと同等の試験管理や教育が求められる。工程内規格試験を製造部門が実施していたが、十分な試験管理がなされていなかったための指摘ではないかと2)項の指摘内容から推測している。製造部門に移管した品質試験の結果を品質管理部門がレビューし品質判定していなかったのかもしれない。

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