医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第68回】
有機溶媒抽出の行方
前回は、感作性試験や遺伝毒性試験で用いられてきた、有機溶媒抽出を選択した日本の立場やその根拠についてご説明しましたが、今回は、これからどうなるのかを少し考えてみたいと思います。
ISO 10993の基本的なスタンスは、polar (極性)とnon-polar (非極性)の溶媒を用いて抽出すべきというもので、これは以前から変わっておりません。
今般の日本の生安性通知は、ISO 10993シリーズ等を引用規格として、生物学的安全性を評価するという方向づけがなされました。
まず思うのが、それでは感作性試験や遺伝毒性試験で有機溶媒抽出の優先度は大きく下がるのではということですよね。
感作性試験のパートであるISO 10993-10:2021では、抽出に関する記述はAnnex A (normative)に「極性及び非極性、及び/又は必要に応じて溶媒を追加」とあります。
Annexは付属書ですが、その中でもnormativeとinformativeがあり、前者が要求事項、後者が参考情報と言われ、前者は規格適合のための必須の要件です。後者は文字通り理解を深めるための参考情報という位置づけですので、遵守要件としてnormativeの記載事項はinformativeよりは守るべきウエイトが大きいとされています。normativeの文書の書きぶりも"shall"が多く、一方のinformativeの文書は、"should be"や"be recommended"等、「~した方がよい」という語調に軟化します。
有機溶媒抽出もAnnexにあるのですが、Annex B (informative)への記載であり、ここに日本のこれまでの有機溶媒抽出法が示されています。
normativeとinformativeは上述したようなウエイトですので、明らかに極性及び非極性溶媒で抽出すると示されたinformativeであるAnnex Aの重要度は高いということとなります。
一方で、遺伝毒性試験については、ISO 10993-3:2014ではAnnex A (informative)に以前の日本の生安性ガイダンスにある決定樹と同じものが示されています。
これを見る限り、溶解/懸濁しない材料では、アセトンやメタノールを溶媒とした場合に十分な抽出物が得られるとそれを用いた試験となり、国内ガイダンスと同様でした(Method B)。一方、抽出物が得られない場合は、ISO 10993-12に従って抽出するという方向になります(Method C)。ISO 10993-12は、さまざまな試験の抽出がこのパートにしたがうようになっていますが、本文中に「抽出は、極性及び非極性の抽出溶媒を用いて行わなければならない。」と記されており、ここで感作性と同様に2種類の溶媒で試験を行うような方向になります(実際には、海外のレポートではいきなり2種類の溶媒で実施した試験結果を見ることが多く、抽出率に応じて選択したような書きぶりのものを見たことがありません)。
遺伝毒性のパートであるISO 10993-3は近々改訂予定ですので、決定樹は変更される可能性が高く、やはり極性及び非極性の2溶媒での試験が求められるのかもしれません。

このように見ていきますと、どうやらグローバルの規制としては、極性及び非極性溶媒での抽出を感作性や遺伝毒性においても必須としていく方向性は間違いないように思います。したがって、今後海外に輸出を検討されている医療機器については、2種の溶媒を用いた試験を計画されるのがよろしいかと思います。
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