GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第5回】

2018/01/05 品質システム

1. 指差呼称
 駅で駅員の指差呼称の風景はよく見かける。財団法人鉄道相互技術研究所の調査によると、指差呼称を行うことにより、次のようにエラーが減ることが確認されている。
確認方法 誤りの確率
 
指差、呼称の どちらもしなかった場合   2.38%
指差確認のみをした場合          0.75%
呼称確認のみした場合           1.0%
指差呼称をした場合            0.38%
 
 厚生労働省でも、労働安全衛生や医療現場、社会福祉の現場で指差呼称を求めている。その設備の状態や作動の確認、計器の数値など、目視するだけでなく、声をだし、指差すことで、確認行為が、一層明確になることは事実であろう。しかし、医薬品製造の現場で指差の実施やポスター等の掲示物を見かけた印象があまりない。GMPは指差呼称を否定しているわけではないが、ダブルチェックから連想されることは、2人の作業者による確認と捉えているからだと思う。しかし、医薬品製造所が必ず複数名の作業者で製造や試験のすべての工程を実施することは不可能であろう。単独で行う作業の際に、いかに、確認するかを考えるべきである。自分自身を考えたとき、携帯や財布をどこにおいたか忘れてしまったり、出かける際の家の鍵をかけたか不安になったりすることがある。人間の記憶は、あいまいで、単なる行動としてはすぐに忘れてしまうものである。GMPとして考える時、計器で表示される工程管理値等は、すぐに記録をするので、指差呼称も不要と考えるかもしれない。しかし、いざ、多くの作業をする場面で、手順書を読みながら、すべてを記載し、作業をするのは、難しいのではないだろうか。GMPでは、手順書を読むこと、記録を作成することも重要であり、必要なものと位置付けられている。しかし、手順書や記録に注意がいき、かえってヒューマンエラーを招くことになっていないだろうか。多くの製造所で、製造記録に作業の開始時刻や終了時刻を記載している。その工程は、タイマーで時間をコントロールしているなら、そのタイマーが校正されていることを指差呼称で確認すれば、時間の担保が取れるはずである。開始時間の記載まで必要であるか。すべてを記録するのではなく、指差呼称を利用しながら、適正な製造管理や試験検査を行う環境が必要である。
 文書管理の上で、チェックとして、文書の作成者がチェックをしなければならないケースもある。しかし、私自身、原稿等を作成するとき、その直後にチェックをしてもなかなか見つけられないと感じる。頭の中で、文書を作成したままの思考となっていて、誤りや誤変換が見つけられないのである。人間は、自分自身の行動等をチェックする際、環境を変えるなど、見方を変えないと、そのままの思考となり、誤りを見つけられないのである。チェックを翌日にすることやパソコンの画面上ではなく、プリントアウトして、印刷物として確認することが必要である。記録そのものを指差呼称は、難しいかもしれないが、記入する際に指差呼称を行うことは可能かもしれない。エラー防止として、指差呼称の導入も検討すべきである。

参考文献:行先表示や種別表示を指差喚呼する列車の車掌(小田急電鉄)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Odakyu_Conductor.jpg

2ページ中 1ページ目

執筆者について

中川原 愼也

経歴

GMPコンサルタント
1984年神奈川県庁に入庁し、1997年国立公衆衛生院(現在の国立保健医療科学院の前身)でGMP研修を受講後、薬務課及び小田原保健所等で医薬品等の製造販売業、製造業の許認可、審査、指導を主にGMP・GQPリーダー査察官として16年にわたり活躍した。その間、MRA(日・欧州共同体相互承認協定)の締結の際のEUの調査、2005年の製造販売承認制度の施行に携わり、PIC/S加盟にあたり、厚生労働省の委員等委嘱を受け、次の活動に参加した。
平成20、21年度 GMP/QMS調査・監視指導整合性検討会委員
平成21、22年度 厚生労働科学研究~GMP査察手法の国際整合性確保に関する研究
2012年に神奈川県庁を退職し、医薬品原薬輸入商社であるコーア商事株式会社で、品質保証部長として国内管理人としてのGQP取決め及び医薬品製造業としての GMP管理を統括した。2015年から株式会社ファーマプランニングにて、GxPコンサルタント業務に携わる。2017年高田製薬株式会社に入社、大宮工場の製造管理者、品質統括担当参事を経て、2021年より生産本部顧問に就任。同年より中間物商事株式会社品質保証部部長として勤務。
2021年11月より、共和薬品工業株式会社鳥取工場品質保証部長となる。
2022年4月からGMPコンサルタントとして独立したが、2023年2月硬膜動静脈瘻に疾病し、言語障害となった。退院後、自宅にてトレーニングし、完治。8月にネオクリティケア製薬株式会社品質保証部に入社、従来通り活動をしている。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

89件中 1-3件目

コメント

この記事へのコメントはありません。

セミナー

2025年7月2日(水)10:30-16:30~7月3日(木)10:30-16:30

門外漢のためのコンピュータ化システムバリデーション

2025年8月21日(木)10:30-16:30

GMP教育訓練担当者(トレーナー)の育成

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

株式会社シーエムプラス

本サイトの運営会社。ライフサイエンス産業を始めとする幅広い産業分野で、エンジニアリング、コンサルティング、教育支援、マッチングサービスを提供しています。

ライフサイエンス企業情報プラットフォーム

ライフサイエンス業界におけるサプライチェーン各社が提供する製品・サービス情報を閲覧、発信できる専門ポータルサイトです。最新情報を様々な方法で入手頂けます。

海外工場建設情報プラットフォーム

海外の工場建設をお考えですか?ベトナム、タイ、インドネシアなどアジアを中心とした各国の建設物価、賃金情報、工業団地、建設許可手続きなど、役立つ情報がここにあります。

※関連サイトにリンクされます