ゼロベースからの化粧品の品質管理【第45回】

2024/06/28 化粧品

今回は化粧品の品質保証の中で安全性面で極めて重要な不純物の管理について。

 

―コンタミネーション対策を考える―

 

 化粧品GMPに関して、運用面の視点から留意事項についてお話させて頂いています。
 今回は、化粧品の品質保証の中で安全性面で極めて重要な不純物の管理についてお話したいと思います。
 早速ですが、化粧品の中からメタノールが検出されたと言うと驚かれると思いますが、皆さんの製品は大丈夫でしょうか? あまり意識はされていませんが、市場で売られているシャンプー類ではメタノールが検出される製品がかなりあるのではないかと思います。勿論、メタノールは配合されてはいません。但し、分析をしてみるとメタノールが検出されます。その原因は、使用されている界面活性剤の合成過程でメタノールが使用されており、それがキャリーオーバー成分として検出されます。国内工場で製造されている界面活性剤を使用している場合には、最終工程で精製が行われていますので極僅かしか検出されません。しかしながら、海外工場で生産された界面活性剤を使用している場合には、精製精度が国内生産品に比べて甘い製品がありますので比較的多くのメタノールが検出されます。原料の製造工程を含むリスク把握は重要ですが、なかなか理解がされていませんので、今回は化粧品におけるコンタミネーション対策を中心にお話します。

 最近、小林製薬株式会社の紅麹の健康被害が話題になっており、原因については青カビの混入(コンタミ)が疑われる旨の報道もなされています。私もかつて乳酸菌の培養によりヒアルロン酸の製造に係わっていましたので、他人事ではなく関心を持って聞いています。製品は違いますが、私たちも常に雑菌の混入が無い事を確認し、特に溶血性菌類のコンタミネーションがないことを保証していましたが、正直、微生物の代謝物は何百種類もあり、物質の特定と安全性の保証はなかなか難しいことが実態です。私たちの場合には、海外の権威の先生に指導を頂き対外的に安全性を説明データを揃えましたが、小林製薬株式会社の場合では原因物質の特定には大変な苦労をされているものと推測します。

 少し話が変わりますが、少し前に白麹が話題になった際にNHKでも放映された麹を販売されている企業に対して5Sの指導をさせて頂いたことがありました。その際に、味噌において酵母は早い段階で死滅し、その代謝物で味噌が出来上がることを教わりました。微生物の汚染による影響については認識していたつもりでしたが、改めて微生物が死滅したとしても代謝物の怖さを認識しました。我々の化粧品製造においても微生物汚染のリスクは常にあり、最終的に微生物が死滅したから問題ないと判断するのではなく、微生物汚染があった場合にはエンドトキシンの確認を行う等、微生物が存在したことに対する安全性の保証が必要ではないかと考えます。
 製品の安全性保障については私は専門家でないため、ここではコンタミネーション防止策に絞ってお話をさせて頂きます。

1.化粧品で使用する原料に関する安全性の保証体制
 化粧品の原料は、不純物等も含め、保健衛生上の危険を生じるおそれがある物であってはならないとされています。ここでは、不純物の管理体制、経時劣化物の把握、微生物汚染に対する対応も求められています。しかしながら、実務者の立場からすると原料の製造工程や設備に関して情報を得ることはなかなか難しいことが現実です。この対策としては、大手メーカーの使用実績を基に判断することが現実的な対応の有効な手段となります。ここでは、原則論に則って、原料に関してチェックすべき事項について項目を上げさせて頂きます。
 A) 粗原料および工程で使用される化学物質:溶剤を含む禁止物質の使用の有無
 B) 製造工程、培養工程等で発生する不純物質
 C) 製造ライン(空調システムを含む)、製造エリアにおけるクロスコンタミの
   リスク
 D) 精製工程および精製設備の管理:水を使う工程を含む場合は微生物汚染の
    リスクを含む
 E) 過去のトラブルに関するヒアリングおよび文献調査
 F) ロット付けおよび保証単位の確認

 何回か過去お話していますが、私の経験でもアセトンにおけるワッカー法とクメン法の違い、カルボマー類における溶剤精製における排気配管によるクロスコンタミ、粉末製品の水洗工程における微生物汚染、鉱脈の変更における重金属含有量の変化、保管容器からの溶出物による汚染、ステンレス設備の溶接部からの金属溶出等、原料に関しても色々痛い経験をしています。
 当然の事になりますが、原料の使用に関しては先ず<ポジティブリスト>に基づき、防腐剤、紫外線吸収剤及びタール色素の配合の制限規定に関して確認することが必須です。配合禁止物質である<ネガティブリスト>に関しては、輸入化粧品では特に注意が必要です。
 その次に、原料の採用時には次の事項の確認が好ましいと考えます。
  1)組成は同じか?(INCI名が同じでも化学組成や混合の割合
    分子量分布が異なるケースがある)
  2)臭い、外観色、性状(粒度等)の管理値、許容範囲、判定水準は
    自社が求める水準と一致しているか?
  3)異物(残留溶媒、金属、未反応物)の認識と管理水準は?
  4)類縁物質(反応時の不純物)の規格化
  5)ロットの概念と均質性の保証単位の確認
  6)変更管理・逸脱管理に関する対応手順
  7)サンプル品と量産品との品質の違いがないこと
  8)異常発生時の対応方法とリスクヘッジの方策
 繰り返しになりますが、原料に関して製造工程を含む詳細情報を把握することは難しい状況ですが、原料は対象となる製品への影響が広範囲に及ぶため難しとは言いつつも情報収集に注力することが必要です。
 

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執筆者について

鈴木 欽也

経歴

1980年に㈱資生堂に入社。掛川工場で処方開発・生産技術開発を担当。ネイルエナメルのゲル化剤、色材の開発や調色に関するコンピューターカラーマッチングシステムを開発。他に高圧乳化、凍結乾燥、パーマ剤、ヘアカラー等の特殊技術開発にも従事。
その後、本社生産技術部で海外事業戦略、海外工場建設、生産技術移転、海外薬事対応の業務を担当した後、再び掛川工場でファンデーションやマスカラ生産の移管業務を担当、本社で海外原料・資材・製品調達の業務を担当した後、中国北京工場の取締役工場長として、工場建設とシャンプー、リンスの現地生産化や化粧品の工業会の業務に尽力。
帰国後、掛川工場技術部長、大阪工場技術部長を歴任、FDAの査察受け入れやEU原薬登録を実施。
また、㈱コスモビュティー執行役員 品質管理部長としてベトナム工場、中国工場を建設。現在、㈱ディー・エイチ・シーさいたま岩槻工場の工場長でメーキャップ製品の工場改修・立上げを実施した。2017年から中小企業診断士として、鋳造業、サービス業、建築業等の事業計画作成支援や企業の5S活動支援を実施している。
品質管理に関しては、米国OTC製品の化粧品業界で日本国内初のFDA査察を受け入れ、指摘事項ゼロ件での対応、ヒアルロン酸のヨーロッパ原薬登録・米国FDA登録、ヒアルロン酸の原薬工場棟の増設を責任者として推進した経験を持つ。
公害防止管理者(水質1種、大気1種)、中小企業診断士(埼玉県正会員)、FR技能士、ターンアラウンドマネージャー(事業再生、(一社)金融検定協会認定)、健康経営EXアドバイザー、ISO9001審査員補、2022年5月から(株)エコノス・ジャパン代表取締役

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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