ラボにおけるERESとCSV【第32回】

7.483における指摘(国内)
国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。データインテグリティ課題とはいえないかもしれないが、留意していただきたい観察所見も含めて紹介する。483は全数公開ではなく請求により開示されるものである。ここで紹介する観察所見は入手している483から抜粋したものであり、全ての483を網羅したものではない。また、企業秘密となる部分は墨消しして開示されるので(図5)、内容を推測できない観察所見は紹介していない。


図5 FDA 483の墨消し


■A社 2012/7/20 483
施設:原薬工場および無菌製剤工場

Observation 5
HPLCやIR等の主要なラボ機器の使用記録(ログ)に、それぞれの機器においてテストされた製品の名称、ロット番号、テスト日が記載されていない。
 
★解説:
トラブル等の原因調査を行う場合、各機器がどのように清掃・保守・使用されたか確認する必要がある。そのため、機器を異なる品目の製造や検査に使用している場合、各機器の使用記録(ログ)に使用日時、品目名、ロット番号などを記載しなければならない(CFR211.182 機器の清掃・使用ログ)。特定の品目に限定して機器を専有使用している場合は、機器の使用履歴は製造記録により判るのでこの限りではない。従って、機器を汎用的に使用している場合、上記の観察所見はcGMP違反事項となる。また、各機器の使用記録(ログ)は(定期的に)照査が必要であるとの解釈がある。

■B社 2015/1/16 483
施設:原薬工場

QCラボにおけるHPLC分析の「プレコンディショニング」に関する管理が不適切である。特に;
 ●製品試験の前に実施されるHPLC「プレコンディショニング」が手順化されて
  いない
 ●HPLC「プレコンディショニング」に関する制限事項が教育されていない
 ●あるロットのHPLC試験において、正式測定の前にテスト測定が以下の4回行わ
  れていた
  ▷ 溶媒 2回
  ▷ 試験対象ロット 1回
  ▷ 不純物を注入した試験対象ロット 1回
 ●分析データのレビューにおいて、これらの「プレコンディショニング」測定は
  QCの職員やマネージャ、あるいはQAがレビューしていなかった
 
★解説:
HPLCプレコンディショニングにおける試し打ちを隠れ蓑にして、「合格するまでテスト」(Testing into Compliance)、すなわち良いとこ取りをしているのではないかと疑われている。良いとこ取りをしていることが判明すると、信頼のない試験結果に基づき出荷判定を継続してきたとみなされてしまう。良いとこ取りをしているとの疑いをかけられないよう、MHRA(英国医薬品庁)およびFDAは業界に対し以下の指針を示している。
  
▷ ​試し打ちの手順を規定すること
  
▷ ​試し打ちデータはすべて保存し報告すること
  
▷ ​試し打ちに製品サンプルは使用しないこと
HPLCプレコンディショニングにおける試し打ちに対するMHRAとFDAの指針を連載第15回と第22回において解説したので参照されたい。

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