新・医薬品品質保証こぼれ話【第16話】

2022/11/25 品質システム

GQP省令と品質不祥事。

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話

GQP省令と品質不祥事

医薬品の製造所における違法製造が後を絶たない状況下、今年4月(2022年)、委託先製造所等における品質管理の徹底を求める通知、「医薬品の品質問題事案を踏まえた製造販売業者及び製造業者による品質管理に係る運用について」(薬生監麻発0428第2号令和4年4月2 8日)(以下、「本通知」)が発出されました。本通知は医薬品製造業者(以下、「製造業者」)の業務停止を伴う重大な品質事案に対する、医薬品製造販売業者(以下、「製販業者」)の責任の重さに鑑み、特に製販業者にGQP省令の的確な運用を促すことを目的としたものと理解されます。通知のタイトルは製販業者と製造業者双方にあてた表現になっているものの、内容から見て、主に製販業者にあてた指導と思われます。

本通知は、「1.製造販売業者における組織及び人員体制の整備」、「2.品質保証責任者の業務」、「3.製造販売業者と製造業者等の適正な委受託関係の構築」、「4.品質情報等に関する情報提供及び措置」、「5.製造販売業者による製造業者等の定期的な確認」および「6.市場への出荷の管理」の6項目により構成され、それぞれに本省令の関連条項を引用し、的確な運用に向けての詳しい解説がなされています。一般に、省令の発令や改正が行われた場合、その的確な運用を促すために施行通知が発出されますが、GQP省令の場合も公布に伴い施行通知(薬食発第 0922001号, 平成16年9月22日)が発出されています。本来、この施行通知により本省令が的確に遵守・運用されることが期待されましたが、上記のように、製造業者の違法製造の問題に関連して製販業者の責任が問われ、より的確な運用を求めることを目途に本通知が発出されたものと考えられます。

本通知においては、GQP省令に基づく品質契約、製造所のGMP実施状況の確認、また、変更や逸脱が発生した場合の製造業者と製販業者の連絡・連携など、本省令の基本的な要件の的確な実践・遵守に向けてより細かくポイントが解説されています。このことから、本通知は上記平成16年の施行通知を補足するものと解されますが、GQP省令の施行から17年経過後のこの時期に発出されたこの通知の持つ意味は企業に拠って異なってくると思われます。

つまり、すでに本省令の内容を十分理解し、問題なく運用できていると思われる企業にとってはこの通知の必要性は低く、逆に、運用実態に問題があり、特に委託製造管理において様々な問題を抱える企業(製販業者)においてはこの通知は重要であり、通知に示された内容に沿って適正に対応することが期待されます。しかしながら、先ずはいずれの企業もこの通知に照らして現在の関連業務の実施状況を点検・確認し、対応に少しでも不十分な点があれば、本通知の解説に沿って対応を強化することが期待されます。

ところで、今回この通知を読んで改めて現在のGQP省令とGMP省令に基づく、言わば、“二重の品質確保体制”(或いは、二段階の品質確保体制)について改めて考えさせられました。品質確保それ自体は、本来、医薬品を製造し試験・評価する“製造業者”の任であり責であることから、GMPの実践が徹底できていれば品質確保は可能であり、問題が生じた場合は製造業者自らがGMP基準を基礎に改善対策を行うのが当然であり、品質確保はこれで全うできるはずです。

この場合、現体制におけるGQP省令に基づく製販業者の役割を考えた場合、工場の監査、記録の精査などを実施し、製造業者に対し原因究明と改善対策の協力・指導を行うなど、GMP実践の徹底を製造業者に求めることのほかありません。こういったことは、製造業者が自ら行うべき事項と同じであり、製造業者(製造所)が自立していれば、製販業者の協力・指導といったものは本来、不要なはずです。

しかしながら、実際にはこの2年間に製造所における違法製造が頻発するという事態となっており、改めて、上記のようなGQP省令の的確な運用を促す通知の発出が必要な状況になったのが現状です。では、何故このような状況に至ったのか?一つには、2005年の法改正に伴い“全工程委託”が認められたことが遠因として考えられます。これにより、大手企業は挙って中小の製造業者に自社ブランドの医薬品の製造委託を行う流れとなり、GQP省令に則り品質契約とGMP実施状況確認の二本柱を基礎に委託先管理を進めましたが、その実施態様が、省令が求める本来の姿と少し違っていたというのが、本通知発出の経緯と言うことになろうかと思います。

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執筆者について

浅井 俊一

経歴 1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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