GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第57回】

その作業は、本当に手順のとおりに行うことができるのか、作業者にとって壁がないのか確認する必要がある。
手順書
1.壁を越える
「壁を越える」とは、目の前の問題を解決することを言う。先日、NHKのドラマ「しずかちゃんとパパ」で、耳が聞こえないろう者の父が自転車の練習をする場面があった。そこで、壁は越えるものではなく、目的は、壁の向こうに行くことである旨のセリフがあった。最終的に、自転車に乗れるようになるのではなく、補助輪をつけ、周りの人に注意を払うためスピーカーから音楽を流す方法を考え、克服することになった。これは、そのままの作業ではリスクが高く、成しえないことも手順を変えるなど壁を越える以外の方法に変更するになり、リスクマネジメントの考えに通じるものだと感じた。
ヒューマンエラーが起きると、多くの製造所では、教育訓練不足だ、教育の徹底を図れとなる。また、チェックができたのか、ダブルチェックを徹底しろとなる。毎回、同じ繰り返しとなる。その作業は、教育訓練で問題なく行える作業か確認が必要ではないだろうか。ダブルチェックで作業が適切に行えたか十分確認できるのであるか評価をしたのだろうか。十分な検証を行わないと、再発や他部署での同様な事例の発生につながる。CAPAが不十分な事例となるのである。製薬業界では、違反事例が頻発している。その多くが教育訓練の不足、ダブルチェック漏れとQAの自己点検等のモニタリングの不足によることだとされている。しかし、その作業は、本当に手順のとおりに行うことができるのか、作業者にとって壁がないのか確認する必要がある。
製造販売承認書との齟齬の問題が多く発生して、当局は無通告査察を行っている。無通告を行う意味は、製造業者がその齟齬を認識し、データのねつ造、改ざんを行い、隠蔽しようとする時間を与えないことにある。製造販売承認書の製造方法や試験検査方法を製造販売承認事項一部変更承認申請いわゆる一変は、その審査に時間がかかり、その手間を面倒に感じる点は否めない。しかし、その一変申請での手間や時間を惜しむばかりに、却って、現場に苦労をさせていないだろうか。手順に従うことを強要するだけでなく、別の手順を考えることで、その作業を効果的に行うことができるかもしれない。壁を越えなくても、遠回りのようであっても、近道となるかもしれない。急がば回れとして考えてもいいかもしれない。
要するに、現場において手順書のとおり行うことが困難な作業や非効率な作業が多くある。それを手順書のとおり行わなければならないことを理由に改善を図ろうとしない製造所が多くある。現場に責任を負わせて、教育訓練不足と片付けていないか再確認が必要である。現場の作業者も言われた通り、手順書のとおりと無理をするのではなく、どのような改善が必要なのかを考えなくてはならない。必要な改善をきちんと上司や経営陣に伝えることもせず、文句を言うだけでは、改善は進まない。無理に壁を越えるのではなく、別の対応を考えなければならない。その壁は意味なくそこにあるのではなく、それがリスクであるからである。本来、壁とは、乗り越えるべきものではなく、中にあるものを守るべきものである。壁は乗り越えてはならない。目的は壁を乗り越えることではなく、壁の向こうに行くことである。ならば、向こうに行く別の道を探すべきである。別の道とは、リスクマネジメントにおける低減策になる。壁を乗り越える教育訓練ではなく、別の方法を考え、手順書を見直すべきである。製造所の関連するすべての者により、効率的な手順を見つけることがより良い品質につながることになる。
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