GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第52回】

QA活動

1.情報共有
 CAPAシステムとして、予防措置を実施するうえで、情報共有することは重要である。当局が薬事講習会等で、回収や指摘事項の事例を発表するのは、多く発生する事象について知ってもらい、予防措置として各製造所において対策を行うことを求め、品質不良の医薬品を市場に出ることを防ぐためである。講習会の後、製造所の責任者から「あの事例は、うちの指摘ではないか」と問われることが多かった。しかし、多くの指摘事項は、多くの製造所において起きている、又は起きる可能性が高い事例であり、特定の事業者の指摘を公表しているわけではない。また、査察官は、GMP省令の改正やICH、PIC/S GMPなどの通知が発出されると、各製造所での対応状況や考え方を探るため、査察においてチェックする。そのため、査察のポイントが改正点や通知のポイントとなることが多い。査察の際、多くの製造所でその対応を確認することで、どこまで、その管理が可能か、指摘として求めても問題ないかを探ることになる。そのため、講習会等で発表するポイントも改正点や査察や回収等で多く見られる違反・指摘事項に集中することになる。
 製造所内において、GMP委員会の他、多くのミーティングで情報の共有化を図り、逸脱や変更管理などの見える化に努めていることだと思う。しかし、いくら発表されても、なかなか自分自身の問題と感じないもので、人の失敗を嘲笑うことにもなりかねない。そのために、同様な逸脱が頻発することになる。情報共有は重要であるが、各自が自分にも起こりうる事象であることを理解しなければ、情報共有の意味がない。個人情報守秘やパワハラ対策として、個人の失敗などを公開しない企業も多い。GMPは個人攻撃をするものではなく、あくまでCAPAシステム、品質システムとして、予防措置の徹底を図るために行うことであることを理解しなければならない。
 コロナ禍で、コミュニケーションをとることも難しい中で、医薬品製造所として、各部署及び各担当がいかに情報共有を図るかを考えなければならない。情報共有することで共通の認識やレベルを統一することを重視する必要はある。しかし、リスクを考えるとき、情報を共有するうえで、同一の考え方を行う必要はなく、そのリスクに対してはそれぞれの立場により、ディスカッションすることで、多角的に見えることになり、リスクの神髄が見えてくる。日本人の多くは、画一的見方をすることも多いが、多様性に富んだ考え方が必要であり、論理的に、科学的な見方が必要である。
 情報共有ができてなく、ヒューマンエラーが発生したとき、多くの人が教育訓練の有無を問う。情報共有を教育訓練で賄うことは難しい。特に、手順の逸脱の場合、手順のとおりに行うことは、GMPの基礎で、教育訓練済みであろう。すべての工程について、いちいち手順書のとおり実施しなければ、逸脱になることを指導することは、時間的に困難であろう。多くの時間を割いて教育訓練を形式的に行っている製造所は多いのではなかろうか。教育訓練の形骸化になっていないだろうか。そのために他部署で起こったヒューマンエラーである逸脱事例を情報共有することで、その部署で起こっていない逸脱を未然に防ぐことができるはずだが、情報共有を教育訓練で賄おうとすることで、無理が生じ、十分にCAPAシステムが稼働しないことになる。

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