医薬品品質保証こぼれ話【第43回】

2021/08/06 品質システム

GMPの原点に立ち返って医薬品の品質保証のあるべき姿を再確認する。

違法行為回避策としてのGMP記録の管理

医薬品製造におけるデータ不正や様々な品質トラブルが招いた医薬品の安定供給に関する問題が、ここにきて大きな波紋を呼んでいます。本稿、第41回「後発医薬品の信頼回復と安定供給」において日医工の「エルデカルシトールカプセル」の生産の一時停止に触れましたが、その後、共和薬品の製造販売承認書と製造実態の齟齬による「アルファカルシドール製剤」の出荷停止が発表され(7月20日)、これがこの領域の医薬品(活性型ビタミンD製剤)の“出荷調整”を助長し、医療や調剤の場に深刻な影響を与えています。これに関連して、厚生労働省医政局経済課は、事務連絡「アルファカルシドール製剤が安定供給されるまでの必要な患者への優先的な使用等の対応への協力について」(7月19日付)を発出しました。本製剤は骨粗鬆症関連の患者に広く使用されるものですが、本通知は、本薬の必要性がより高い副甲状腺機能低下症や腎不全に伴う“くる病・骨軟化症患者”等への使用を優先することを求め、医療現場の混乱を解くことを意図したものであることは言うまでもありません。

“医薬品製造”は医療という極めて重要な場において社会に貢献できる誇り高い業務領域であると同時に、一歩間違うと、人命に関わる重大な問題を引き起こし、医療や国民に重大な影響を及ぼすことからその社会的責任は極めて重大です。上記のような“重要医薬品の欠品”の問題は、その医薬品がなければ健全な日常生活を維持できない、或いは、重篤な症状の患者の治療が継続できないといった致命的な問題を招きます。こう考えると、“医薬品の品質確保・安定生産”がどれほど重要な課題であるかが容易に理解でき、また、GMP基準がこの重要な課題を実現するために編み出されたこと、さらには、これを遵守することがどれほど大切で尊いことであるか、といったことも分かるはずです。しかしながら、GMP基準の逸脱に留まらず、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保に関する法律)に違反(承認書逸脱)する行為がなぜ後を絶たないのでしょうか?これまでの稿で繰り返し述べた“構造的な問題”(医療費抑制策としての後発医薬品の使用促進と生産数量の増加、など)が背景にあるにせよ、製薬企業としてGMP基準を遵守し品質確保することは使命であり、上記のような違反行為を正当化する理由にはなりません。GMPの原点に立ち返って医薬品の品質保証のあるべき姿を再確認し、現状を見直し、改善すべきは早急に改めることが一に望まれます。

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執筆者について

浅井 俊一

経歴 1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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