厚労省「コンピュータ化システム適正管理ガイドライン」の要点(9)

4.新ガイドラインとその解説(第8回の続き)
 新ガイドラインにおける重要な項目について以下に説明を加えた。より詳細な解説については日薬連から発行される解説書を参照して頂きたい。
 
4.3 システムアセスメントの実施
開発責任者は、開発、検証及び運用の各段階にて実施すべきそれぞれの内容を定めるために、コンピュータ化システム管理規定に基づき、原則として以下の事項を実施する。
(1) ソフトウェアカテゴリ分類
(2) 製品品質に対するリスクアセスメント
(3) 供給者アセスメント
 
 2002年8月、FDAは「Pharmaceutical cGMPs for the 21st Century: A Risk-Based Approach」(21世紀に向けた医薬品cGMP:リスクに基づいたアプローチ)を発表している。この取組みの目的と範囲を概説したコンセプトペーパの中で「科学に基づいたリスクマネジメントと統合された品質システムによるアプローチの融合」をFDAの今後の活動レベルとした。
 拡大する医薬品産業の中でFDAの査察もリソースは無限ではなく、限られた範囲の中で重要なところにリソースを集中して取り組むという考え方は当然の帰結である。医薬品産業においてはこのFDAの宣言以後、「リスクアセスメント」や「リスクに応じた取組み」が全ての取組みのキーワードとなっている。
 新ガイドラインにおいてもシステムアセスメントは重要な取組みの一つである。システムアセスメントの結果に基づいて、その後実施すべきCSVの取組みレベルを決定する事になる。つまり、システムアセスメントはCSV取組みの戦略を決めるための重要な手続きである。
 
 新ガイドラインにおけるシステムアセスメントは次の3つの取組みが求められている。
 (1)ソフトウェアカテゴリ分類
 (2)製品品質に対するリスクアセスメント
 (3)供給者アセスメント
 
 まず、はじめの「ソフトウェアカテゴリ分類」については既に解説した。ここでは詳細の説明は省略するが、カテゴリ分類することで合理的なCSVとすることが可能となった。またこれ以上に大きな効果をもたらしたことは何よりもCSVの取組みを解りやすくしたということである。しかしながら、日本国内ではカテゴリ分類だけが一人歩きしてしまい、これがCSV取組みの全てのようになっているという向きもあるが、欧米ではカテゴリ分類は補助的なものであり、あくまでもリスクに応じた取組みがベースとなっている点に注意が必要である。
 次に「製品品質に対するリスクアセスメント」であるが、開発や購入を予定しているシステムが医薬品の製品品質に対してどの程度の影響を与える可能性があるかという観点からリスクを評価する。(GAMPガイドでは製品品質だけではなく、ビジネスリスクという観点でのリスク評価もある)。ユーザからの要求仕様を元にシステムに内在するリスクを評価することになる。リスクアセスメントは初期リスクアセスメントと詳細な機能リスクアセスメントの2段階で実施すると良い。詳細なアセスメントは初期リスクアセスメントでリスクが高いとされた場合にのみ実施するなど、どの様なリスクアセスメントを行うかは自社の管理規程によることになる。
 初期リスクアセスメントでは大まかにそのシステムが製品品質にどの程度影響を与える可能性があるかを評価する事を目的として実施する。このため評価段階としては概ね、高、中、低の3段階程度で評価する。カテゴリ分類を加えて初期リスクアセスメントの結果から製品品質へのリスクが高いと判断された場合は、詳細な機能リスクアセスメントを実施する事になる。この場合は詳細設計が明確になった時点で、システムの機能ごとにリスクアセスメントを行う。機能リスクアセスメントを行うためには、設備、工程、コンピュータシステムをよく理解した者と品質部門の者が参画することが望ましい。対象となるシステムが品質への不都合な影響を与える可能性のあるリスクを洗い出し、その事象の発生頻度とそれが発生した場合の影響度をFMEAなどのリスクマネジメント手法を用いて評価することが多い。リスクが高いとされた機能についてはリスク低減策を検討し、対策を適切に実施し、リスクが本当に低減されたかを再度評価する。
 次に「供給者アセスメント」は、自社が採用する候補となっている供給者がどの様な企業であるかを調査する作業である。また、既に取引経験があればその実績を含め、既に持っている情報を活用することも有効である。供給者アセスメントは郵送による調査と供給者を訪問する実地調査があり、リスクアセスメントの結果により調査方法を決定する。一般的な供給者アセスメントでは供給者の品質管理体制、要求システムの開発体制(責任者、担当者が適切な能力を有していることの確認も含む)開発環境、CSVの経験、教育訓練、サービス体制等の適格性について多角的に調査を行う。供給者アセスメントにあたっては事前に調査内容のチェックリストを付したアセスメント計画書を作成するなど、事前の準備が必要となる。
 新ガイドラインにおいては「供給者アセスメント」と「供給者監査」を使い分けているので、混同しないように注意が必要である。新ガイドラインの用語集には次のように定義されている。
 
・供給者アセスメント:
 製造販売業者等による供給者の選定や委託の範囲、供給者監査が必要な場合の実施方法等を決定するために行う供給者の評価、一般的には開発段階の初期に行われる。
 
・供給者監査:
 供給者の品質管理体制や品質保証のシステム、あるいは経験・能力や実績など多角的に供給者の調査を行い、供給者の総合的な品質マネジメントシステムや能力を評価・確認すること。実地又は書面による監査方法がある。

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