再生医療等製品の品質保証についての雑感【第21回】

2021/01/15 再生医療

水谷 学

はじめに
 本稿では、再生医療等製品製造の無菌操作環境を適切に維持し、製品の無菌性を保証できることをする適格性評価である、プロセスシミュレーションテスト(PST)について雑感を述べさせていただきます。培養の工程で用いる培地は微生物も増殖可能であり、混入による影響も直接的に確認可能であると考える細胞培養の工程において、なぜPSTが必要なのでしょうか。製薬製造の領域では当然の話しとなるでしょうが、一度ここで整理をしておきたいと考えます。

● いまさらですがPSTの目的を再認識してみる
 PSTはバリデーション活動の一環であり、製造工程の重要なプロセスパラメータ(PP)やデザインスペース(同一製品の製造工程におけるPPの許容幅)を決定して適切に生産ができる製造環境の準備が整った時点で、工程のプロセスが再現性よく製品の無菌性の確保ができることを前提に、その妥当性(安定性)の評価のために実施します。当然のことですが、単に実地検証において無菌性の維持が確認でできればよいという試験製造的な実施ではなく、製造機関が十分にプロセスを理解しており、適切に無菌操作環境を構築・運用できていることを設計検証できていることが重要なポイントであり、培地充てん試験はその設計の確認作業にすぎません。(その確認作業の負担は小さいとは言えませんが...)
 PSTを実施する目的は、製造機関が工程および無菌操作環境を理解し、適切に制御できる力を示すことにより、偶発的なインシデントを可能な限り低減させることであると認識します。無菌性の担保は、規制側にとっては最も重要な安全性の品質であり、妥協は許されません。そしてご存知の通り、ロットを形成する注射剤の充てん工程などにおいて、偶発的に微生物が混入するインシデントが生じていても、引き抜き試験などの評価方法では混入品を検出することは困難です。(引き抜き試験では、実施中の工程特性が変化する等により生じる異常は検出できますが、偶発的な逸脱により生じる異常を検出する確率は低いと認識します。)特に、キャンペーンごとにロット生産方式で大量の製品を製造する場合、そのような偶発的インシデントを生じさせない運用マネジメントを検証する手段として、PSTは有用であると認識します。すなわちPSTの目的は、製造を実施する機関(組織)が製造工程を適切に管理・運用できていることを保証するマネジメント体制の妥当性の証明であり、製造業としてのプロセス保証の在り方となります。

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執筆者について

水谷 学

経歴

大阪大学 大学院工学研究科 講師。
1997年群馬大学大学院工学研究科博士後期課程を中退。国立循環器病センター研究所生体工学部にて生体適合性材料の研究を行った後、株式会社東海メディカルプロダクツにて循環器用カテーテルの開発および製造に関わる。2004年より株式会社セルシードにて再生医療に係る開発および品質保証を担当し、臨床用細胞加工物の工程設計や細胞培養加工施設の設計と運用を実施。東京女子医科大学での細胞シート製造装置開発を経て、2014年より現職。細胞製造システムの開発に従事。工学研究科の細胞製造コトづくり拠点において、細胞製造コトづくり講座(社会人教育)および標準化・規制対応に関わる共同研究を担当。

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