再生医療等製品の品質保証についての雑感【第1回】

はじめに
 再生医療・細胞治療のための細胞製品(再生医療等製品・特定細胞加工物)の製造では、生きた細胞を製品とするため、製品開発、治験計画、製造工程設計あるいは構造設備設計など、これまでとは異なる考え方が要求される場合が生じます。筆者は、過去の役職(企業)において品質保証部門の担当を任じられ、拙いながらも再生医療等製品の安定した品質確保の達成のため品質文書の整理を進め、そこで様々な矛盾と遭遇しました。このとき、再生医療等製品は果たして一般的な製造物のように製品のライフサイクルを通して一貫して品質保証が可能なのかと多くの疑問を感じました。本稿ではこれまでに生じた疑問について、現在持ち得る知見を踏まえて、ざっくばらんに「雑感」をお話しさせていただきます。雑感ゆえに明確な指標は示すことはできないと思いますが、細胞を製品とすることへの向き合いかたの一助となれば幸いです。

 注:本稿での再生医療等製品の定義は、法令における遺伝子治療を目的として人の細胞に導入するものを含まない、細胞加工物に限定させていただきます。
 
● あらためて、再生医療等製品とはどういうものなのか
 ここで取り上げる再生医療等製品とは、「人為的な増殖・分化、細胞の株化、細胞の活性化等(加工)を行った細胞・組織」で、特定の細胞群が最終製品となります。必要な数の細胞群が無菌で、かつ製品規格内で均一なものとして安定して製造できれば製品として供給することができます。このとき、一般的な製品製造の品質マネジメントシステム構築では、製品のアウトプット(製品規格)を適正かつ明確に定め、そのアウトプットを達成できるインプット(原料等)を準備し、適切なプロセス(工程を含む製造システム)を構築することで製品を実現し、これらを適切に管理(バリデーション)することで製品を均一かつ再現性良く得られるようにします。当然ながら再生医療等製品についても、同じ考え方のもとで製品を準備できるようにしてユーザー(患者)に安定供給できることが前提の製造物です。
 一方で、再生医療等製品を構成する加工した細胞は、少なくとも現状の科学技術では最終製品の規格を厳密に決定して最終品のみから評価し同定する手段はありません。フローサイトメトリー法などで特徴となる表面抗原の評価を実施すれば、原料あるいは目的とする分化細胞と近似の細胞系統であるか否か、またはどの程度の分化成熟段階かの同定は可能です。しかしながら、どのような培養履歴を経ているか、例えば同じ培養培地、培養日数、培養密度などで成育されていたか否かの工程履歴について、最終加工物より網羅的に評価して100%製品を同定することは非常に難しいと思います。また、個々の細胞は培養環境内のゆらぎの中で各々の生反応が進むことで“個性”が生じ、増幅とともに少なからずヘテロとなる群を生じさせますが、化合物のように詳細な分離・精製を行うことは難しいのが実状です。もし最終製品が例えば培養上皮あるは培養軟骨のようなティッシュエンジニアリング技術を用いた構造物であれば、従来の医療機器と近似の品質規格(身体の構造・機能への影響からの要求性能)のみで製品の評価を行うことは可能かもしれません。しかしながら個々の細胞が患者の機能回復に寄与するならば、最終加工物からの情報のみで製品を同定することは容易ではないでしょう。
 すなわち再生医療等製品とは、特定の原料細胞の有する自己複製能あるいは分化能(多能性)を利用して、特定の増幅あるいは分化誘導の工程群を用いることで自己複製あるいは分化過程で生じるヘテロ不均一性を想定内の幅(ばらつき)の中に収めて生成させる、特定の細胞系統かつ分化成熟段階の細胞群であると筆者は認識しています。このとき、最終製品において細胞系統あるいは分化成熟段階が特徴的な細胞群についてはその範囲内での同定が可能であり、セルソーターなどの技術により製品として必要あるいは存在してはならない特定の細胞を分離することができると考えます。一方、工程で採用する製造方法およびその条件で細胞群に生じる“個性”の同定と分離は現状の科学技術では難しい場合が多く、製造工程の変更は困難であり、微細な製造手順の変更でも品質に与える影響を考慮して慎重に行う必要があります。

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