再生医療等製品の品質保証についての雑感【第2回】

はじめに
 本稿では再生医療等製品の品質保証に関わる情報について、どの時点から留意すべきかについてお話しします。品質保証において製品開発から治験までにどのような情報を製品開発者と共有すべきか、情報が十分でないことで品質マネジメントシステムにどのような影響が生じるのかについての雑感となります。


● 製品の研究開発時において検証したい設計エビデンス
 前回お話しした現状での細胞製品の品質に係わる特徴より、再生医療等製品は中間あるいは最終加工物の品質管理(QC確認)で製造物の品質維持を実現することは困難で、同時に、製品開発時に設計した製造方法や手順を治験後や商業生産開始時に変更することも難しいと考えます。したがって品質保証としては、製品の研究開発時に設計される製造方法や手順等は商業生産においても踏襲していくことを前提として予め検証を行うことが必要と考えます。
 製造方法およびその手順を検証する時において最も重要なことは、その製造の各手順における「工程特性」を明確にすることです。工程特性とは工程において品質を左右する加工条件などの特性、すなわち「品質の管理に必要な条件」のことです。一般的な製造ではあまりにも当たり前すぎて意識が薄いかもしれませんが、再生医療等製品製造でも同様に工程特性の理解はとても重要で、本来、工程群(プロセス)をバリデーションするためにはその工程特性を理解しその検証(ベリフィケーション)ができていることが前提となります。再生医療等製品の製造では最終加工物のQC確認で工程特性を評価することが困難ですが、それは工程特性が必要無いということではありません。再生医療等製品の品質保証では前述した通り全ての工程がきちんと実施できることは大前提ですが、そもそも工程特性を理解して工程が実施できていなければ同じ製品を製造できているとは説明できません。各工程の工程特性が理解されていなければ工程の実施は単なる形骸となり、何かしらの問題が生じたときにリカバリーすることは困難となります。
 もし臨床開始時(臨床研究・治験)において工程特性がきちんと説明できていなければ商業生産時に同じものを製造できることは信じてもらえず、規制側の理解が得られなければ最悪、製品設計からやり直しになることもあると危惧しています。従来の製造では開発時のパイロットスケールと商業生産で工程が異なることが一般的で、研究開発者が商業生産時までの工程特性を一貫して考慮する必要はほぼあり得ないと考えますが、再生医療等製品開発では研究開発者が品質管理のための工程特性を考慮する必要が生じます。
 このとき特に考慮が必要となるのは製造手順の各操作や時間に許容される幅の設定、すなわちどのようにデザインスペースが確保されているかについてです。細胞は工程中に一定の幅を超えた負荷(衝撃や遅延など細胞の活性に影響を与える動作)を加えれば想定外の状態に変化する可能性があります。そのためデザインスペースの枠を外れた場合は同一品質の製品とみなすことは困難です。また、品質確保のために必要な設計の幅を上記の工程特性とともに準備しておくことは、同品質のものが再現性良く実現できるために必要なだけでなく、商業生産における施設設計時やスケールアップの検討においても重要な情報となります。
 研究開発担当者から製品製造の工程特性とデザインスペースを適切に引き継げなければ、製造管理者が商業生産開始後に適切に品質を管理することはできないし、そもそも要求仕様か示されず準備された施設(構造設備設計)の適格性評価も進められないはずです。現状の細胞加工施設(CPF,CPC)では、特定の製品製造に係る要求仕様を用いずに製造環境(無菌性確保のための要求仕様)の議論しか行わずに構造設備設計を進める事例が往々にしてありますが、本来それでは「製造」はできません。規制側は施設の構造設備設計や品質管理でプロセスシミュレーションテストなどの無菌性検証を最重視しますが、それは製品固有の工程に関わる設備や機器、手順および品質管理などは予め構築されていることが当たり前と理解しているからです。医療機関に設置される“CPC”のような無菌操作のみを重視した汎用性の高い構造設備は、臨床研究や治験のような期間限定で特定の細胞加工物を用時調製する目的としては適切であると考えますが、ある程度まとまった数量の細胞加工物を継続的に供給(商業生産)することを目的とした「製造」を行いたいならば、望むべき構造設備の要求仕様は現状の“CPC”のままでは足りていないことを適切に理解し、開発と製造の橋渡しを推進しなければいけないと筆者は考えています。

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