ラボにおけるERESとCSV【第67回】

2020/08/14 施設・設備・エンジニアリング

望月 清

 

7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。
 
■ YY社 2018/8/3  483
施設:製剤工場(OTC)


■Observation 1
①   OTC製造に使用されている原薬の同等性試験にFTIRを使用している。そのFTIR
  のスペクトルデータを分析者は削除可能なフォルダーに格納している。さらに、
  分析者はIRに付属するコンピュータの時計を調整できてしまい、
  チームリーダーはスペクトルデータを削除できてしまう。
②   OTC製造に使用されている原薬の同等性試験にUVを使用している。そのUVの
  スペクトルデータを分析者は削除可能なフォルダーに格納している。さらに、
  分析者はUVに付属するコンピュータの時計を調整できてしまい、チームリー
  ダーはスペクトルデータを削除できてしまう。

★解説:
機器に生成されたオリジナル・レコードがダイナミックデータ形式である場合、オリジナル・レコードである電子記録を生データとして記録保存期間を通して維持するのがデータインテグリティの基本である。下記文献の「5.6 ダイナミック・レコード(動的記録形式の記録)」を参照されたい。
 医薬品業界におけるデータインテグリティ実務対応
 https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/CT_255_03.pdf

電子記録を維持する場合、その保存期間をとおして電子記録の真正性を確保する必要がある。上記文献に記載されているように、電子記録の真正性を確保には以下が必要とされる。
 •    セキュリティ(アクセス権限)
 •    監査証跡(Audit Trail)
 •     バックアップ
FTIRやUVはダイナミック・レコードと解釈するのが普通である。本事例では、FTIRおよびUVのオリジナル・レコードがセキュリティ(アクセス権限)が確保されていないフォルダーに格納されているため指摘を受けている。試験に係わる職員が生データである電子記録を削除できると、自らが関与した不都合なデータを隠蔽できてしまうとの理由で指摘を受ける。FTIRおよびUVのソフトウェア操作によって削除出来ないようにしておくだけではなく、エクスプローラ等OSレベルの操作によっても削除出来ないようにしておく必要がある。本指摘は、OS操作によって削除できてしまうことを指摘されているように思える。

また、試験に係わる職員が機器の時計を調整できると、自らが関与する試験データをバックデートできてしまう。試験に係わる職員が機器の時計を調整できると、本事例のように指摘を受ける。


■Observation 2
QCはHPLCのプリントアウトしかレビューしていない。OTCをバッチリリースする前に、HPLCのオリジナル電子記録と監査証跡をQCがレビューしていない。

★解説:
機器に生成されたオリジナル・レコードがダイナミックデータ形式である場合、オリジナル・レコード(電子記録)を生データとして維持しなければならない。プリントアウトは生データであるオリジナル・レコードの一部を出力したにすぎない。従って、ダイナミック・レコードのデータレビューは生データである電子記録により行わねばならない。監査証跡などのメタデータは生データの一部であるので、監査証跡などのメタデータを含む電子記録によりデータレビューしていないと指摘される。上記文献「医薬品業界におけるデータインテグリティ実務対応」の表2に記載されているように「監査証跡のレビュー、電子記録のレビューがなされていない」との指摘は非常に多い。HPLCがダイナミック・レコードであるのは言うまでもない。

2ページ中 1ページ目

執筆者について

望月 清

経歴 合同会社エクスプロ・アソシエイツ代表。
1973年山武ハネウエル株式会社(現アズビル)入社。分散型制御システム(DCS)を米国ハネウエル社と分担開発。2002年よりPart 11およびコンピュータ化システムバリデーションのコンサルテーションを大手製薬会社にご提供。2009年より微生物迅速測定装置の啓蒙普及に従事。2014年5月より現職。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

126件中 1-3件目

コメント

この記事へのコメントはありません。

セミナー

2025年7月2日(水)10:30-16:30~7月3日(木)10:30-16:30

門外漢のためのコンピュータ化システムバリデーション

2025年8月21日(木)10:30-16:30

GMP教育訓練担当者(トレーナー)の育成

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

株式会社シーエムプラス

本サイトの運営会社。ライフサイエンス産業を始めとする幅広い産業分野で、エンジニアリング、コンサルティング、教育支援、マッチングサービスを提供しています。

ライフサイエンス企業情報プラットフォーム

ライフサイエンス業界におけるサプライチェーン各社が提供する製品・サービス情報を閲覧、発信できる専門ポータルサイトです。最新情報を様々な方法で入手頂けます。

海外工場建設情報プラットフォーム

海外の工場建設をお考えですか?ベトナム、タイ、インドネシアなどアジアを中心とした各国の建設物価、賃金情報、工業団地、建設許可手続きなど、役立つ情報がここにあります。

※関連サイトにリンクされます