ドマさんの徒然なるままに【第11話】



第11話:リーサル・アカン3/ミステリーゾーンへようこそ!

リーサル・アカン」シリーズ(勝手にシリーズ化しました)の第3作である*1。今回も筆者の経験した“アッと驚く驚愕の状態”を紹介する。しつこいようだが、ここで紹介するものは、GMPとして課題となるポイントを絞り、かつ読者への分かり易い“読み物”として適度の脚色も加えている。決して冷やかしでなければ、まして誹謗・中傷ではない。あくまで、「こんなことをしてはいけない」ということ。と同時に「もし似たようなことや近いことをやっているようなら即刻改善したほうがよい」というアドバイスのつもりでお伝えするものであることを理解して頂きたい。

さて、医薬品製造業者であれば、製剤工場は勿論のこと、原薬専門の工場であっても、何らかの清浄度区分を施したクリーンゾーン(クリーンルーム)を所有しているものと思う。もちろん、清浄度区分に沿ってその環境も管理も異なって来るが、たとえ一般域であっても、そんなことはないんじゃないかと思われるような状況を目の当たりにすることもある。以下に、国内外で遭遇した「そんな、しょーもないシロモノ」を列記する。


クリーンゾーンへの更衣
通常、当たり前だが、クリーンゾーンの入室の際には、更衣・手洗い等がある。その更衣室での出来事。監査当日、本来の応対者(製造管理責任者に相当する者)が突然の事故で出社が出来なくなった。ということで、代理、と言っても製造管理者であるが、その製造管理者御大自らが更衣の説明。ところが、どうも順番がおかしい。壁には、更衣手順が写真付きで掲示されているが、合っていない。悪いけど、こちらは委託先監査と称して何度も経験している。会社や工場は違えど、更衣手順そのものは大差ない。少なくとも一般的手順は熟知している。

筆者:ご説明なされている順番、ちょっとおかしくないですか? コレ、耳かけ
   式のマスクですよね。ヘアネットを先にかぶってしまうと、マスクする際
   に、耳を出して髪の毛に触れてしまうと思うんですが。壁の表示手順とも
   違っているようですし。
製造管理者:あっ、そうですね。失礼しました。この掲示の手順です。まず脱衣
      し、マスクを装着し、ヘアネットしてください。

また次の手順に続く。
筆者:あれっ、ご説明の順番で行くと、グローブ装着後に室内靴に手を触れるこ
   とになるんですが、問題ありませんか?
製造管理者:えっ、すいません。勘違いしました。

『失礼ながら、あんた、クリーンゾーンに何回入ったことあるの? 少なくとも、最近入ってないよね? 製造管理者でしょ。管理監督する立場の者がそういうことじゃ、工場全体に不信感を抱かせること分かってる?』と心の中でつぶやくのであった。

確かに、製造管理者だからといって、製造管理と品質管理の全てを把握している訳ではないであろう。また、手順の細部にまで精通している必要もないであろう。クリーンルームへの更衣・入退室の説明応対は、たまたまのことであったかもしれない。ただ、製造部門と品質部門を管理監督するという製造管理者の立場として絶対にやってはいけないことがある。そう、当局や顧客に対して、当該工場のGMP状況に対する不信感を抱かせ、不安を煽ることである。まして、改正GMP省令では、医薬品品質システム(PQS)の管理まで求められているんですよ。分かってます? 一歩間違うと大変な事態を引き起こしますよ。


更衣室内の怪しいパスボックス
高活性原薬の某受託製造業者の高活性原薬取り扱い室の話である。最終原薬に相当することもあり、封じ込めのみならず、Class 100,000として清浄度管理がなされている。当然、入室時には更衣が入る。内部を確認させて頂き、さて退室の脱衣となる。高活性原薬取り扱いクリーンルームからの退室となるため、脱衣室は入室時の更衣室とは別の一方通行である。が、ちょっと待て。入室時から気にはなってはいたが、妙なパスボックスのような開口部分がある。たまらず聞いてみた。

筆者:これ、何ですか?
応対者:パスボックスです。
筆者:何を受け渡しするのですか?
応対者:作業衣と長靴です。
筆者:パスボックス内はエアーシャワーのような給排気はなされているのですか?
応対者:いえ、そこまではしておらず、単なる受け渡しだけです。
筆者:はっ???

『ちょっと待ってよ。ここ高活性原薬取り扱いのための部屋で、そのための更衣でしょ。退室時にエアーシャワーを通ったわけでもなく、簡単に衣服回りをはらっただけ。原薬の粉塵が作業衣や長靴に付着している可能性が高いんじゃないの? それをそのまま入室側に渡したら、入室側が汚染されちゃうでしょ。異物コンタミの問題とは別に、作業者の安全性に多大なる問題があること分かんないの!』とダイレクトに言いたいところをヤンワリと指摘しましたけど・・・。

監査時の入室は非作業時で、かつビジターとしての入室なので“1回ポッキリ”の使用だったが、通常作業の場合は、作業員が自分の作業衣と長靴を使い回している様子。ちょっと前の話ではあるものの、当時でもPDE(Permitted Daily Exposure)の概念はあったし、そもそも高活性原薬用クリーンルームとして運用してるはず。うーん、作業員の安全性は製品の品質には関係ない? いや、そういう考え方が問題なんですよ。


クリーンルームの完璧(?)な清掃・その1
ショートコント風に記すとこうなる。

筆者:クリーンルームの清掃はどのように?
応対者:室内専用のモップで拭き掃除します。
筆者:アレですか? いま清掃中ってことですかね?
応対者:・・・。

そこには、清掃用具が置きっぱなしにされていた。ちなみに、その日は清掃後の非作業時ということでの入室であった。敢えてジョークとして言うならば、「作業員はどこ行ったんでしょうかね?」といったところである。

ただ、どういう状況であれ、クリーンルーム内の作業室に清掃用具が“もろ開放状態”で置かれていることは、由々しき問題だと思うが、いかがであろうか。


クリーンルームの完璧(?)な清掃・その2
もう1つ、ショートコント風に記す。

筆者:クリーンルームの清掃はどのように?
応対者:室内専用の掃除機で清掃します。
筆者:どのようなタイプのものを使用されていますか?たとえば、品目ごとに
   専用のHEPAフィルター付きのものとかでしょうか?
応対者:いえ、普通の掃除機です。東芝製だったか、日立製だったか。室内専
    用ですけど。品目ごとにはしていません。
筆者:・・・。

掃除機自体がクロスコンタミの汚染源になりうるという認識はまるでないような・・・。考えようによっては、通常作業によるクロスコンタミよりリスクが高いような気がしないでもない。怖い。


臭いニオイは元から絶たなきゃダメ!
アジア圏某国のアミノ酸製造工場での話。最終原薬がアミノ酸のため、アンモニア水で中和晶析させる手順。問題はそのニオイ。室内に入ったとたんにアンモニア臭が。元々が鼻を突く刺激臭であるが、半端なく臭い。屋外じゃないので、逃げ場は空調換気だけ。作業中か直後ならいざ知らず、非作業時での入室なので、半日以上は経過しているはず。異なる品目を続いて作業する場合もあるだろうに。

と思いつつ、通路横の作業台に目が行く。そこには、なんとpH試験紙が剥き出しで置いてある。「これで、中和晶析したんかい!」と思わず、漫才のツッコミの気分を味わった次第である。

ここには、「ニオイの元の物質による次品目への影響」と「品質に影響を及ぼす試験検査備品の管理」という2点の問題が含まれていることは、“言わずもがな”と思う。ただ、より問題なのは、品質リスクの根幹を認識していないという事実である。

ちなみに、本事項の小見出しを見て、「昔そんな消臭剤のコマーシャルがあったなー」なんて思い出す方、結構なお歳だと思いますよ。


ハエにも適した環境です
今度は米国の原薬製造工場での話。非無菌製剤用の最終原薬は、クリーンゾーン内(Class 100,000レベルであるが、具体的な規定はなされていない)での取り扱いとして管理しており、FDAの査察もクリアしていると自慢げに説明。その時、一匹のハエが目の前を通り過ぎる。

そりゃ、良い環境ならば、ハエだって居心地もいいだろうし、元気よく飛ぶわなー、なんて思う筆者であった。ちなみに、応対者は何も言わず、「えっ、ハエなんかいました?」と明らかにとぼけようとする素振りであった・・・。

ちょっとした隙間からも、ちょっとしたドアの開閉時においても、虫は自由気ままに入り込む。絶対的な対策はないとも言える。そのためのインターロック対策であり、時にはエアーシャワーを経由させることで、侵入防止リスクを低減させることもある。今回の場合、そのリスク対策が不十分であったということなのかもしれない。あくまで大事なことは、クリーンルームの管理、浮遊微粒子や微生物限度の数値を満たすことに専念するのではなく、異物混入(当然防虫も入る)や微生物汚染に対するリスクをどれたけ低減させることが出来るかという原点に戻って考えるべき反省材料であろう。


と言うことで、滅多に見られない事例と何となくありがちな事例とを織り交ぜて紹介した。度々で申し訳ないが、ちょっとしたことが大誤解を生み、不安・不信の元になる。うちは大丈夫かな?と思って自己点検等でチェックなされることをお奨めするし、そういう意識を常々持っていることが大事であると考える。なんだ大したことないじゃないか、うちは大丈夫、問題ない、という感覚でおられることこそが、まさに致死的(リーサル)な状態なのです。

では、また。See you next time on the WEB.

【徒然後記】
本話を書いていて、自分でハッと気づいた。QA業務だけでも、ほぼ20年やってるんだと。製造作業も入れれば、GMPに25年以上関わっているんだと。歳をとると時間の過ぎるのが早く感じると言われる。新たな経験が減っていくために脳の刺激が減少するためだとか。確かにそうかもしれない。自分では特に感じていないものの、日々、新たな発見や感動が少なくなったように思える。
と、こんなことを書いていたら、2019年も既に12月に。読者の皆様にとって良い年であったでしょうか。今年が良い年であった方にも、そうでなかった方にも、ちょっと早いですが、来年は良い年でありますように。祈願
それでは、良いお年をお迎えください。


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*1:『リーサル・アカン』シリーズ、勝手にそう命名した。ちなみに、第1弾と
    第2弾までは、以下の通りである。
    第1弾:第1話「リーサル・アカン」
    第2弾:第6話「リーサル・アカン2/そりゃないぜ!」

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