品質マネジメントレビューについて考える (2)

2015/06/22 品質システム

蛭田 修

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はじめに

 前稿にて、ボトムアップ型の日本型経営が、企業ガバナンスの強化の流れの中で欧米型のトップダウンにシフトしつつあることを書いたが、日本の製造業の高度成長の原動力となったボトムアップ型の改善活動は決して無くしてはならないと考える。すなわちボトムアップ型改善をいかにしてトップダウン型経営に取り込むことが出来るかが、効果的な品質マネジメントシステムを構築する上でのキーポイントと言えるのではないだろうか。
 そこで、本稿ではボトムアップ型の改善システムを基本に、それをうまく活用した品質マネジメントレビューの仕組みについて考えていきたい。
 

1.ボトムアップ型改善活動の限界

 ボトムアップ型で改善を進めていった場合、それを実行に移す段階になって、経営資源の投入や大幅な見直しが必要となった場合など、誰が猫の首に鈴をつけるか、議論をした経験はないだろうか。
 また、改善提案がラインに従って上申されていく中で、いつの間にかペンディングとなっていることなども、よく見られるケースである。
 これらの場合の原因としては、たとえば以下のようなことが考えられる。

① 上職者との意思疎通が不十分。

② そもそも課題認識が上層部や経営陣と異なっていた。

③ 意思決定者がはっきりしていない。

④ 後者の場合は、上申されるラインに一人でも不理解者がいると確実にその段階でストップする。

 これらに加えて、自分の所属組織と、本来連携して業務を進めるべき部署とで利益が相反し、なかなか自組織の改善案が受け入れられず実行に移せない、などという経験は社会人なら誰でも有しているのではないだろうか。
 一方、トップダウン式の経営においては、トップがそのポリシーや課題認識を明確に打つ出すことで、社内のベクトルも一つの方向を向き、社内で一体感を持って進めることが可能となる。
 すなわち、現在の経営においてはボトムアップ型の改善活動においても、トップのポリシーや課題認識が明確になったうえで、それらに基づき進めることが必要であり、そのためには、それらを共有化できる場の提供が必須である。

品質マネジメントレビューの階層化

 品質保証活動においても同様であり、現場主導で行われる品質保証活動においても、トップのポリシーや課題認識のもとに行われるべきであり、逆にトップは適切な課題認識を持つために、現場の状況(この場合の現場とは、製造の現場に限らず、当然ながら営業や研究開発、薬事、渉外、人事なども含まれる)もよく把握したうえで、課題を認識し、判断を下すことが求められる。
 その点で、経営層のコミットメントした品質マネジメントレビューは、PDCAサイクルの一環としての位置づけからも重要な意味を持つ。
 筆者は前稿で、一つの方法として、工場長が経営陣となって製造所毎に実施する品質マネジメントレビューと、社長など上級経営陣が出席する本社での品質マネジメントレビューの階層的なマネジメントレビューを提案したが、以下にその具体的な進め方について考えてみたい。図1にはその具体的な進め方のイメージを示した。


図1


 階層的なマネジメントレビューの第1段階として製造所単位での品質マネジメントレビューがある。ここでは工場長等の製造所の責任者が経営層として、主にICH Q10の3.2.4項「製造プロセスの稼働性能及び製品品質のマネジメントレビュー」、及び4.1項「医薬品品質システムのマネジメントレビュー」をベースとして、当該の製造所がレビュー期間に受けた、当局の査察や受託先による監査等の結果やその回答、当局へのコミットメントや、製品品質に関する苦情や回収等の情報、製造プロセスの稼働性能及び製品品質の状況、当該期間に実施された変更の評価に加え、逸脱やCAPA・変更のマネジメントシステムやリスクアセスメントの状況や自己点検の状況等の品質マネジメントシステムに関する事項、更に前回の指示事項に対するフォロー状況についてレビューし、更なる製造プロセスや製品の改善や資源の配分、情報の収集やその提供等について次期の活動についての指示が与えられる。
 第2段階として、本社での品質マネジメントレビューでは、個々の製造所で実施された品質マネジメントレビューの結果やその指示内容等について報告し、改めてレビューされる。また、ここでは本社品質保証部門(例えばGQP部門や、全社の品質保証統括部署等)や生産統括部門の業務についてもレビューされることが必要である。そうすることで経営層が製造プロセスや品質保証業務全体を通して、適切な資源配分や改善の方向性を決定・指示することが可能となるからである。
 ここで第1段階である製造所の品質マネジメントのレビューにおいては、「製造プロセスの稼働性能及び製品品質のマネジメントレビュー」に規定された内容がレビュー対象として比較的大きな割合を占めるのに対し、第2段階の品質マネジメントシステムにおいては、企業や部門のトップが適切にレビューするためには「医薬品品質システムのマネジメントレビュー」に規定された内容がその主体となるべきである。
 筆者の知るところでは、既にこのような形で階層的な品質マネジメントレビューを実施している製薬企業は比較的多い。
 更に、階層的な品質マネジメントレビューにおいて、場合によっては、生産業務に関する品質システムに限らず、製薬企業の有する品質システム全体に関するマネジメントレビューを実施することも有意義である。これはICH Q10の範疇を超えるが、その目的や意義を考慮すると、決して無駄なこととは思わない。製薬企業の有する品質システムとは、例えば、GCP、GLPや申請資料の信頼性基準、GVP、GPSPなどの、医薬品の開発、申請、市販に関する各種規制に基づく品質システムがあるが、それ以外にもインタビューフォームなどの学術資料の作成も品質を保証する必要があり、安定供給システムなど、品質システムの一つとして捉えることができる業務は数多い。これらを一貫したポリシーの元、最新の情報に基づいて経営者が適切な指示や資源配分をすべきと考える。

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執筆者について

蛭田 修

経歴 1980年筑波大学第二学群農林学類卒、明治製菓株式会社(現Meiji Seikaファルマ株式会社)入社。1997年博士(農学)。医薬品原薬製造プロセスの開発研究、品質保証、GMP監査、申請資料の信頼性保証に関する業務に従事。現在、Meiji Seikaファルマ株式会社 品質保証部長/品質保証責任者、東京医薬品工業協会品質委員会委員長、日本製薬団体連合会品質委員会副委員長。 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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